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ガラシャ
2023-10-01 15:31:09
2711文字
Public
libido
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libido 7-1
長らくお待たせしました。libido最終章です。かなり長くなってしまいまして…5話編成となっています。
――
午後3時を過ぎ、定時まであと2時間半となった頃、俄に社内が忙しなくなってきた。和也は他部署との会議を終え、自分の席に戻る。パソコンを立ち上げて、会議の会議録をまとめたら一息つこうかと思っているところで声をかけられる。
「秋葉くん、ちょっと来て」
最奥にデスクを構える編集長に名を呼ばれ、そちらへ赴く。編集長も同じ会議に出席していたのだった。
「追加でこれの修正お願い。あとメールの返信も今日中にね」
「はい」
4月に入社し、早6カ月
…
新人ではあるが、和也も徐々にこの会社の一員として認められていた。英語力をかわれ就職したのは、東京を遠く離れた地方都市の出版社だった。
海外から絵本を主に手掛けているが、和也の好きなエズラ・バードも実はこの出版社の社長が日本に紹介したのだ。母の形見ともいえるエズラの古い小さな絵本も、この出版社からのもので、何かと縁があるのだ。
今まで、他人との繋がりを拒んできた和也が選んだのは、亡き母との小さな繋がりだった。
東京を出た日、ダークマターでの通訳のアルバイト後に一旦マンションに戻り、必要最低限な物をまとめていたキャスターバッグを片手に、深夜バスに乗り込んだ。
バスに揺られ、徐々に東京から離れていくことを感じながら、これからの未来に胸が打ち震えていた。そのせいだろうか。夜行バスの中でよく眠れず、朝方まで音楽を聴いて過ごしていた。
2時を過ぎてようやく眠気に襲われて3時間ほど寝た後、バスの運転手の到着のアナウンスに起こされた。固まってしまった体を伸ばす。
バスを降りたち朝焼けに照らされた地方都市のビル群は、とても美しく見えた。東京とは違う言葉が飛び交っていることに、一瞬、どこへ迷い込んだとかと戸惑った。
早朝ということでまだ店は開いていない。24時間営業のファーストフートで、朝食と時間つぶしをし、前日に契約したアパートの鍵を不動産屋にもらいに行き、アパートに訪れた。築20年の1DKの小さなアパートである。居候をしていた異母兄の高級マンションとも、育った高倉別荘に比べると、随分と小さい。
だが一人で住むには十分だった。1DKの空間が、ようやく自分だけの居場所が見つかったのだと思った。
その後、電化製品や家具を買い求め、部屋を整えていった。そして、東京を出てから10日後には、就職先である出版社でアルバイトを始めた。
4月からは、正式に社員として働き始める。和也の部署は海外からの出版物の翻訳を担う部署だ。
夏にはエズラ・バートとも再会を果たしていた。まだ和訳されていない絵本を日本で出版させるため、打ち合わせに上司に伴われ、エズラに会ったのだ。
ひどく驚いた様子だが、同時にひどく喜んでいた。和也が東京から離れたということは知っていたようだが、決して、人には言わないと約束してくれた。
――
その日も、エズラとの新刊の打ち合わせをして、午後7時に会社を出る。
今日は最終打ち合わせをしたのだ。エズラとはリモートを使い、直接、文字の大きさやフォントのやり取りをした。エズラが今現在、活動の場所として滞在しているのはNYだ。13時間の時差があるNYに合わせ、朝7時からという早朝からの打ち合わせで、疲労を感じていた。ただし、喜びにあふれた疲労だ。
ようやく形になるのだ。
誰かのために、何かを成し遂げられた気がした。
もしかしたら、この絵本を手に取る子どもの中には、和也と同じような境遇の子どももいるかもしれない。親もおらず、誰にも必要とされず、頼るべき人もおらず、孤独を感じ、ひとりで泣いているのかもしれない。
そんな子ども達に届けばいい
…
切なる願いを込めて、和也は翻訳をした。
大切な人たちを忘れたわけではない。木曜日の朝に起きる時は、つい異母兄のことを思い出し夕食は何を作ろうかと思ってしまうし、金曜日の夕方になれば、育ての親である篠宮冴子のことを思い出した。高倉別荘は毎日忙しい。その忙しなさにつられて、和也のことは忘れてくれているといいのだが
…
。育ててやった恩を忘れた薄情な人間だと思われてもいい。
だが、不思議と寂しさはない。今は離れてしまったが、いつかまた自分から会いに行く。その時までは、自分のことは忘れていてほしかった。
――
この県にきてからも、自炊は続けていた。新入社員である和也の給料はしれてはいるが、それでも一人で住むには十分だった。節約の日々だが、元々家事はしていたし、自分一人だけならば、どうにでもなる。
――
駅前の小さなスーパーに入る。卵やパン、野菜を適当に選ぶ。休日中に作り置きもしたいし、少し凝った料理をしてもいいかもしれない。
明日は土曜日だし、溜まっている洗濯や掃除をしようと思っていた。月曜日も祝日だし、最近の忙しなさを考えると、この週末はのんびりするつもりだった。
未だ友人の類はいないが、それでも社内の同期や同僚とは飲み会や食事にいくこともある。同期の中には、互いに少し意識している女子もいる。今はたまに、メッセージを送り合うくらいだが、気が合うのはお互いにわかっている。
その女子も映画が好きで、映画館にもよく行っていて、おすすめの映画も教えてくれた。おすすめの海外ドラマも教えてくれた。あとで、配信動画サイトの新作チェックもしよう。昨年の夏に見たミステリーの映画が配信されていたはずだ。
あの時は邪魔が入るせいでゆっくり見られなかったし、久しぶりに夜更しするのも愉しそうだ。
映画館での出来事を思い出し、ふとあの男との日々も蘇ってくる。セフレ関係と呼ぶには余りにも濃密で濃厚だった日々も、今は遠い。東京にいたころは和也に執着するそぶりをみせていたのに、結局あの男は和也が目の前から消えても、連絡をしてこない。やはりあの男にとって、自分はそんな存在だったのだ。
そもそもあの美貌のエゴイストが自分に執着するのが可笑しいことだったのだ。あの美貌の男にふさわしい、 全てを捧げる人間なんていくらでもいる。
和也はただ、ほんの短い時間、傍に置かれていただけ
…
。
深みに嵌る前に消えることができて良かった。
∞∞∞
libidoは季節感というますか
…
玲二と和也が出会って、どんな日々を過ごして、どういう結論になるか
…
と時間軸で大事にしたいなと思っていまして、こんなに長期間の連載となっています。
2022年6月4日に開始し、2023年10月末に完結予定です。
修正追加で10万字近く。たまにオリジナルを書いていますが、こんなに長い話は初めて書きました。
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