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ガラシャ
2023-05-27 23:45:12
3458文字
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白い結婚
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籠の中の狂愛 弐―4
お上品な罵り合いが書いてみたい…
――
桜が咲くにはまだ早い春、式と披露宴が老舗ホテルの広間で執り行われることになった。昨今、若い女性の中で流行っている西洋風の結婚式をおこないたいという花嫁の希望らしかった。
華やかな席は若い方があうだろとのことで、克典の代理として明人が出席することになった。それぞれに着込んだスーツであるが、招待状が来てから仕立ててもらったものだった。
スーツを着た仕事はしたことがない和也に代わって、小物類も嬉々として明人が選んでいた。ネクタイピンは先日克典に土産としてもらったそろいのものだ。それに合わせてカフスも百貨店で買い求めていた。
明人が記帳するのを眺めていた和也であったが、肩をたたかれた。
「和也、久しぶりだな」
朗らかな声は高志だった。
「高志っ」
久しぶりに見る高志の顔に、和也の顔もほころぶ。和也を見下ろした高志は、微かに目を細めた。
「どうしたんだお前。まったく連絡もなしなんて、病気にでもなったのかと思ったぜ」
「悪い。なんか、立て込んでてさ」
そういえば高志と定期的に食事に行っていたのに、この数か月はそんな気持ちの余裕がなかった。
そのまま近況を話し込みそうな和也の手首を、明人が掴んだ。手首の内側を親指の腹でなぞられる感覚に、昨晩の事がよみがえり和也は無意識に身震いする。
ぎこちなくふりかえると、微笑を浮かべた明人がいた。
「和也、紹介してもらえるかな?」
明人の声はいつも通りの低さだが、どこか昏かった。
「あ、すいませんっ。こちらは高見の親類で
…
」
「久住高志です。和也がお世話になっています」
高志は玲二と変わらぬ上背を持つ。
「いやこちらこそ。
…
といっても、和也はよく尽くしてくれているから、世話になっているのは俺の方だが。
――
なあ、和也」
やんわりと肩を掴み自分のもとに引き寄せて、和也の顔をのぞき込む。
「そんなことは
…
」
和也は言いよどむ。夫婦という関係だが、わざわざそんなことを言わなくてもいいのではないか。しかも和也が親しい高志の前で。
明人の言い方に、和也だけでなく高志も眉を上げる。
「
――
へえ、そうなんですか。まあ、和也は律儀な奴ですからね。誰であっても、尽くしてくれるでしょうけど」
高志はそれをさらりと躱す。ふたりとも涼しい顔をしているが、和也自身は気まずかった。
地元の名士である森島家の嫡男と、こちらも地元でも一番大きな病院の跡取りがいるのだ。ふたりとも上背があり、顔立ちも際立っている。
どちらも和也の身内であるが、周りの視線が集中している。
「控室にいきませんか?
…
他のお客さんもいらっしゃいますし」
和也が暗に目立っていると告げると、二人は和也を見下ろす。
「ああ、そうだな。朝から支度で忙しなかったし、控室で温かいものを飲みながら休憩しよう」
明人は和也にやわらかく微笑み、エスコートをするように腰に手を添える。そのまま控室まで先導される形となる。微かに振りむくと、高志が冷たい眦で明人の背をみていた。その顔が高志らしくなくて、和也は不安を覚えるのだった。
――
控室に入ると、高見家親類や参列者がおり和也は明人と共にあいさつまわりをした。みな、明人が代理とはいえ参列することに驚いたようだが、地元の名士に対して、にこやかに会話をしていた。森島家とかかわりのある業者も参列者でおり、明人は話し込み始めた。和也は先に休憩するように言われ、ありがたく休憩することにした。
高見側の親類への挨拶とはいえすっかり疲れてしまった和也は高志を見つけ、その隣に座った。
「おつかれ。これ、飲むか?」
高志が差し出したグラスを和也は取る。残っている液体は炭酸のようだ。一気にあおるが、喉を通り抜ける熱さに和也は思わずむせた。
「ん!っ、お前、昼から酒飲んでんのかよ」
声を上げた和也に高志はいつもの笑みを浮かべる。和也をからかうように見るのが、高志という男なのだ。
「めでたい席なんだからいいだろ。っていうかなあ、今度飲みに行こうって約束してたのに、あれからかなり経ってんだぜ?お前、どうしてたんだ?」
「ちょっと、出かけるのが億劫になってさ」
「仕事でへまでもしたか?
…
まさか、病気にでもなってたんじゃないだろうな?」
「そんなんじゃない。だたちょっと、疲れちゃってさ
…
」
『疲れた』という和也に高志の片眉が上がる。和也から聞いたことのない言葉だったのだ。
再び、『和也』と高志が問いかけたところで、和也の背後から声がかかる。
「ああ、和也。ここにいたか。飲み物と食事をとってきたよ」
話が終わったようで、明人が和也たちの座るソファに使づいてくる。手に持ったものを和也の前に置く。コーヒーや軽食のカナッペや小さなケーキが乗った皿を置くと隣に座った。
「すっかり、話し込んでしまって悪かった。まあ、暇はしてなかったようだが
…
。何の話をしていたのかな?」
和也の腰に手を添えた明人は探るように和也の顔をのぞき込んでくる。威圧的ではないのに、納得するまでは許してくれない
…
和也は直感的に思ったのだ。
「
…
俺が連絡を怠っていたので、心配をかけてしまったみたいです」
「それは仕方ないだろう?お前は俺の妻としての役割があるのだから」
腰から背を指先でなぞられ、肩に手を置かれる。『妻としての役割』が何を指しているか、和也に教え込むような手に動きに、和也は眉をひそめた。
「あんまり和也にいろいろと押し付けないでやってくれませんか。
――
こいつはただでさえ今まで苦労して、色んなことを背負ってきたんです。これ以上は、こいつが辛くなるだ」
「高志
…
」
思わぬ援軍だった。和也の機微を感じ取り、高志は年嵩である明人に臆することなく言い放つ。そして先ほど和也が口にしたグラスをとり、最後まで飲み干した。
「君は和也のことを随分よく分かっているようだね。
――
忠告、ありがたく受けとめておこう」
明人も珈琲を啜る。この話題はここで終わらせるようだ。
しかし、一度歪んだものは正しようがなく、和也を中心に話題を振りながらも、言葉で牽制し合っているように和也には聞こえた。
ふたりとも普段は人当たりが良いように和也は思っていたのだが、どうにも相性が悪いようだった。
――
控室で弐刻ほどして、ホテルの庭にある教会に案内された。
真っ白の壁と、大きなステンドグラス
…
日本にはまだ珍しい、海外の教会をモチーフとした内装であった。
和也も親族ということもあり、明人と並び前列に座る。その後ろには、高見家親類も座っていた。
招待客が全て座った後、暫くして外国人の神父が教壇の前に立った。そこからやや間があり、ピアノが奏でられると、扉が開かれた。
美しい花嫁と、そして花婿がいた。
ふたりが歩みを進める度、見守っている人たちからため息が漏れる。あまりにも美しいふたりに、感嘆の声が漏れる。
人々に見守られながら、花嫁と花婿は歩いていく。神父の前に立つと、厳かな音楽が終わり、式が始まった。
和也は呆然とそれを見つめていた。玲二の美貌が見知らぬ他人のように思えた。
「和也、どうした?」
和也の頬に涙が伝っていた。
「あれ?なんで
…
」
「花嫁の涙が移ってしまったかな?」
優しく問いかける明人に、和也は花嫁を見る。そこには美しい花嫁が、白いまろやかな頬に涙を伝わせていた。
「これで何も思い残すことはないだろう?お前の願いであった高見家の存続も、これで叶った。もう、お前がその役目を背負わなくてもいいんだ」
明人の紡ぐ一言一言が、和也の胸に突き刺さる。なぜか切なくなり、和也は顔を伏せた。
「そうですね。もうこれで
…
」
これで、玲二の隣にいる意味はなくなった。
幼いころから側にあった存在だ。反発しながら、時にお互いの熱を求めた存在が、遠いものになっていくのを感じた。
もう自分の役割は終わったのだ。明人に肩を抱き寄せられ、髪にやわらかく口づけられる。
「和也、これからは俺が守ってあげるから、何も案ずることはない」
明人は見せつけるように和也に触れていた。
夫婦として妻を慰めるのは当然の行為であるが、その行為を許さないと告げている視線があることを和也は気づいていないだろう。自分に向けられる恐ろしいほどの感情が、今も和也を捕らえて離さないことを
…
。
∞∞∞∞∞
次回で終わりです~。
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