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ガラシャ
2023-05-20 21:20:04
2777文字
Public
白い結婚
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籠の中の狂愛 弐―3
壱からの伏線回収です☆今回は短めです。
――
高見玲二は2階の書斎のチェアに座り、庭を眺めていた。大柄な体格の家系のため曾祖父が独逸の建築家に作らせた屋敷は、庭も広く作られている。幼いころから遊んだ場所であるが、今の玲二にとっては何の感慨もなかった。
あるとすれば、和也がそこにいないという虚しさだ。
幼いから書斎からよく見える場所にある楓の樹の下で和也はよく読書をしていた。真剣な顔をして、時には笑みを浮かべて、そこに存在していた。
ふと顔を上げ、玲二が見下ろしているのに気づくと驚いた表情を浮かべる。
声は上げずに玲二の名を呟くその顔が見たくて、幼いころからよくこうして、庭を見下ろしていた。
3歳の頃やってきた、父の再婚相手の息子。父を奪われるかもしれないという危機と、わけのわからない嫉妬と、時を重ねるごとに膨らんでいく執着心は玲二にとってなくせないものになった。
常に側にいた和也が他人に奪われるかもしれないと気づいた時、玲二は和也を凌辱した。性交の方法などわからない、ただ孔を犯し、和也に自分を刻み込んだ。
――
書斎には従兄である久住高志もいた。体格と全体的な顔立ちは似ているが、受ける印象は全く違う。剛と柔だと言って笑った和也は、この数か月、高見家に戻ることがなく連絡さえも取れない状態であった。高志は訝しんでいたが、森島家に電話で尋ねてみても、和也は体調がすぐれないということで取り合ってもくれなかった。
玲二は表面上変わらなかったが、微かな焦りがあるのを長年の付き合いで感じ取っていた。
「で、森島家に突撃した結果が、この見合い話ってわけか」
玲二のデスクの上には開かれたお見合い写真があった。そこに写る令嬢は美しい少女であったが、玲二は一瞥しただけで放り投げてしまった。
「で、どうすんだよ。この話受けるのか?」
高志が一方的に話しかけている状態であるが、別に今に始まったことではない。和也がいれば諫めて会話を促そうとするが、和也が嫁した途端これだ。
「お前ら
…
もしかして、関係が切れたのか?」
その言葉に玲二の鋭い視線が高志に突き刺さる。
「んなわけねえよな。あんだけ和也に執着しているお前が、易々と和也を手放すはずもねえか
…
」
高志はこの二人の関係がただの義兄弟ではなく、肉体関係に変わった時のことも知っている。初めて玲二に犯され、目も当てられぬ状態だった和也を診たのは医師である高志の父だったのだ。外部の人間よりは身内が診た方がいいだろうと、その時、父と共に世話をしたのは高志だった。
ふたりが肉体関係を持つ以前から、玲二の和也に対する態度は他者とは違っていた。
「どうもしねえ。あいつは俺のだ」
玲二はそれだけ言って、また高志に背を向ける。
それが玲二にとって、唯一無二の譲れないものなのだろう。幼いころから和也にしか興味、関心がなく、そして当然のように我が物顔で長い間独占してきた。幼い頃、親の再婚で兄となった和也に反発していたくせに、そのくせ和也が他に関心を向けると、憤怒している姿をよく見ていた。
和也は15歳のころ、森島家の嫡男と婚約した。突然のことであったが、家同士のつながりを考えてのことだと説明されていた。
いつか離れ離れになるはずの兄弟の関係は変わっていった。
玲二にとって和也に肉体関係を強いたのは当然の成り行きなのだろう。そうでもしないと和也と繋がっていられないという切迫感もあったのだろうと高志は察していた。
和也が嫁し、表面上は変わらなく見える玲二だが、その心は和也から離れることはない。会えない分、玲二の心は和也を求め、その執着心は大きなものとなってゆく。
いつだったかホテルでの会食後、ふたりきりで甘い時間を過ごしていたようだ。世間から隠れるながらも二人は関係を続けていくように見えた。
だが、その密やかな関係を世間は許してくれない。目の前に迫っているのは現実だった。
――
雪のちらつく曇天のある日、和也は義祖父である克典に呼ばれ居間を訪れた。
昨日、元旦から滞在していた伊豆から戻ってきたところだった。愛人が経営している旅館でゆっくりと風呂に入って疲れをとってきたと、和也に土産話をしてくる。
勿論、土産も忘れない。屋敷のものたちにも菓子などを与え、義理の孫になる和也にも、明人と揃いの真珠がついたネクタイピンを買ってきてくれた。
今はあちらで気に入ったという饅頭をふるまってくれている。和也も促されるまま茶をすすりながら、その小さな饅頭をつまんでいた。
「何度訪れても、あの旅館は飽きることがないな。うまい料理、温泉もある。また目の前の海が美しくてな、冬だから今は荒れているが、その波でさえも風情がある」
よほど気にいっているのだろう。毎年、正月から一週間ほどを過ごすのだ。
「そういえば、新婚旅行もまだであろう?あちらもお前たちに会いたがっていたし、明人と二人でのんびりしてきたらよい」
「そうですね
…
機会があれば
…
」
和也は苦笑いした。温泉旅館を経営する克典の愛人を和也も知っている。幼い頃、和也もつれていかれたことがあるのだ。
家族旅行という名目だったので、当然明人も一緒だったのだが、女将が随分と世話を焼いてくれたのだ。
新婚旅行と聞いて、正月に同じ話題を明人としたことを思い出す。先日もそろそろ新婚旅行の旅先を決めたのかと問われた。仕事は大丈夫なのかと尋ねたが、黒崎享に任せるから大丈夫だとの返答だった。愚痴をぼやきそうな友人を思い描きながら、どこに行きたいか問われ和也は適当に返した。おそらく同じ話題を祖父から聞かされ話を蒸し返してくるだろう。
どう断ろうか
…
と思案していると、ふと目の前に手紙が差し出された。
「それはそうと、今朝、これが届いた」
克典氏が差し出したものを和也は受け取る。慶事用の切手が貼られたそれは、おめでたい知らせ出ることは間違いなかった。
「いったい、どなたから?」
宛名先は克典と和也宛てになっている。裏の名を見た途端、和也は息を止めた。
「
……
」
「以前、見せたお見合い写真があっただろう。あちらもこの春に女学校を卒業されるそうでな。秋ごろに高見の若造に打診はしていたのだが、とんとん拍子に進んで年明け早々結納も済ませていたらしい。知っていたか?」
「いえ
…
最近、連絡を取っていなくて」
そうか
…
と克典はうなづいた。
「何はともあれ、めでたいことだ。また新しい礎ができる。あの家の令嬢ならば、高見家も安泰だ」
「そうですね
…
」
晴れがましいことだ。義弟に伴侶ができる
…
それは喜ばしいことなのに、なぜか和也の心は晴れない。
白い封筒を掴んでいる指先も震えている。その震えが何を意味するか、和也はわからなかった。
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