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ガラシャ
2024-07-20 23:12:00
4530文字
Public
オメガバース
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Crime and Punishment 3-2
――
この時期になると、そろそろ就職試験が始まる。本来ならば、期待と不安で揺れていることだが、ここのところ和也には焦りしかなかった。
この数か月、和也は自分の体が変質していく怖さに怯えていた。自分ではない何かにメタモルフォーゼしていく恐怖
…
だが現実は変わらない。和也は就活生であり、既に就職活動は始まっているのだ。
大学の就職支援課に訪れた和也は、そこで思わぬ壁にぶち当たることになったのだった。
2回目にヒート後から、体調を崩してしまい2週間ほど家に籠りっきりの状態になった。その期間中に、参加しようと思っていたセミナーがあり、その資料を就職支援課にとりにいた時の事だった。
「高見くん、君、もしかしてΩ登録をしていないのかな?」
窓口で対応してくれた大学職員は和也を見るなりそう告げた。
「どういう意味ですか?」
和也は眉をひそめる。就職支援課に何度か来ているか、そんなことを言われたのは初めてだったのだ。
「気に障ったら申し訳ないのだが、Ωはαやβと違って、就職先が限られてくるんだよ。知らなかったかな?」
当然というように告げられて、和也は自分の状況を伝えざるを得ない。
「俺
…
実は数か月前までβで
…
」
「そうか。バース性が変質することがあるとは聞いたことがあるが、君もそうなのか
…
。しかも男性Ωとは」
「どういうことですか?」
「ただでさえΩはαより出生率が低くてね。特に、男性ΩはΩの中でも5%ほどで残りは女性Ωだ」
「
……
」
「そのことも知らなかったようだね。
――
βだった君は知らないだろうが、Ωは就職先が限られてしまうんだ。いや、言い方が違うか。αやβと同じ職業についたとしても、制限がどうしてもかかってしまう。3か月に一度の発情期は避けようがないからね。抑制剤で安定をするΩは多いが、人のよっては薬が合わないこともある。そのこともあって、Ωの就職率はαやβに比べて低い。それ以前に、Ωは社会に出る年齢になる前にαに囲われてしまうことも多い」
和也は絶句する。そんなことがあるとは知らなかった。
「君にはαの番がいるだろう?彼か彼女かは分からないが、君の番はきっと、君を社会に出すことを良しとしないかもしれない。Ωが社会に出ることは危険が高いし、ハードルは高いんだ。よく話し合った方がいい」
番と言われ、2回目のヒートを思い出す。ヒート明けでもう玲二を求めていないのに、嫌がって逃げ出そうとする和也を玲二は散々犯した。その日から体調を崩してしまったのだ。ただでさえヒート中は衰弱するのに、玲二の容赦がない責めに心身ともに疲れ果ててしまったのだ。
久住病院で診察してもらい、毎日のように点滴も受けていた。それでようやく快方に向かったのだ。
「わたしもαでね。Ωの番がいるから、君のフェロモンに惑わされることはないのだが
…
それを引いても、君の匂いは随分と馨しいものだ。君の番の匂いが纏わりついているから君は守られているが、ネックガードもしていないし、本来なら一人で歩くのも危険だ。
――
もっと用心した方がいい」
「
……
」
Ωになった途端、こんなにも生きづらさを感じることになるなんて
…
。
和也は呆然としながら、資料を持った手が震えて仕方なかった。
――
午前1時半
…
自車で自宅に戻った玲二は、2階の自室へと向かった。週末ということもあり、客が多かった。
疲れを感じながらコートを脱いでハンガーにかけた所でコンコンと扉が叩かれる。この家で、玲二の部屋の扉をノックするのは一人だけだ。
和也はまだ起きていたようだ。リビングや和也の部屋の明かりはついていなかったので、すっかり寝入っていると思っていたのだが。
やや間があって扉がゆっくりと開かれる。和也はパジャマにカーディガンを羽織っていた。
「どうした?」
「
…
話がある」
和也の顔は以前に比べやつれている。ヒート中はほぼ固形の食事をとれないため、少なくとも3㎏は体重が減る。ヒート明けから日が経っておらず、まだ体重が戻っていないのは当然だろう。
だが、焦燥した顔の割には、双眸は強い光を湛えていた。何かを決意した。そんな顔だ。
玲二は微かに片眉を上げベッドに移動し、隣の席をたたく。
「ほら、座れよ」
「
…
ここで、いい」
和也は部屋に立ち入ろうともしない。暗い廊下に立ち、玲二と距離を取ったままだった。それがますます和也の決意を感じさせる。
「
――
で、話って?」
玲二がやや間を取って問いかけると、強い意志を持った目で和也は玲二を見やった。
「番を解消したい」
「はあ?」
「今日、大学で言われた。Ωになったら就職は高いハードルになるって。俺、Ωが就職しにくいとか知らなかった。こんなことになるなら、番登録なんてしなかったのに」
2回目のヒート明け後、久住病院で診てもらい、和也は完全にΩになったと認められた。病院で証明書を発行してもらい、そのまま玲二の運転で役所に番登録をしに行ったのだ。
仕方がなかったというのが和也の本音だ。婚姻届けとは違い、保証人がいらない。二人の署名だけで済んでしまうため、証明書に署名と捺印をしたのだ。
『さっさと書けよ』
先に書き終えた玲二が促す。半ば、強引に書かされたその書類は、和也が手に取る前に玲二が奪い去り、自ら窓口に提出した。
窓口職員が『おめでとうございます』と玲二に声をかけているのを聞きながら和也は呆然としていた。何か取り返しのつかないことをしてしまったのではないか
…
そんな焦りに駆られていた。
『これでお前は俺のものだ』
和也の元へ戻ってきた玲二は、凄みのある笑みを浮かべていた。周りの者たちが魅了されるほどのαの気配をまき散らし、ただ和也へ熱のある視線を向ける。
和也はその恐ろしさに身震いし、目を伏せるのだった。
――
そんなことがあったのは、もう10日も前だ。
「
――
お前が俺をβからΩに変質させたなら、その逆もできるだろ?俺をβに戻してくれよ。そうすれば、俺も就職できる」
就職するために大学に通っていたわけではないが、それを目標にしてきたのは確かだ。社会に出て自分で稼ぐ。βの男であれば当然の未来だ。当たり前のことが当たり前にできないかもしれない危機を感じていた。
――
大企業であれば雇用義務があるが、中小企業と呼ばれるところはそもそも義務がない。大企業であればあるほどα率も高く、Ωにとっては狭き門である。
母はΩであったが、大企業にキャリアウーマンとして勤めていた。それは母の努力であり、抑制剤も体に合っていたのだろう。そんな中で和也を育ててくれていたのだ。
「なあ、頼むから
…
」
滅多に玲二に頼み事などしない和也の真摯な言葉だった。和也をいくら抱いても、和也がねだるのは快感に翻弄されている時だけだ。玲二に依存することもなければ、玲二を縛り付けることもない。
和也の項を噛んで番になっても、正式に番登録をしてもこれだ。
――
和也は玲二のことなど考えていない。
哀願ともとれる科白に無言で和也を凝視していた玲二は、ゆらりと立ちあがった。
「こいよ、和也」
――
玲二が呼びかける。
「ほらこい。俺にβに戻してほしいんだろ?」
和也はほっと息をつく。玲二が怒るだろうと予測していたが、そんな気配はない。いつもと変わらない無表情でそこにいるだけだ。
和也は安堵しながら、玲二に近づいた。
玲二の手が和也に向かって伸ばされる
…
腕を掴まれた次の瞬間、和也はベッドに押し倒されていた。
「なっ
…
」
見上げた玲二の顔は無表情だった。だが、眦だけは冷たく和也を見下ろしている。
「てめえは本当に、いつまでたっても、俺を苛立たせるな。
――
番を解消するだ?βに戻せだ?今更、何言ってんだ?」
「だって、そうでもしないと俺は
…
」
自分が自分である意味をなくしてしまう。今までβとして生きて玲二と対等に向き合うと決めたのに、Ωになってしまったら意味がなくなる。
「そうやって、俺から逃げる気だろ?俺からまた離れる気だろ?」
和也は息を飲む。無機質な声だった。完全に玲二が凍てついている時の声だ。
「やっぱり、いつまでたっても、俺とお前は対等なんかじゃねえな。俺ばっかりが欲しがって、お前は俺を欲しがろうとしない」
「
……
そんなことないって、言ってるだろ?」
押し倒されながらも和也は言い返す。玲二との肉体関係を受け入れてから、和也は和也なりに玲二のことを思ってきた。玲二がそれだけで満足していたいのは、日々の言動で理解していたが、和也は正直なところわからないのだ。
玲二が和也に望む想いがどれほどのものか、本当にわからない。激しい執着と同等の感情を返せと言われても、和也の心は和也のものでしかなく、玲二に支配されるわけにはいかない。
――
そもそも想いなど計れない。
だが和也は和也なりに、玲二を家族として案じてきたつもりだった。
「俺は俺のやり方で、お前の身も心も手に入れる。
――
番の解消なんて絶対にしてやらない。お前は一生、俺の番なんだからな」
「うっ
…
」
和也は思わず、自分の鼻と口をふさぐ。玲二から静かに漂う匂いが一気に強く漂うようになったからだ。
この匂いはだめだ。何も考えられなくなる
…
。
玲二はにやりと笑い、和也の耳元でささやく。
「ほら、自分から服を脱いで、お前のいやらしい部分を俺に見せてみろ」
(いやだ
…
だめだ
…
!)
和也の意志とは反対に、震える手がパジャマの釦にかかる。和也がいくら心の中で拒もうとも、玲二に命じられるがまま指先が釦を外していくのだ。インナーシャツもたくし上げ胸元をさらす。
それは下肢も同じだった。自分で微かに腰を上げ、スウェットごと下着も下ろしてしまう。
膝まで下げた所で、和也は玲二をちらりと見上げた。玲二の双眸は血走っている。和也が自ら白い肢体をさらしていることに興奮している。
それが無性に面白くなり、和也ではない何者かが微笑む。和也の目元が柔らかい形に細められ、唇が笑みに歪む。それは和也の意志に反したものだった。
(違う
…
!俺は
…
)
玲二を誘うには十分だ。すぐさま唇を覆われ、舌を根元から絡めとると激しく貪られる。腕もベッドに縫い付けられ、膝のところに残っていたパジャマを奪い取られた。そのまま足首を掴まれて、大きく足を広げることになる。
「ん、ん
…
」
(だ、め
…
)
自分ではない何者かが、自分を支配してく。メタモルフォーゼなんていうものではない、和也は明らかにΩである自分に支配されつつあった。
ゆうるりと玲二に伸ばされる手、誘うように開かれる脚
…
、和也がβであったままならば、こんな状況で玲二にすがったりはしない。
「ひぃ、あ
…
」
孔から何かがあふれ出す。どろりと感触が溢れていく。和也は自分の身に起こっていることにあらがえない。αのフェロモンを真っ向から浴びせられ、ヒートが起こってしまったのだ。
和也の意識はゆっくりと遠ざかっていく。もう意識を保っていられなかった。
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