もしも、本当の兄弟として育ったら…

いよいよ今月末には下巻が…!和也のあの表情たまらんですね!
今日の妄想は構想としては実は昔からあったものです。単に玲二がブラコンになっただけという話です。

「ただいま」
 ――午後8時半。ファーストフードでのアルバイトを終え、高見和也は自宅の玄関扉を開いた。未だ春の気配はなく、コートが手放せない。
 靴を脱いでリビングにはいると、ダイニングテーブルで父・祐介と母・由美子が寛いでいるところだった。
 美男美女のおしどり夫婦として近所でも評判だ。高校生と中学生の息子がいるとは信じられないほど二人とも若々しい。
 和也の家族は、この父と母、そして、
「あれ、玲二は?」
 弟である玲二だった。
「自分の部屋にいるんじゃないかな?」
 和也の問いかけに祐介が応じる。
「和也、ごはんどうする?先に食べる?」
「風呂入ってからにするよ」
 和也のアルバイト時間は部活のない放課後と休日のみ。学業は疎かにせず、成績に影響があればすぐにやめる。
 それが両親と約束したバイトを続ける条件だった。
 自分の部屋の扉を開くと、途端に暖かな空気が身を包み、和也ははあとため息をついた。
「何ため息なんか吐いてんだよ。辛気臭ぇ。寒いんだから、さっさと閉めろよ」
 和也のベッドに寝ころび、手にもった漫画から目を離さず文句を言ったのは弟の玲二だ。性差を超えた美貌玲二はそう評される少年であった。
 和也とは2歳差の現在15歳であるが、身長は180cmと和也を見下ろすほどになっている。まだまだ伸びることが予測されている。
 和也が母方である秋葉家の性質を受け継ぎ、玲二は父方の高見家の血を濃く受け継いでいる。
 幼いころから似ていない兄弟だとは言われてきたが、体格面でもそれぞれの家の性質を受け継いだようだ。
 ベッドの上には炭酸飲料のペットボトルが転がっている。その周りには、玲二が部屋から持ち込んだ漫画が散らばっていた。
「自分の部屋で過ごせよ」
「お前が寒い中帰ってくると思ったから、温めてやってたんだよ」
 和也にプライベートルームはない。幼いころからこの弟が、和也の個人的な空間を作らせてくれないのだ。
 言っても無駄だとわかりながら、同じセリフを投げかけてしまっている。和也がまたはあとため息をはくと、玲二が眉を上げた。
「なんだよ」
「別に。――風呂入ってくる」
 箪笥から寝間着を取り出した和也は、そう玲二に告げると、再び部屋を出る。風呂に入り、最後に掃除をしてリビングに戻ると、ダイニングテーブルの和也の定位置には夕食が用意されていた。
 そしてなぜか、玲二もダイニングの定位置和也の席の隣に座っている。
「和也、片づけをお願いしてもいい?お父さんとお母さん。部屋で映画を見てるから」
「うん、いいよ」
 炊飯器からご飯を盛っていた和也は由美子のお願いを快く引き受ける。父と母は「おやすみ」と子どもたちに声をかけ、連れ立って自分たちの部屋に戻っていく。
 残ったのは和也と玲二だけだ。
 和也が夕食を口に運ぼうとすると、横から和也のおかずをつまもうとしていた。
「腹減ってるんなら、パンでも食べろよ」
 和也は玲二の腕を肘で押す。育ち盛りの息子二人のために、家には潤沢に食べ物があるというのに。
「俺、焼き握りが食べたい」
「自分で作れよ」
「作れねえし。それに、お前が作ったのを食べたい」
 頑として譲らない。幼いころから玲二はこうして腹がすくと和也に何かをつくらせようとするのだ。お菓子なども、小さいころから和也の手から仲介したものしか食べなかったこともある。
 和也が動かないと目の前に立ちじっとみてくるので、最後は和也が根負けするのだ。未だにそれが続いている。
 特に思春期に入ってから、更に背が伸びるようになってからは強請ってくることが多くなった。
「わかったから、俺の飯は食うなよ」
 和也は夕食を中断し、炊飯器の残りのご飯をボウルによそった。
 適当にめんつゆと醤油でみりんで味付けし、フライパンで焼いてやる。こんがりと色を付けると、玲二の前に置く。
 和也が自分の皿を見ると、おかずや半分ほどになっていた。席に座り、急いで飯を食ってしまう。
 自分の食器をもって洗い物をしていると、玲二も自分の皿をもってくる。それも洗ってしまうと、キッチンの明かりを消す。
 これからは課題の整理だ。和也と玲二が通う中高一貫校は近隣では進学校で知られている。比較的自由な校風でバイトは許されているが、学業を疎かにしてはいけない。
 和也が部屋に戻ると、当然のように玲二も部屋に入り、またベッドを占領しだした。今度はスマホをいじっている。
「お前、一応受験生だろ?勉強しなくていいのかよ」
 内部進学が可能とはいえ、一応は進学するためのテストがある。
「一夜漬けでいける」
「まったく、宝の持ち腐れなんだから」
 和也が文系を得意としているが、玲二は理数系を得意としている。それぞれ母と父の影響である。
この弟が頭脳明晰であるが、いつも補習ぐらいの成績を保っている。授業にでても半分居眠りをし、テスト前だって教科書をめくるだけでだ。
「俺、一回ぐらい、お前が本気出したところ見てみたいけどな」
 玲二が本気になることはない。勉強でもスポーツでもこなしてしまう。
 本気になることがあるとすれば、和也に関することだけだ。幼いころから人には無関心なのに、和也が一人で出かけたり、新しいゲームをしていれば、『なぜ自分を誘わないのか?』ととことん問い詰める。
 和也がバイトをすることに対してもあっさりと了承した父と母とはちがい、最後までごねていた。
 和也のつぶやきを聞いた玲二がスマホを置き、身を起こす。
「俺が本気になって、学年一位とったら、何をくれるんだ?」
「え、何かほしいのか?」
「ああ」
 和也も考える。バイトをしているのは留学が目的のためだが、今すぐということではない。
「バイト代で買える範囲だったら、なんでも買ってやるぞ」
 玲二が物を欲しがることなどない。いつだって和也が持っているものを欲しがり、隣からかっさらっていくので、玲二の部屋には玲二自身が選んだものは少ない。
 流石に服は体格差があるので和也のものを取っていくことはないが、未だによくいろんなものが和也の部屋から玲二の部屋に移動している。その逆もあり、なぜか玲二のものが和也の部屋に置かれていることもある。
「買えるもんじゃねえ」
 ぼそりと呟いた玲二の声は和也に届かない。
「ん、なんか言ったか?」
「なんでもねえ」
 またスマホに目を向け始めたので、和也も課題に視線を落とした。
 30分後、和也が課題を終えてあくびをしていると、玲二もスマホの充電をセットした。その様子を見て、和也は心の中で溜息をつく。今日は自分の部屋に帰る気はないらしい。
「さっさと来いよ。寝ようぜ」
 和也のベッドなのだが、玲二は既に横になっている。自分の部屋なのに、主導権は玲二だ。
 和也がベッドに横になると、尽かさず玲二が後ろから腰に腕を回してくる。ひたりと背中にくっついてくる玲二に、和也は抜け出せず、力を抜くしかない。
 足も絡んでくる。
「つめたっ」
 玲二の足のつま先は冷たかった。
「お前を待ってる間に冷えちまったんだよ」
 声変りを終え、男らしく響く声に和也は落ち着かない。芯を震わせるような声色に、和也の何かが玲二に引きずられそうになる。
 玲二のつま先が土踏まずあたりにひたりと押し当てられる。
 幼いころはこうした寝るのが当たり前だった。お互い向き合いながら、両親には話さない秘密を共有してきた。この家に越してきて各々の部屋ができてからもこうして玲二は和也と同じベッドで寝ようとする。
 頻度としては徐々に少なくなっているが、何かあるときは必ずこうするのだ。今日は何かがあった日だ。思い当たる要因としては、和也がバイトの帰りが30分ほど遅くなったことだろうか。バイト仲間とついつい話し込んでしまったのだ。
そんな些細なことでさえ、和也より背の高くなった弟はひっかかる。
 他の兄弟とは過ごしたことがないのでわからないが、兄弟にしては距離が近いのではないか。
 従兄弟の久住高志からも
『お前らいつまでイチャついてんだよ』
 と揶揄されるくらいだ。高志の場合は、和也を構い倒すという悪癖を持っているゆえの発言であるが、やはり兄弟として距離が近すぎるのだろう。
 まあ、来年には玲二も高校生になるし、流石にその頃には自分から離れていくだろう。
 そうなれば和也も自由になるし、大学受験に集中しなくてはいけない。その進学先に海外が含まれているのは、実は玲二に告げていない。今の玲二では過度に反応する気がして、言えずにいる。
 玲二にしっかりと伝えてやらなければならない。玲二の兄は和也だけで、和也の弟も玲二だけだ。どんなに遠く離れても、他の誰が側にいようとも、兄弟の絆が途切れることはない。だから何も恐れることはないのだと。
 背中から感じる温かさに、うとうととしてくる。玲二のつま先も暖かくなってきたようで、どちらの熱が高いのかわからなくなってきた。
 ふと顔に影がかかる。それが何かと考えるよりも先に、和也は眠りに落ちていった。



∞∞∞∞

仲良し?兄弟編。小さいころから一緒に住んだって結局ブラコンになるんでしょ?って未来しか思いつかない。