ガラシャ
2023-10-21 16:52:01
4664文字
Public libido
 

libido 7ー4

5話ではなく6話編成でした…すみませぬ。11月上旬で完結になります。


 ――翌朝いや、既に昼前になって、和也は目覚めた。カーテンが敷かれた部屋の中は、熱がこもっているかのようにどんよりとしていた。
 全身のこびり付いた体液はどちらのものか分からなかった。約半年ぶりに玲二に抱かれた体は、その激しさについていけず、意識を失った。
 そのままじっとして、気配を探る。玲二の気配がないことを知り、ゆっくり息をつく。
 ゆっくりと起き上がり、タンスの中からオーバーTシャツを取って着込んだ。下はそのままだ。履こうにも、どうにもこうにも股関節が軋んでしまい億劫だった。孔も麻痺したようになっている。だがそこがべとついているのは分かる。玲二の怒張は、ベッドに運ばれてからは和也が気を失うまで一度も抜かれることがなかった上に何度も出された。
 どうせ誰かがいるわけでもないし、とりあえず何か飲みたい。その前に洗濯だ。血か何かわからないものが固まっている。ストックはあるが、買い替えなくてはいけないかもしれない。
「あけほっ」
 喉がひりついて痛い。一晩中泣き叫んだ証拠だろう。
 洗濯機にシーツと服をたたき込む。適当に洗剤を入れ、回してしまう。
 和也はふらつく足を動かして、冷蔵庫を開けて、ミネラルウォーターのペットボトルを取った。一気に飲み干してしまうと、また重いため息が漏れた。
 ふと、玄関をみるとエコバッグがあった。スーパーで買ったものがそのままだ。
 昨日の夜、玲二に脅しのようにカギを開けさせられ、靴を脱いだ途端、ダイニングのフローリングの上に跪かされたのだ。
 中身を確かめると安売りだった10個入り卵パックのうち3個が割れている。流石に割れたものは捨てるしかないかと、はあとため息をついた和也は、エコバッグを拾い上げ、中身を冷蔵庫に仕舞う。ため息しかでない。本当に
 いつまでもこうしていては何もできない。風呂場に向かう。
 シャワーを出して、頭からその飛沫を受ける。和也にへばりついていたものが流れていく。和也は自分の指で孔を割り開く。ナカに溜まっているものを出してしまわないと、腹を壊してしまう。
 とろりとゆっくりと落ちてくるものに唇をかみしめる。血交じりのそれは、孔から足の付け根を伝って、足首までたどり着く。
 自分でも痛々しく感じるその光景が見たくなくて、さっさとシャワーで流してしまう。風呂を上がると、適当に体をふいて、またオーバーシャツを着こんだ。動くごとに痛みが走る下半身に眉をひそめる。
 ――その時だった。ロックが開けられ、すぐさま玄関が開く。
「お前何してんだ?」
そっち、こそ
 思わぬ登場に、和也の反応が遅れる。てっきり東京に戻ったのだと思ったのに、なぜまだここにいるのか。それが表情に出ていたのだろう、玲二の片眉があがる。
「お前を連れて東京にとんぼ返りするつもりだったからな。着替え買ってきた。後、食べるもんもな。にしても
 和也の恰好を見てにやりと笑った。そのまま靴を脱いで、和也に近寄る。
「随分、そそる格好してるじゃねえか」
 オーバーTシャツの上から腰を捕まれ、腰を押し付けられる。和也は内心舌打ちする。玲二はもう東京に戻ったのだと、このアパートには来ないと思って油断していた。
「なんか食べるか?」
 くっついたまま玲二に問いかけられるが、和也は首を振る。
「いらない
 本当に腹が減っていない。最後に食事を食べてから一日は経つが、怒涛の出来事にあまりの出来事に食欲がわかなかった。
「食べろよ。前もいっただろうが、これ以上目方減ったら、抱き心地がわるくなるって。ただでさえ、お前は無駄な肉がないんだから、ため込めるうちのため込んでおけ」
 シャツの上からなぞる掌は和也の腹をぐるりと撫でるとそのまま離れた。
 ナイロン袋の中からゼリー飲料を手渡される。そのまま手首を掴まれて、もう片方の手で額に触れられる。
「熱があるな。やっぱり無理させすぎたか」
 玲二はちっと舌打ちをする。
「薬塗ってやるから、テーブルに手を付けよ」
 玲二の手は和也を離さない。和也は仕方なしに、ダイニングテーブルにベッドに手をついてゆるゆると尻を向ける。玲二がオーバーTシャツをめくり上げ、テーブルの上に勝ったチューブに入った薬を指に絡め、孔に指の腹を押し当てる。
「ん、くっ
 自分の指よりも太い男の指で、傷ついた内壁をなぞられる。鋭い痛みが走ると同時に、熱がそこに灯っていくようだった。
「たまんねえな。このまま、犯してやりたくなる」
 和也の背に覆いかぶさり、耳の裏を舐めながら囁かれる声は非常に甘い。そのまま濡れた髪の匂いを嗅ぐように顔が寄せられ、和也は不快感に眉を寄せる。
 和也の体がこわばるのを感じてか、玲二は尻を揉み込む。
「昨日散々やったからな、今日はしねえよ。セックスは傷が治ってから、だな」
 軽く髪に口づけた玲二がようやく離れる。指も名残惜しそうに退いていった。
「とりあえず、飯食うか」
 折り畳みの椅子に座り和也がゼリー飲料を吸っている前で、玲二はパンやおにぎりを食べる。食べ散らかすように、ごみが広がっていくのを見て、和也は眉を顰める。
「ちゃんとごみは捨てろ」
「ああ」
 玲二にしてはやけに素直にごみを袋に入れていた。和也は溜息をつき、ベッドに移動する。熱が上がってきた気がする。
 ごろりとベッドに横になると、玲二も同じようにベッドに寝転がってくる。和也に掛布団をかけると、掛布ごと抱きしめてきた。
「今日はこうして寝てろよ。側にいてやるから」
 誰がそんなことを頼んだ?と言いたくなるが、玲二の手は掛布団の上から和也の腹を撫でる。
 また、ベッドの上でくっついて眠ることがあるなんて
 高見家の玲二の部屋では度々あったことだが、こんなにも狭いベッドではなかった。
 煩わしさはあるが仕方ない。そんなことを気にするよりも、眠りに落ちてしまいたかった。

 ――土曜日は丸一日狭いアパートの中で二人きりで過ごすことになってしまった。大柄な体格の玲二は「狭い」と言いながらも、この窮屈な空間を楽しんでいるようだった。買い込んだTシャツとスウェットという格好で、さも当然だというように寛いでいた。
 昼過ぎに起き、また眠って、起きたのは夕方だった。熱は上がらなかったものの、気怠さが抜けず、ベッドに横になってはスマホで漫画を見てすごしていた。最新話まで見終わったところで、ふと腹がすいていることに気付いた。
「腹減ったな。どっか食べに行くか?」
 玲二が聞いてくる。時間の表示を見ると、18時前になっていた。和也は起き上がり、キッチンへ行く。テレビ前のソファで寝そべっていた玲二も、ダイニングテーブルに座る。
……冷凍パスタとチャーハンどっちがいい?」
 一人暮らし用の小さな冷凍庫スペースを探りながら、玲二に尋ねる。
「チャーハン」
 先にチャーハンを取り出して、大きめの皿に移してレンジで温める。二人分の量になるが、玲二なら食べてしまうだろう。
 温められたものとスプーンを玲二の前に置く。
 玲二が食べ始めたのを見ながら、和也の冷凍パスタを温める。いつもは自炊しているので冷凍食品を口にすることはあまりないが、何かあった時のために2・3個用意してあるのだ。
 温められたパスタをとり、和也も折りたたみ式の椅子に座る。
 黙々と食べ終えると、再びベッドに戻り、リモコンの動画配信サイトのボタンを押した。
「映画でも見るのか?」
 玲二もベッドに背を預ける。画面が切り替わるのを見て、テレビを見やった。
 和也はボタンを操作すると映画が始まった。
 見覚えのある画面が広がり、主人公の男が現れる。ハリウッドでも色男として知られる俳優だ。これから、事件に巻き込まれ、逃亡生活をしながらも犯人を見つけていく。
 和也が集中してみていると、ふと影が落ちてきた。上半身を抱きあげられ、玲二にキスを与えられる。和也は抵抗しなかった。抵抗すると余計な体力を使うだけだ。
「ん、ん、あっ
 激しくキスを貪られながらも、なぜ玲二がキスを仕掛けてきたのか、和也は思い当たった。この映画は、昨年の夏、ふたりで映画館でみたのだ。金曜日の夜も同じことを思っていたのに、すっかり忘れてしまっていた。
 玲二もそれを覚えており、何かしらの感情をもったのだろう。口内をたっぷり舐められ、舌を激しく絡めて唾液を奪い取られると、名残惜しそうにゆっくりと唇はひいていった。
「このまま抜きあうか?」
 玲二が甘さを滲ませながら囁いてくる。体を更に密着させ、和也の表情をうかがうように見下ろしてくる。
和也は首を振り、玲二の腕から逃れてぽすんとベッドに横たわった。
 玲二もベッドに乗り上げてきて、横たわっている和也を後ろから抱きしめてくる。
 腰を押し付けられ、なぜか昂っている玲二のものが尻の間にあたっていたが、和也は無視した。まだキズは治っていない。塗り薬で痛みはマシになったが、玲二に抱かれたらまた傷が増えていく。映画を見ている間も、時折、項に口づけられながら腰も揺らされるが、和也は何の反応も返さなかった。
 映画を見終えると、21時前だった。眠るのはまだ早い。
 ふと思い出した海外ドラマを検索する。先ほどのミステリーとは違い、検索した海外ドラマはリーガルドラマだった。リーガルドラマとしても面白いが、そこに恋愛要素があったり、コメディの要素もあったりと、日本でも人気らしい。
「お前の趣味っぽくねえな」
 興味なさげにスマホを操作していた玲二が言う。その時、タイミグよく着信音が短く鳴る。和也が確かめると、メッセージが送られてきていた。このドラマを進めてくれた、同期の女子だった。
「誰だ?」
「同僚だよ」
 和也は返信をせず画面を下にし、枕元に置く。そのまま指先で、自分の腰を抱いている玲二の手をなぞる。
「へえ。まだ、付き合ってなかったのか」
 和也は心臓が逸ったのを感じた。その動揺は玲二にも伝わったようで、ぐっと腰を押し付けられる。
「知ってるか、和也。お前な、何かを誤魔化そうとするときは、いつもはしねえような媚びを売ってくるんだぜ?ほんと分かりやすくて、困ったもんだ。
 ――その女に勧められたんだろ?このドラマ。趣味じゃねえのに挑戦するなんて、可愛げのある事するじゃねえか、お前も」
「お前、勝手に、スマホを見たのか?」
 和也は怒りを込めて微かに振り向く。
「なんだよ。なんで怒んだよ。
 ――別に俺はお前にスマホをみられたからって、怒る気なんてないぜ。むしろ、見ろよ、ほら。俺がどんなことをしているか、ちゃんと見ろ。だから、お前も見せろよ。隠すな」
 ――お前と俺は違う!
 和也は叫びたかったが、ぐっとこらえた。
 自分だけの秘密にしておきたいこと、自分自身でさえも知りたくなかったことなど、和也にはいくらでもある。
 だが玲二はそれを許さない。和也のことは全て知っておきたいのだと、その言動でわかる。
 それはもはや、執着というには度が過ぎているのではないか。強迫観念に近いものではないのか。思わず和也の口からため息が漏れる。それは酷く重いものだった。



∞∞∞


玲二は和也から離れたら生きていけないけど、和也は玲二から離れても生きていけるんだよね
ってのを書きたかったのです。