ガラシャ
2024-01-07 19:42:26
5720文字
Public 渇愛原作軸
 

SALOME 2ー1

あけましておめでとうございます。
2024年最初の更新です。明人×和也で新装版をもとに書いています。


 ――そろそろ就職活動も本番。企業説明会やセミナーに参加を重ねるとそれなりに行きたい道が見えてくる。
 本命というべき会社への訪問を前に、和也は微かに緊張していた。着なれないリクルートスーツの裾を引っ張り軽く整える。
 設立されてまだ10年だというのに、オフィス街の高層ビルのワンフロアがその会社の持ち物だという。
 目当ての人物である倉岡がこちらに歩いてきた。
「よう高見。久しぶりだな」
「先輩。お元気そうで」
 同じ高校のバスケ部で大学も同じ。さらに同じ教授のゼミということもあり、倉岡とは親しい。高校もゆるい雰囲気のバスケ部だったので、二つ年上である倉岡が部長として、みんなをまとめていた。
 体育会系の体格で長身である倉岡だが、警戒心の強い和也が心を許す数少ないひとりともいえる。
 和也が20歳を超えてからはちょくちょく飲みに連れて行ってくれたこともあり、警戒心の強い和也にしては懐いている方だった。
「お前最近、バスケしてるのか?」
「いえ、全然。なんか忙しくなってしまって」
「あー、ご両親が亡くなってから、弟の世話してたもんな」
 高校時代からの知り合いなので、和也の家の事情もそれとなく知っている。
「弟とはまだ一緒に住んでるのか?」
「ええ、まあ
「そっか、大変だなお前も」
 労わるように肩に手を置かれ、和也は思わず苦笑いする。倉岡は同じ時期に通っていたわけではないが、うわさは聞いているらしい。
「俺さ、バスケの社会人チーム作ってるんだ。お前も就職したら入れよ」
「俺なんて身長と体格で負けちゃいますよ」
 バスケ選手は総じて高身長だ。中学時代はそれほどそん色はなかったが、高校時代の部活の仲間たちもやはり総じて高身長だった。その中では和也の背は低い方であった。
「お前はボールカット得意だったじゃん。でかいやつらが持ってるボールをお前がカットするとさ、一気に流れが変わることよくあったもんな」
 身長と体格が敵わない分、隙をついてボールを奪う。和也が得意としていたことだ。この2年ほどボールにさえ触っていないが、いつかは再開したいとも思っていた。
「あ、そういや。エースとマネージャーは何回かくっついて分かれてして、授かり婚したらしいわ」
「へえ。よかったですね」
「今度、出産祝いもって遊びに行くつもりなんだけど、お前もいくか?」
「俺が行っても迷惑じゃないですか?」
「高見なら大丈夫だろ。なんせお前は、マネージャーのお気に入りだったし」
「いやあれは、こき使われていたような
 同世代の男子に比べ、和也は家事全般に関しては母子家庭だった頃からしていたので当然のようにできる。
 女子よりも手慣れた様子に、和也はよくマネージャーの雑務に駆り出されていた。
 すっかり話は学生時代の部活の話になっている。
 真面目に就活をしているつもりだったのに、こんなのでよいのだろうか。
「いいんだよ。社会人になったら、滅多に休めなくなるんだし。息抜きの方法見つけとかないと、病んじまうぞ」
「そういう先輩は、俺で息抜きしてるってことですね」
「まあ、そういうこと」
 ふたりで顔を見合わせて笑い合う。この企業に就職したら、こんな感じで倉岡と笑い合う日々が続くのだろうかそれはそれで面白い気がする。
 ――が、その賑やかな想像図が一瞬で乱される。
 コツコツと規則正しい靴音が近づいてきたと思ったら、間近でそれは止まった。
――何とも楽しそうだな。しかし、将来有望な就活生で息抜きするのはいかがなものかな」
「今日は出勤される日でしたか」
 思いがけないということが一番ふさわしい。
 ――なぜこの男性がここに。そんな疑問を持ちながら呆然としていると、倉岡が和也の肩を抱いて髪をかき乱す。折角ジェルで整えたのに、簡単に乱れてしまう。
「こいつ俺の後輩なんですよ、かわいいでしょ」
「ああ、本当に。初々しいなあ。
 ――君がそんなにスーツが似合うとは思っていなかったよ、和也君」
 親し気に名を呼ばれ、倉岡が驚いた声を上げる。
「お久しぶりです
 肩を抱き込まれたまま倉岡に覗き込むようにみられ、和也も答えざるを得ない。
「なんだ、お知り合いだったんですか?」
「他で関わりがあってね」
「へえ、そうなんですね」
 倉岡が感心したように言い、そのついでに腕時計を見やる。
「あ、そろそろ俺、戻らないと。高見、一緒に来るか?」
「はい」
 今日の目的はOB訪問なのだ。倉岡がどんな仕事をしているか、じっくりと見せてもらいたい。
 それ以上に明人から離れたい気持ちが勝っていた。
「その説明役は私が仰せつかろうか」
「いや、流石にそれをお任せしたら、俺が社長から怒られます」
「まあまあ、そんなこと言わずに。私も暫く採用試験の場からは遠ざかっているのでね。今の学生がどんな優先順位で就職先を選んでいるかリサーチしないと」
 経営者としてもっともらしいことをいう。倉岡からしても、上役にそう言われてしまい、役目を譲るしかない。
「そうですか、じゃあ。お言葉に甘えて」
「先輩!」
「高見、ビジネスマンの大先輩直々に案内してくださるんだから、素直に好意を受け取っとけ」
 ほらっと倉岡に促され、渋々と和也は明人に近寄る。和也は内心、気まずく思っているが、明人の方はそうでもないらしい。
「じゃあ俺。このまま戻りますので。高見をよろしくお願いします」
「ああ。じゃあ、いこうか」
はい」
 促され、明人の後をついていく。長い廊下を歩いていくと、業務エリアも通ることになる。オープンな雰囲気の会社だ。特定のデスクを持たないフリーデスクという形になっている。
 先に戻った倉岡も、他の同僚たちと打ち合わせにはいったようで、和也に気付くと軽く手を振った。
 和也が軽く手を振り返すと、一つの部屋の前に案内される。
「さあ、どうぞ」
 明人自ら扉を開いた。シンプルにデスクとチェアがある一室だった。客の対応も行っているようで、ソファとローテーブルもある。
「コーヒーでいいかな。ここにはバリスタがいるんだよ」
 まもなく、カップに入ったコーヒーが届けられる。和也はソファに座りながら、目の前に置かれたカップを啜った。
「まさか、こんなところで会えるとは思わなかったよ」
 高層ビルが立ち並ぶオフィス街で最も高いビルディング最上階からは蒼穹が近い。
 そんなところで、和也が最も向き合いたくない人物と向き合っている。ストレスの極致であるはずが、なぜか相手の醸し出す雰囲気は穏やかだ。
……そうですね」
 コーヒーは美味だ。どんなに気まずい相手と向き合っていようと、このコーヒーはうまい。
 そういえば、この会社はバリスタを雇っていて社員は自由に何杯でもコーヒーが飲めるのが自慢だと、倉岡も言っていた気がする
「おいしい」
 思わずつぶやくと、ふっと男の笑いがもれる。その音につられ、視線を上げると、年上の美貌の男が和也をやわらかく見つめていた。
「よかった。君に気に入ってもらえたようで」
 森島明人は和也が、再会することはないだろうと思っていた人物だ。2度と会いたくなかったというのが本音だ。未だ傷が癒えていないと、胸が騒ぐ。
 和也はその傷がこれ以上疼かないようにと、微かに視線をそらした。
「髪を切ったんだね。よく似合っている」
 和也はその台詞に、思わず眉を顰める。就活が本格的に始まるにあたり、髪を切ったのだ。
 髪を切った夜、帰宅した玲二が珍しく瞠目し、そのあと近寄ってきたかと思うとなぜかあの大きな掌で髪をかき乱された。しかも何かのスイッチが入ったようで、部屋に連れ込まれ、貪られてしまった。その後も暫くは和也をじっと見ていることがあった。
 数日後に会った高志も絶句した後に、高志にしては気が抜けたような顔でふっと破顔した。
『お前、結構童顔だったんだな。出会った頃みたいだ』
 高志と出会った頃といえば、中2の時だ。両家の顔合わせで、和也が気を使わないようにと同い年である高志も呼ばれていた。その頃からすでに180㎝を超える長身で、2・3歳上だと思っていたが、同い年と知って驚いたものだ。
 確かに今の髪形は、中学生だった頃の髪形に似ているとは思う。分け目を作って全体的に短くしたのだ。
 カットしてもらった店では好評だったのでいい気になっていたが、和也を見なれた二人には違う感想をもったらしい。
 明らかに不機嫌になった和也に明人はそれ以上何もいわず、話題を変えてきた。
「ここは、私の昼の顔のひとつだ。学生時代に立ち上げたものだから、実務的なこところは随分と前に人に任せたが、時よりこうして出勤しているんだよ」
 そういえば、あの一力の会話の中で、就職活動をしていていくつか狙っている企業の名を出したような気がする。
 両親がなくなった今、和也にとって身近に就職のことを相談できる相手は少ない。あの場に同席していた享は縁遠そうだし、玲二も同様だ。
 明人はビジネスマンだし、軽い相談のつもりで口にしていたのを思い出す。その時進められたのが会社訪問だったのだ。
 しかし、まさか本命の会社として名を上げていたこの会社が明人の持ち物だったとは創業者までは調べてなかったので、盲点だったといえる。
「少し会社の説明をしようか。こちらへ来てくれるかな」
 就活生である和也に、きちんと対応してくれている。そういう意味でも、この年上の美貌の男は大人なのだろう。
 タブレットをもった明人が画面をタップし、社内の組織図をみせてくる。
「君の先輩である倉岡くんが所属しているのは、営業部。あとは、総務部と、開発部。福利厚生はこんな感じかな」
 会社の雇用条件や有休の日数、社独自の手当なども書いてある。
 学生である和也にとって手当などは細かい部分はいまいちピンとこないが、働く者たちにとってなかなか良い条件ではないだろうか。
 明人からタブレットを手渡され、和也もスライドをする。会社訪問は初めてだから、この条件が和也にとっての基準になるのかもしれない。
「どうだろう。悪い条件ではないと思うのだが」
 和也はハッと気づく。声の近さに、明人との距離が近いことを知る。明人の腕がソファの背もたれにかかり、膝の距離も近い。
 ありえない距離だ。
「あの、少し、離れ
 和也は動いたことで、膝がローテーブルにあたる。存外に強く当たってしまったようで、カップが倒れてしまった。コーヒーが和也のスラックスに降りかかる。
――つ」
 さほど熱くはないが、肌にも濡れた感覚が広がる。
「ああ、これはいけない」
 明人は自分のハンカチを取り出し、コーヒーが広がっている太ももに当てられる。
「代わりのものを持ってこさせよう。直ぐにクリーニングに出さないと」
「大丈夫です。熱くないし、染みも目立たないだろうから」
 折角金をためて買ったリクルートスーツなのだからとは思うものの、幸いにも染みは目立たないだろう。
「そういうわけにはいかないだろう?君がアルバイトを頑張って買ったものなのだから」
 高級スーツもスリーピースを隙なく着こなす明人から意外な言葉が出る。確かに和也はこのリクルートスーツを用立てるためにアルバイトの時間を増やすなどしたが、なぜそのことを明人が知っているのだろう。
「でもここで、スーツを脱ぐわけには
「ならば、場所を移動しよう。今日は車で来ているから、ちょうどいい」
 何がちょうどいいのか分からないが、押しの強さで言えば明人はかなりのものである。しかも、和也が断れないように巧みに誘導してくる。
 明人は倒れたコーヒーを手早く片付けると、いったんオフィスを出た。暫くして戻ってきた手には、封筒をもっていた。
「さあ、いこうか」
 デスクに戻りビジネスバッグを手にした明人は和也を促す。促されて立ち上がったものの、躊躇っている和也の腕を引く。そのまま自ら扉を開けて先導する。
 連れ立つ形でオフィスからでると、明人と同じくらいの年齢を思われる男が声をかける。
「今日はもうお帰りですか?」
「急用ができてしまってね。また後日出勤する」
「わかりました」
「ほら、いこう。和也君」
 淀みのない歩みだった。未だ腕を引かれた状態だが、足取りは重い。
 どうにか離れられないだろうかと、考えながらも、駐車場にいつの間にかついてしまっていた。




∞∞∞∞∞


タイトルを考えたとき、何も思いつかなくてただ、サロメっていうキーワードをどうしても入れたかったので、SALOME2にしました。
玲二の方のSALOMEとは繋がりはありません。
SALOMEシリーズも書いてみたいな~とは思ってまして、後は高志編、享&サイファ編ってことになるとはおもうんですが。

新装版で明人が30代前半に年齢が変わったこともあり、和也とは想定10歳~12歳の年齢差が非常に私の中でヒットしてしまいました。
そうだよな~あの貫録で、明人の20代はないな~と思っていました。昔ならともかく、今の感覚では30代前半で会ってると思う。
10歳差という年齢が新装版は生かされていた気がする
10歳も年下の魔性の青年に執着する美貌の男パワーワード多すぎる

就活云々は適当に長居してくださいませ★
なんせ、就職したのは十数年前ですので

あと髪型ネタは、和也の少年時代の髪形が可愛すぎて。新装版が美しくて美幼女じゃん
でもお母さんが公式美人(吉原作品ではめずらしくない?&玲二が「美人」っていったのって由美子さんくらいじゃない?)なので、和也の顔が整ってるのは当然かな~と。周りが派手なだけで。



↓中の人ネタ



















奇しくも本日の国民的アニメで、絶交話がありましたね
原作では和也の方が絶交の気分でしょうけど(*ノωノ)