時系列謎の小ネタ。
キャンプデートするお話。
加筆修正してpixivにあげました→
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=22672303
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クッションをいくつも重ねたグランドチェアは、スミスの大柄な身体を柔らかく受け止めてくれる。大きく開いた足の間に収まり、体重をすっかり預けてリラックスしている様子のイサミが、満点の星空を見上げて満足そうに息を吐いた。
「きれいだな、星」
「ああ、すごく」
許されるならずっとこの体勢のまま過ごしたい、とスミスは半ば本気で思っていた。
湖を臨むキャンプ場。広大なフリーサイトは、オフシーズンなこともあってずいぶん静かだ。ぱちぱちと焚き火の爆ぜる音、湖のせせらぎ、虫の小さな鳴き声、それからイサミの静かな息遣い。それだけがスミスの耳を入る全てだ。
「俺はもう、『イサミ座』を3つは見つけたぞ」
「なんだそりゃ。どれだよ」
「ほら、まずはあれとあれ
……それとあれをつなぐんだ!」
いくつかの星を順に指差すと(スミスは間違いなく配置を覚えている)、わかんねぇよとイサミが可笑しそうに笑う。けどスミスには見えるのだ。何を目にしてもイサミのことばかり考えてしまうから。
後ろから抱き込む腕に力を入れて、肩に顎を乗せて甘える。イサミが頬を遠慮がちにすり寄せてきて、スミスはじんと感動に胸を打ち震わせた。
日本とアメリカ、離れて暮らす2人にとって、たまの逢瀬の機会は非常に貴重である。毎回、どんな風に過ごそうかとあれこれ計画を立てるのが常だった。そんな中ふと、イサミがつぶやいたのである。
『キャンプ、してみたい』
控えめな彼が希望を口にしてくれたことに、スミスは歓喜した。希望を聞いてくれる相手として認識されていることを、あらためて実感できたことが嬉しい。
春先の、まだ冷えの残る時期はキャンプのオフシーズンだが、賑やかな場所を苦手とするイサミにとってはむしろ打って付けだろう。スミスは一も二もなく賛成すると、予定よりも長い休暇をとって訪日し、早速あらゆるキャンプ用品を買い揃えようとした──が、イサミに強く止められた。いわく『どこに置いとくんだよ!』とのこと。
そのため、準備した道具のほとんどはレンタル品である。スミスはしょんぼりと肩を落としたが『いずれ一緒に暮らせる日が来たら、その時は揃えようぜ』というイサミの一言で、一気に気分が浮上した。彼の言葉はいつだって魔法みたいだとスミスは驚く。
そうして、イサミの駆るSUVにて、広くて美しいと評判のキャンプ場にやってきたのである。
2人は協力してタープとテントを設置し、2泊過ごすために快適な空間をつくった。イサミはあらかじめミックスしておいたというスパイスで最高のカレーを振る舞ってくれたし、マシュマロを柔らかく焼いてクラッカーで挟む、定番のスモアを楽しんでみたりもした。それから手を繋いで湖畔を散策し、ルルや仲間たちはどうしているかをたっぷり語り合ったのである。
イサミは終始楽しそうに笑っていて、ああ実現できてよかったとスミスは心底ほっとし、彼と同じように2人きりの時間を心ゆくまで楽しんだ。
そしてテントに戻ってきて、今に至る。あとは寝る時間までゆっくりしようぜというイサミに誘われ、一面に広がる眩い夜空を眺めながら、彼の体温を感じていたのだ。
くしゅ、とイサミが控えめにくしゃみする。
「bless you
……やっぱり夜はまだ冷えるな。そろそろ中に入ろうか」
「ん
……わかった」
イサミがもぞもぞ体を動かし、やがてスミスから体温が離れていく。惜しく思いつつも、眠る時はもっとくっつける予定であることを思い出す。
「イサミ、こっち向いて
……ほら、じっとして」
タオルを取ってちょっぴり垂れた鼻水を拭ってやると、ほんのり鼻の頭を赤くしたイサミが不満げに唇を尖らせた。
「んぐ
……ガキ扱い」
「こんなこと、お前とルルにしかしないよ」
「じゃあ、やっぱりガキ扱いだ」
「困ったお姫様だなぁ」
なにも本気で拗ねているわけではないのだ。それはスミスにも伝わっているので、許しておくれと気障な仕草で額にキスをする。それでイサミは満足そうに口角をちょっと上げる。かわいい男だと思いながら、彼の手をとって立ち上がった。
「誰がお姫様だ。
……あ、そうだ。戻る前に、交代でシャワー行かないか?」
いくら人が少なく、防犯に気を遣っていても、夜にこの場を空けるのは不安なのだろう。イサミの言い分はもっともである。気持ちよく眠るためにも汗は流しておきたい──が。
「
……ダメだ。お前を1人では行かせられない」
「は? なんで?」
「危ないだろう! シャワールームは管理棟の近くだ、つまりここからは結構距離がある! こんな暗い中、お前を1人で歩かせるなんて
……」
「
……」
イサミはげんなり、という言葉が似合いの表情を見せる。彼の考えていることなどお見通しだ。20代半ばの男性、それも世の平均的男性よりよほど鍛えている自衛官に向かって何を言っているんだ?と、おおよそそういったことだろう。
「
……時々、お前の目には俺がルルより小さい女の子に見えてるんじゃないか、って思うことがある」
「心情的には近いかもしれないな
……おっとその顔はやめてくれ。小さい女の子が好きなわけじゃない! そのくらい、守りたい存在だってことさ」
「
……ま、そういうことにしておいてやるか」
そういうのは必要ない、とつんと顔を逸らされなかったのは上出来だ。それでもいざというときには、中々守らせてくれないのがもどかしいところであり、イサミの良いところでもある。
「そうだ、まだポットにお湯が残ってるだろ。シャワーの代わりに拭いてあげるよ、体」
「自分でできる」
「背中は難しいだろ? 俺のも頼むよ、イサミ」
「
……わかった」
イサミはやや胡乱な目つきをしたが、こうなってはスミスは決して譲らない性質だと分かってもいるのだろう。頷くと、焚火台を覗いた。あと数分もすれば薪は燃え尽き、灰になりそうな様子だった。しばらく無言で眺めて、すっかり熱を失ったそれを始末し、テントの中へと入ってファスナーを上げた。
2人きりとはいえ互いに中々体格がいいので、調達したテントもそれなりの大きさだ。吊り下げたランタンのスイッチを入れると、並んで腰を落ち着けた。イサミの体を冷やすまいと持ち込んだポータブル電源、こいつのおかげでホットカーペットがいい具合に温まっている。
「あったけぇな」
「だろう? この季節は冷えるって聞いてたから、準備は万端さ」
カーペットの下に敷いているマットだって、どれだけ高くついてもいいから最高の性能のものを!とレンタルショップでさんざ息巻いて借り受けてきたものだ。恋人とのデートで張り切っているのだと伝えれば、スタッフも乗りに乗ってあれこれとアドバイスしてくれた。イサミがその場にいたらたぶん、恥ずかしいからやめろと顔を真っ赤にしていただろう。
「
……色々任せっきりで悪かったな」
「いいんだ。お前はぎりぎりまで仕事だったし、このキャンプデートのことを考えながら準備するのは最高に楽しかったよ。
……どう? 楽しい?」
「
……すげぇ、楽しい」
「よかった
……俺もだ、イサミ」
目を見合わせて、自然な流れで唇を合わせる。そのぬくもりにほっとしながら、ほんの数秒ほどで2人は顔を離した。濡れた唇がランタンの光に照らされて煌めいていた。
「
……イサミ、体拭こうか?」
「あ、ああ。そうだった」
イサミはぺろと、濡れたそこを舐める。スミスは彼の赤くなった頬に戯れのようなキスをすると、2枚のタオルをポットの残り湯で濡らした。いい具合に温度が下がっていて、これならばイサミの肌を傷つけずに済みそうだった。
「
……脱いで、背中をこっちに」
「わ、かった
……」
イサミはジャケットを脱いで律儀に畳むと、それからシャツをやや緩慢な仕草で脱いで同じように整えた。残るはアンダーウェアだが、彼は何か、躊躇している様子だった。
「イサミ、どうかした?」
「いや
……なんか、照れるっつーか」
「脱がせてやろうか?」
「い、いい!」
裾に手をかけると、イサミは思い切った様子でひと思いに最後の1枚を脱ぎ捨てた。畳まれなかったそれがはらりと脇に落ちる。日に焼けにくい背中は滑らかだ。うなじにひとつ、鬱血痕がある。昨夜、明日は遊ぶんだから痕つけるなよときつく言われながらも、どうしても痕跡を残したくて吸い付いた部分だった。たぶん、イサミには気づかれていない。
イサミはすべてがきれいだが、ぴんと伸びた背筋は彼の生きざまを表しているようでひときわ美しい。
「
……タオル、1枚寄こせよ」
「ん? あ、ああ、悪い」
肩越しに手渡してやると、イサミは早速己の腕を手早く拭き始める。見惚れている場合ではない、タオルがすっかり冷たくなる前に済ませてしまおう。
力の加減が掴めないまま、まずうなじを拭う。イサミの肩が震え、
「くすぐってぇよ。もっと力込めていい」
そう笑うので、スミスはほんの少しだけ力を入れた。
「イサミを傷つけたくないから」
「
……いつも噛みついたりするくせに?」
「それを言われると弱いな。けど、傷跡は残らないように、頑張って加減してるんだぜ?」
そうでなかったら、イサミの体は今ごろそこらじゅう歯形まみれだ。キスマークだって、目立つところに1ヶ月は残るくらい強力なのをつけるだろう。
歪みなくまっすぐ伸びた背骨のくぼみ、きれいに浮き出た肩甲骨。気持ちいい、と少しばかり悩まし気な声に耳を傾けながら、彼の手の届かない部分を清めていく。腰のあたりにほくろが2つ並んでいることを知っているのは、自分だけだといいなと思った。
ほんの少し覗いた尻のくぼみまで拭って満足し、仕上げとばかりに肩甲骨にちゅっとキスをする。
「あっ、こら
……今日はやんねーからな」
「分かってる。良かったら下も拭いてやろうか?」
「いらねぇ! ほら、次お前の番! あっち向けあっち!」
「はいはい」
上着からインナーまで躊躇なくすべて脱いで、隅に塊のようにして置く。別にいますぐ畳まなくたっていいだろう
……几帳面、というよりそういうふうに指導されているらしいイサミは嫌そうな顔をしたが、今日は仕事ではなく遊びに来ているのだ。
イサミに背中を向けると、でっか、と感心したような声。
「改めてどうしたんだ?」
「いや、でけーなと思って。いいよなこのあたり
……俺は鍛えてもここまででかくなんねぇから」
僧帽筋をぺちぺちと叩かれる。人種や体質の違いでどうしても筋肉量や質に違いは出てくるが、イサミだって日本人にしては良く鍛えられているほうだろうとスミスは思っている。特に胸筋の感触が好きだった。普段はふかふかとやわらかいのに、体を重ねているときには緊張で硬く強張って震えるのだ。それからもちろん、臀部の方も。
イサミの手つきにはしっかり力が込められていた。だが痛い、の一歩手前の心地よさだ。肌は丈夫な方だと自負があるので、このくらいでちょうどいいし、気持ちがいい。しかし、タオル越しとはいえ彼に背中を撫でられているという事実に、だんだん気持ちが高ぶってきてしまうのには困ってしまった。ちら、と見下ろした下半身はまだ大人しくしているようだったが、あるいは時間の問題かもしれない。
「どうだ? 気持ちいいか?」
「ああ
……う、うん、最高だ。思ったより汗をかいてたみたいだな。すっきりするよ」
問いかけへの答えは、ちょっとだけ声が上ずってしまった。
「
……スミス、なんかお前
……」
イサミは手を止めると、タオルを手離したようだった。どうしたんだと疑問を呈す前に、背中のちょうど中心あたりに何か温かいものが触れる。
「い、イサミ? 何をしてる?」
「
……お前、心臓すげぇうるせぇのな」
どうやら耳を当てられている、ちょうど心臓のあたりに。
「そ、そりゃどきどきもするだろう!」
「ふーん
……お前、俺のこと好きだよなぁ」
「当たり前だ、そんなの!」
改めて言われるまでもない、不変の事実だ。たぶん死の間際まで決して変わらない。
イサミの耳が離れる。スミスは体を反転させた。きっとイサミは得意げな顔をしているのだろう、その表情を確かめてから、思い知らせるようにキスでもしてやろうと思った。
だが予想と反して、イサミは嬉しそうな、照れくさそうな、そんな顔をしながら頬を真っ赤に染めていた。それがあまりにかわいいので驚いていると、イサミははにかんだ顔で嬉しい、と呟いた。
「
……俺も、好きだ。スミス」
「イサミ
……ああ、俺も。お前のことが、心から好きだ
……」
たまらず抱き寄せると、むき出しの肌が重なって熱い。先ほどまで煌々と燃えていた焚火みたいだった。
このままではどうしたって襲い掛かってしまう、とスミスは必死の思いで己を制し、イサミから離れることに成功した。2人はお互い背中を向けあって下半身も清潔にして、さっぱりとした寝間着に着替える。髪をくしゃくしゃかき交ぜて前髪を下ろしたイサミは、『自分だけが知っている素の顔』という感じがするから好きだった。実際には、目にしたことのある者は何人もいるのだろうが、それはさておき。
これだけは譲れない、と唯一レンタルではなく購入したのが、現在目の前に広げられている2人用のシュラフである。封筒型で、ぴったり並んで眠れる最高のアイテムだ。いくら清潔にクリーニングされていたとしても、誰かが使った寝具にイサミを入れたくないというのがスミスの譲れない考えであったのだが、それじゃあホテルもダメじゃんというイサミからのつれない一言は、耳に入っていないふりをした。気分の問題だ。シュラフは特に包まれているような感覚が強いので、中古品ではどうにも気に入らない。イサミを包むのは自分の体ひとつあればいい!と思っているくらいだ。
寝支度を整えてシュラフにもぐりこむ。サイズはぴったりだ。なんたって、用品店で実際にいくつものシュラフに横になって決めたのである。
「お前、あったけぇな」
イサミが体を摺り寄せてきて、喜び半分、手を出せないもどかしさ半分、くらいの葛藤で手を震わせながらも肩を抱き寄せた。
「明日は早起きして、また散歩行こうぜ」
「そうだな、朝の湖畔はきっと気持ちがいい」
「ボートも漕ぎたい」
「いいなぁ。でも訓練みたいになるのはNOだ」
「やらねーよ。ゆっくり楽しもうぜ」
「それから釣りも
……お前とやってみたいこと、いっぱいある」
「俺もだよ」
たっぷりの愛情をこめてつむじにキスをして、スミスはうなずいた。
逢瀬の時間は限られていても、今は宇宙からの侵略者もいない。2人にはゆっくり愛をはぐくむ権利があった。誰も咎めやしないし、咎めさせやしないだろう。
「イサミとならどんなことでもやりたいし、きっと何をしたって楽しい。どんなことでも叶えてみせるから、何でも言って、darling」
「なんでも?」
「ああ、なんでも」
断言して見せると、イサミは考え込むそぶりを見せる。たとえば『ブレイバーンに会わせて』なんて言われたら、どうにか姿を変えて見せよう。イサミへの想いが高まるとあの姿を呼び寄せることができると気づいたので、おそらく可能なはずだ。イサミにはいつもこの上なく思いを募らせているので。
日本のキャンプ場に顕現したとなれば、またかの愛すべき大将の胃を傷めてしまうのが心苦しいところだ──
…
しかしイサミの口から出たのは、こんな願いだった。
「じゃあ
……日本とアメリカ、五分で行き来できるようにする、とか?」
「イサミぃ
……そんないじわるでかわいいこと言って! 君にとってのアメリカが俺とルルなら、きっと遠くない未来に叶えてみせるよ」
「本当か?」
「本当さ。私に、ブレイバーンに誓って」
「
……じゃ、信じる。お前は、ブレイバーンは、約束をやぶらないから」
「ありがとう。
……さ、そろそろ寝ようかお姫様。早起きするんだろ?」
満足したらしいイサミが、うん、と頷いて胸に顔を押し付けてくる。そうしていると落ち着くらしかった。彼の安眠を守るべくしっかり抱き寄せてやってから、スミスは目を閉じた。
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