もしも、本当の兄弟として育ったら…③

第三段です。ちょっと不穏かな。



 ――和也はバスケ部に所属している。中学部でも入っており、そのまま所属している。他の部員も中学部からの所属が多く、気の知れた仲間であった。
 先ほどまで試合形式の練習をしていたのでみんな息が上がっている。各々がスポーツドリンクや水筒を煽っていると、体育館を見下ろす観客席が俄かに騒がしくなった。
「あ~今日もそんな時間か」
 みんなで壁に背をつけている。その壁の上に観覧席があるため、様子はうかがえなないが、何があったかはすぐに思い当たる。
 中高一貫の進学校であるこの学園の放課後の名物といえる。
 和也の弟である玲二が、バスケ部の練習を見に来るのだ。無論、玲二の目的は和也だ。何をするわけではないが、和也の部活姿を見に来るのだった。
玲二は学園一の美形と名高い。玲二は当然群れない。当然遠巻きにはなるが、ぞろぞろと生徒たちがついてくる。
「高見、顔みせてやれよ。弟はお前のこと見に来てるんだしさ」
「え、やだよ」
 ペットボトルを煽っていた和也は相沢の促しに、だるそうに答える。実際、先ほどまでの試合形式の練習でくたくただった。
「可哀そうに。折角、弟が来たのに。塩対応すぎんじゃねえ?」
「いやいや外では塩対応だけど、家の中ではよしよしして甘やかしてんじゃねえ」
「いやだから、それはないって」
 どうやったら自分より大きな弟をよしよしして甘やかすというのだ。だがこのやり取りもいい加減飽きた。
 彼らとて和也との付き合いは長い。揶揄っているのがわかる。
「まあ、弟が見に来てるお陰で、俺らの試合の観客も増えてバスケ部入るやつも増えたから、結果的にはいいんだけど」
 ある意味でwin-winだ。
「ホントお前の弟ってさ、お前のこと好きなんだな」
「てっきりさ、中学になったらバスケ部入るかと思ってたのに。身長高いし、体格もいいしさ、運動神経も悪くないだろ?」
「うん、でもなんか違うらしい」
 和也も玲二に聞いたことがあるのだ。バスケ部にはいるのかと。だが玲二は首を振った。
「ふ~ん。まあ、いっか。さ、もう一回行きますか」
 交代の声が上がる。各々立ち上がり、コートにでる。和也がちらりと観覧席を見上げると、玲二と目が合った。
 無表情は変わらないが、和也を認めた途端、なぜだか眦の圧が強くなった。
 案の定、玲二の周りは遠巻きに眺めているだけで、隣に座ろうとする猛者はいないようだ。
「高見、はやく」
「おー」
 呼びかけられ、玲二に背を向ける。最近、玲二と過ごすのが少し怖くなってきている。つい1か月前、玲二の望むものを知ってしまってから
だからというわけではないが、せめて学校にいるときは玲二の存在を忘れたい。そんな思いを持ちながら、仲間の元へ急ぐのだった。

 ――午後6時半、和也が自宅の玄関を開けると、まだ両親は帰っていなかった。リビングに入ると玲二がだらしなくベッドに寝そべってテレビを見ていた。
「汗かいたし、風呂入ってくる」
 そのうち両親も帰ってくるだろう。今日は母が少し遅くなり、夕食は父が作ると言っていた。なんでもできて器用なのに、父は料理だけは苦手だ。和也の方が上手だといってもいい。父が帰ってきたら手伝ってあげよう。
 和也はシャツを脱ぎ、ふと鏡の前に立つ。何気に自分の体をみるが、小さくため息をついた。いくら食べても運動しても筋肉も贅肉も付かない。華奢ではないが、どうも男としての迫力には欠けている気がする。父や玲二の方がよっぽど逞しい。体重だって身長だって二人には劣る。
 その時であった。がちゃりと扉が開き、玲二が顔をのぞかせた。
「なんだよ」
「別に」
 そういったわりには玲二はどかない。それどころか、和也に近寄ってくる。近寄ってきた玲二はじっと和也を見下ろす。
「今日、テストの結果が返ってきた」
 その台詞に和也は息を飲む。
「学年一位だった」
 手を伸ばした玲二が、するりと和也の肩を撫でる。それだけでぞくりと何かが泡立つ。
「だから今晩、覚悟しとけよ」
 和也の喉がひくりと震える。そんなことを言うために、わざわざ脱衣場に来たのだろうか。
 自分の言いたいことを言い終えると、玲二は去る。和也は重い溜息を吐く。やっぱり弟は逃してはくれないのだと気づいて。

 ――6時ごろには父が帰ってきて、一緒に食事を作った。父としては育ちざかりの息子二人に腹いっぱい食べさせたかったようでトンカツをつくった。和也は父をメインに集中させるため、副菜や汁物をつくる。
 まもなく母も帰ってきたが、既に食べ終えていた和也は自分と玲二の食器の洗い物を済ませると、部屋に戻ることにした。
 父と母は仲睦まじい。子育てもひと段落したこともあって、ふたりの時間を大切にさせてあげたいという思いもあった。
 そして当然のように玲二もついてくる。勿論自室ではなく、和也の部屋だ。
 ――玲二と自室で二人きりさして珍しくもない、それこそ毎日のことであるが、和也はこの1か月何度も逃げたくなった。
「なんだよ。俺にご褒美くれるんだろ?」
 そういって、ベッドに腰掛けた玲二は自分の膝を叩く。
「さっさと、ここに座れ」
 小さい頃はよくあったのだ。和也が玲二を膝に抱き込んで、きゃあきゃあとふたりで遊んでいた。
 だが、それは可愛らしい幼子のことであり、高校生や中学生になった兄弟二人がすることではない。
「なあ玲二。やめない?」
 一縷の望みをかけて、玲二に訴えるが、玲二の黒眦は揺るがない。
「んなわけにはいくかよ。俺がくそ真面目に勉強してやってんだから、褒美くらい寄越せ」
 和也は渋々とベッドに向かう。玲二の膝にゆっくりと腰掛けると、すぐに体に腕が巻き付いてきた。
「ちょ、玲二あっ」
 首筋に顔を埋めてくる。玲二の息がかかりそのくすぐったさと、してはいけないことをしている気がして和也は身じろぐ。
「だめ、だって!」
玲二の腕を掴んで和也が抵抗すると、そのままベッドに押し倒された。腕をベッドに縫い付けられ、玲二に見下ろされる。
見慣れたはずの美貌の弟の顔が、見知らぬ他人のように見えて和也の鼓動は跳ねた。脚も玲二に絡めとられ、内股を開いているような形になる。
――だが。
 玲二の黒々とした眦の奥が揺らいでいる。それに気づいた和也は、ゆっくりと手を伸ばし、そっと頬に触れた。
「お前何が不安なんだ?」
 玲二は鋼の神経を持ち合わせている。それは誰よりも和也がよく知っているが、今の玲二を不安にさせる何かがあるのだと和也は気づいていた。
「だって、これぐらいしなけりゃ、お前、俺の事意識しねえだろ」
「意識って何言ってるんだ。俺はお前の事、弟としてちゃんと好きだぞ?ずっと一緒にいて、お前のことを一番わかってる。それじゃ、だめなのか?」
 あまりにも一緒に育ちすぎたのかもしれない。別々の人格を持った人間なのに、あまりにも近すぎたのだ。玲二は和也が自分の一部だとでも思っているのかもしれない。
「俺の弟は玲二だけだし、玲二の兄ちゃんも俺だけだ。わかってるだろ?」
「それじゃ、だめなんだよ。兄弟じゃダメだ」
「何言ってあっ」
 玲二の手が腰の線を辿り、シャツの下に手を忍び込ませてくる。その手の冷たさに和也は慄く。
「だってお前、俺から離れていくだろ?俺に黙って、留学しようって思ってんだろ?
――俺に相談もなしで、何ひとりで決めてんだ」
「お前知って
 両親には口止めしていたのに、なぜ玲二が知っているのか。
「当然だろ?うちの学園で英語トップのお前の進路先なんて、噂で流れてくる」
……
 和也が母の影響もあり英語が得意だ。学園でもトップの座を譲ったことはない。
「俺はお前が隣からいなくなるなんて認めない。でも行っちまうんだろ、お前は。鬱陶しい弟を日本において、自分で勝手に世界を広げるんだ」
……
「だったら、俺はお前のナカに自分を刻み込む。お前が嫌だって言っても、絶対俺は、お前を離さない。
――だから、セックスしたい。お前にキスして、お前からも返されて。お前と気持ちよくなりたい」
 耳元で熱く囁かれ、和也は動けなくなった。玲二の息は荒々しい。鼓動も熱く、全身に巻き付いてくる腕も足もさらに強くなる。
そのまま5分ほど、時間が過ぎる。玲二も動かないし、和也も動けない。だが、徐々に鼓動が穏やかになることに気付いていた。
 恐らく今日はこのまま和也が大きく溜息を吐いたところで、玲二が最後のとどめのように囁いた。
「いつか、ここにぶち込んでやるからな。」
 ぞろりと耳たぶを舐められながら、指先で尻の合間をなぞられる。和也はまさか玲二がこれほどまでも自分に執着しているとは思わなかった。
 ブラコンをこじらせているとは思っていたが、こんなに熱い思いを抱えているとは。和也は動けなかった。ここで玲二を刺激してしまえば、一気に雪崩れ込んでしまうそんな危惧があった。
 和也は微動だにせず、玲二が触れてくるのをただ受け入れていた。それが余計に、玲二の焦燥感を煽っていると知らず


∞∞∞

これから不穏な兄弟関係が始まりますでもきっと、逃げられないだろな、和也は。

プライベートの忙しさもあり、最近、話があまりかけていませんが、オメガバで3万時近い話に挑戦+893パロの続きをちょこちょこと書いています。パロディばっかり書いてます。
原作ベースの甘い話は縛恋が発売されるまでは思いつかないかも