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ガラシャ
2023-04-23 16:48:34
4425文字
Public
呪縛&その他
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【呪縛】sweet poison ③
なんだかんだで甘い話になりました。
「何言ってんだよ、馬鹿じゃねえ?」
「だけどよ。あの女、お前のことを言ってたぜ」
――
沢田のマンションでは仲間たちが集まって酒を飲み交わしていた。いつもは外で飲んでいるらしいが、今日はこのマンションで飲むらしい。
浩二からすれば、自分を貶めた連中であるのだが、この3年で馴染んでしまった連中だった。
「浩二、チューハイ!」
その中の一人が浩二に向かって叫ぶ。いいように使われるのは腹が立つが、好き勝手に冷蔵庫を開けられるよりはよい。
冷蔵庫を開けて人数分のチューハイの缶を取ると連中が飲んでいるリビングのローテーブルにどんと置く。
「サンキュー。つーかお前も飲めよ」
「俺は未成年だ」
「何か硬いこと言ってんだよ。相変わらず真面目だな、浩二は」
「いいじゃん、この真面目さが浩二の可愛い所なんだからさあ」
浩二はちっと舌打ちをする。こうやってからかわれるのは慣れているが、毎度腹が立つ。
6人ほどが今日は集まっているが、にぎやかなことだ。高校時代もうるさかったが、さらにうるさい。救いであるとすれば、この場に未成年は浩二だけということか。高校時代は半グレのようなことをしていた彼らも元は、名家や資産家の子息であり、大学に通うようになってからは遊び方を変えたらしい。
女の話、遊びの話、時には将来の話など、気の置けない仲間ということでいちいち盛り上がっている。
その彼らを横目にキッチンでつまみを作りながら、明日の仕込みをしようと冷蔵庫を開けると買い忘れがあることに気付いた。
「あ、しまった
…
」
冷凍庫も探るが、目当てのものはない。別のメニューに変更してもよいが、一度作ると決めてしまったので、なんだか悔しい。これは浩二の性分というべきなのかもしれない。この家の家事だって沢田に押し付けられたわけではないが、結局、自分からしてしまっている。
小さくため息をついて冷蔵庫を閉めた浩二は、リビングのソファに悠々と自分の指定席に座る沢田の側に近寄った。
「ちょっと買い忘れしたから、スーパーまで行ってくる」
「ああ」
沢田がうなづくと、別の仲間が揶揄をする。
「はやく帰って来いよ。じゃねえと、お前の旦那が寂しがるからさあ」
「何言ってんだよ」
そっけない返事をし、浩二はリビングを出ていく。途端にまた笑い声がもれるが、浩二は溜息をつくしかない。
どうもあの連中は、浩二が年下というもあり、弄り倒して構い倒そうとする癖がある。
寝室にパーカーとコサッシュを取りに行き、玄関でクロックスを履く。近所なのだし、これでいいだろう。
スーパーに行くだけとはいえ、あの連中から離れられるのだから少し気持ちが安らぐ。どうせならこのまま帰らないでいてやろうかと思ったが、どうせスマホに連絡が掛かってくるだろう。どこにいたのかと問い詰めてくる沢田に説明する手間を思うと、素直にマンションに戻った方が身のためだった。
――
玄関扉の音が閉まるのを聞き届けた連中は一気に視線を沢田に向けた。
「で、省吾。実際どうなんだよ、二人っきりの生活は」
相変わらず沢田は一人悠々と酒をあおっている。彼らには見慣れた姿であるが、格段にリラックスした雰囲気だった。
「どうもしやしねえよ。アパートの頃からよく泊まってたんだから、そんな格段に変わったことはねえ」
「でもさあ。あの頃とは違って、お前、外で飲むこと減ったじゃん?女と遊ぶこともなくなったしさ」
「んなもん。あいつがいるんだから、必要ねえだろ」
仲間たちからは、おおといった声が上がる。
「じゃあ、結構、楽しんでんだな。この生活を」
沢田という男は自分に必要がないとわかれば、何のためらいもなく切り捨ている男だ。仲間はともかく、そうやって人間関係を作ってきた沢田が、浩二と一緒に住んでいると聞いた時はみな一瞬瞠目した。沢田の浩二への執着ぶりは理解していたはずなのに、ついに囲ってしまうつもりなのだと気づいた。
「飯はうまいし、家の中は快適だしな。言うことねえよ」
「なんだよ、嫁さん自慢かよ」
「まあな」
「ほんとハマってんな。お前」
わははとまた笑い声が上がる。浩二をつまみに酒を飲み交わそうと示し合わせてきたのだが、本当にいいつまみになる。
実際に浩二が作ったつまみもうまいし言うことなしだった。
「よう、浩二」
――
マンションの自動扉を出たところで、浩二を呼び止めたのは遅れてやってきたカズキだった。男性ファッション誌からでてきたような姿だ。
「どこ行くんだ?」
「スーパー」
親し気に近寄ってくるカズキに素っ気なく返すが、カズキが肩を組んできた。
「なんだよ」
「俺も一緒にいくぜ」
「
…
何か欲しかったら、代わりに買ってくるけど?」
「つれないこというなよ。」
一見優男にみえるカズキの腕の力は強い。しっかりと肩を掴まれてしまい逃げられない。まだ人通りも多いというのに、こんな男と肩を組んでいるなんて注目を集めるに決まっているではないか。
浩二は今日何度目かわからない溜息を吐きながら、先導されるままスーパーへと歩いた。
――
歩いて5分ほどのスーパーはやや混んでいた。仕事終わりに買い物をしていく会社員が多い。
買い忘れたものの他にも、安売りになっているものがあり、次々と籠に入れていく。あのペースで飲むのだからはおそらくつまみも用意したものだけでは足りないだろう。
「そのセレクト、省吾の好みだよな。お前、案外あいつに尽くしてんだな」
何か買いに行くかと思ったが、カズキは浩二の後についてきて、籠の中をのぞき込んでくる。
「仕方ないだろ。ただで居候させてもらってるんだから、家主の好みの食事くらい作らねえと」
「居候って、お前が押しかけ女房するわけないんだから、あいつが無理やり住まわせてんだろ?そんなの俺たちとっくにわかってるぜ」
「
……
」
「お前らほんと、運命の出会いだったんだな。最初どうなるかと思ったけど、落ち着くとこに落ち着いた感じするわ」
「そんなんじゃないって!あいつ、女の匂いよくさせてるし、俺なんてその中の一人ぐらいにしか」
「何言ってんだよ。あいつ、女なんかとうに切ってるぜ?少なくとも、この2年はそんな気配ない。」
「だって、おいつから甘ったるい香水の匂いが
…
」
「んなもん、ビジネスに決まってんだろ」
スーパーでする話ではない。誰が聞いているかもわからないのに、話し込む内容ではない。だが、カズキの顔は真剣だった。だが、浩二の表情が硬いままだとわかると、はあと大きくため息をついた。
「浩二、いい加減、省吾を受け入れてやれよ。あいつ、この3年、マジでお前しか見てない。それは俺たちが証明する」
「
……
」
「ほら、買い終わったらさっさと帰ろうぜ」
籠を受け取ったカズキは、目のついたつまみなどを入れさっさとレジに行く。カズキから齎された情報がうまく処理できなかった。
――
飲み会が始まれば、朝方まで飲んでいることが多い。午前1時を過ぎたころから、仲間たちは次々と陥落し、それぞれが雑魚寝を始めた。
全く酔った気配がない沢田であるが、飲み終わったグラスをもってキッチンへ向かう。シンクにグラスを置くと、まだ飲んでいるメンバーに声をかける。
「寝室で寝てる。お前らもほどほどにしとけ」
「へいへい、わかってるよ。流石に、お前たちの寝室にははいらねえって」
「邪魔したら、浩二のうまい朝飯食えねえもんな」
「飲み会の締めの豚汁とかさあ、マジ最高」
スーパーから帰ってきた浩二が、豚汁の準備を始めたのだ。つまみでも作っているのかと思ったら、『お前らの朝ごはんだろうが』と言い放った時は驚いたが、浩二なりのやさしさなのだとみな理解した。
仲間たちの生ぬるい視線を受けながらリビングを出た沢田は、バスルームに入ると手早くシャワーを浴び、濡れた髪をタオルで搔きながら寝室に入った。
「まだ起きてるのか」
ライトは消されているが、ベッド上ではスマホの画面が光っていた。
「なんか、眠れなくて
…
」
本来寝つきが良く、いつもは沢田をおいてさっさと寝てしまうのに、今日は眠気を逃してしまったらしい。
「眠れなかったら、リビングにこればよかっただろ」
「あんな所にいたら、遊ばれるだけだ」
浩二が寝ると言って寝室に行ったのは日が変わる前だ。それから2時間、浩二はこうしてベッド上で過ごしていたらしい。
沢田はベッドに腰掛けた。
「カズキと何話してんだ?」
言いながらも耳にかかった髪を指先でかき上げる。
「ん、別に
…
」
そのまま耳たぶをやわやわ揉みこむと、嫌がる仕草を見せながらも、ベッドの上で向きを変える。
「スーパーから帰ってきてから変だったろ?誤魔化すんじゃねえよ」
スーパーからの帰宅後から、浩二は沢田の視線を避けていた。なぜかカズキも一緒にマンションにやってきたが、そのカズキに視線で尋ねると、肩をすくめていた。
今だって、身体は向いているが視線は合わない。そんな浩二の腕をつかみ、沢田が無理やり抱き起し、視線を上げさせる。
「あいつに俺の悪口でも吹き込まれたか?」
「そんなんじゃないっ。そんなんじゃなくて」
「なんだよ」
「
……
お前からいつも匂ってくる甘い匂いが、ビジネスでのことだって聞いて」
「もしかしてお前、俺が女と付き合ってると思ったのか?そんなこと気にする余裕があったのか」
「
……
」
浩二にとっては大事なことだ。今まで、沢田のオンナとして扱われてきたのだ。沢田が浩二を捨てるのに何のためらいもないだろう。だが浩二からすれば、関係が終わったからと言ってこの三年間をなかったことにはできないのだ。
「女なんていやしねえよ。毎日、このマンションに帰ってきて、三日も空けずにお前のこと抱いてんのに、俺にそんな余裕あると思ってんのか?」
唇をかみしめる浩二をみて珍しく大きなため息を吐いた沢田は、細い腰を抱き寄せて浩二を抱きしめた。
覆いかぶさるように細い体を閉じ込めた沢田は、首筋に顔を埋めて匂いを堪能する。甘く沢田を惹きつけて止まない匂いだ。同じシャンプーを使っているはずなのに、なぜこんなにも身に纏う匂いは違うのか
…
不思議でならない。
戸惑いがちに背に回される腕に、抱いた腕に力を籠める。
「俺はもう、お前を手離す気なんかねえからな、覚悟しろよ」
「沢田
…
」
「省吾って呼べよ。もう三年だぜ?いい加減、俺がお前のオトコだって認めろよ」
躊躇いの後、浩二の口から発せられた。
「しょう、ご」
言いなれないせいだろうか。浩二の口の中で音が絡んでしまう。
だが今はそれでいい。
腰を抱いていた手を背に沿わせて、首から後頭部の髪を撫ぜる。くすぐったそうに首をすくめた浩二にやわらかく口づけた。
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