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ガラシャ
2022-08-28 09:43:59
4242文字
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白い結婚
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籠の中の狂愛 壱
白い結婚(仮)改め、籠の中の狂愛です。中二病なタイトル…。
明人×和也の物語なのに、なぜか玲二×和也のシーンが多いという問題作です。最初は、R-18は避けようと思っていましたが、ダメでした…。壱の前半は、白い結婚(仮)と被っています。
全5話で構成しております。高志と享もちょっとだけ出てきます。
――
この婚姻は初めから、白い結婚であることは決まっていた。
ただ互いの家の結束のため、いわば政略結婚であることは誰に目から見ても明らかで、喩えそれが同性同士での婚姻であろうとも否を唱える者はいなかった。
ただ一人を除いては
…
。
――
高見和也は目の前の光景を眺めながら、ふうとため息を吐いた。老舗高級料亭の広間を貸し切って行われているお披露目会とは名ばかりの催しに、まるで晒し者になった気分だった。
ほら今も、奇異な目で和也とその隣にいる人物を見ては、囁き合っている人がいる。その視線が気になり、和也や豪華な食事に手を付ける気にもならなかった。
本来ならば、こんなお披露目会は必要ない。ただ和也が、住まいを移せばいいだけのことだと思っていたのだが、人々にとっては違うようだ。
社交の場として、互いに顔を突き合わせ歓談を続けている。
ため息をつくと、隣に座る人物が話しかけてきた。和也の隣に座り、堂々たる姿で人々の祝辞を受けている、彼の人物が。
「和也、疲れたのかい?」
そっと問いかける声は非常に耳障りよく、男の熟練ぶりを感じさせた。
――
森島明人。森島家の嫡男であり、地域産業の一翼を担う人物だった。
「疲れたのなら、別室で休んでいても良いが」
「いえ、大丈夫です。お披露目なんですから、俺もここにいないと」
「そうだな。ようやく君が、我が妻となるお披露目の会だからな」
「
……
ええ」
明人本人から出た言葉に、和也は微かな違和を感じる。『我が妻』という言葉にだ。あくまで便宜上のことなのに、明人が殊更に強調しているように聞こえたのだ。
和也は今日、この森島明人と婚姻関係を結ぶこととなっている。婚姻とは表向きのことであり、実際は和也が明人の養子となる手筈となっていた。
両家の結びつきを強め、更なる地域産業の発展を狙っての事だった。
しかし実のところ、和也自身は高見家の血を引いていない。高見家の人間となったのは5歳の頃であり、母の婚姻によるものだった。
和也の立場は微妙な物だった。高見家にはすでに嫡男がおり、和也は当主の養子となったものの、家を継ぐわけではなかった。
嫡男と変わらぬ養育を受けてはいるものの、高見家を継ぐ権利は和也にはなかった。
然し事態が変わったのは和也が14歳の歳だった。
その年、流行病が蔓延し、当主と和也の母が相次いで亡くなった。その際、和也は一時的な当主となる。嫡男である義弟の玲二が尋常小学校に在籍しており、幼かったためだ。
いずれかは義弟である玲二が高見家を継ぐ。和也は高見家の血をひかないが、亡き当主の義理の息子として、その後を継いだ。
――
常に時代は流動的な物であり、容赦がない。海外と戦争を始めた激動の流れに、当主を無くした高見家がついていけるはずもなかった。今後を危ぶんだ高見家は、以前から関わりのある森島家を頼ったのだが、森島家当主克典氏が和也の後見人となる条件として、和也を森島家に貰い受けることを提案してきたのだ。
当主の直系の孫である、森島明人の伴侶として。
森島家当主である克典氏はなぜか和也を気に入り、幼いころからあれやこれやと面倒を見てくれる人であった。高見家というよりは、和也へ執心していた。その克典氏が、直系の孫である明人の相手として和也を指名してきたのだ。
この返答に和也自身驚いたものの、考え様によっては悪い話では無かった。
和也の立場は将来微妙なものとなる。高見家の血を引いているわけではない自分は、いずれ高見家を離れることになる。
ならば、亡き義父の恩に報いるために、高見家に有益となる形で離れようと思っていたので、森島家の提示した条件は渡りに船だった。
――
それに男同士なのだから、確実に白い結婚になることは分かっていた。
幼いころから克典氏に師事していたので孫にあたる明人とは親しい。柔らかい眼差しを和也へ向ける明人を兄のように慕っていた。
明人が年下で同性である自分を相手にするとは到底思えなかったし、端正な容姿と上背のある明人はいずれ、女性との間に子を儲けるだろう。
お飾りの立場になるのか、そもそも森島家との縁が切れるのか、そこまでの予測は和也にはできなかったが、和也はどちらでも一向に構わないと覚悟していた。
本来なら、この婚姻は和也が16歳になった頃には結ばれているはずだった。だが和也は既に21歳となっていた。
婚姻が遅れた理由はただ一つ、和也の義弟である玲二が高見家から離れることを許さなかったからだ。
当主である父をなくし、更に血が繋がらないとはいえ、長年親しんだ和也が傍からいなくなることを少年が拒んだからだった。その拒絶はすさまじく、高見家は困り果てた。和也自身も散々自分に反発してきた玲二の思わぬ執着に閉口するほどだ。高見家の一方的な都合を、森島家はこの5年待ってくれていたのだ。
明人から視線を外し、来客を見渡していた和也は、近寄ってくる人物に眉をひそめた。
「和也」
義弟である高見玲二だ。今年19となった青年であるが、その容姿と体格は人目を引いている。幼い頃の気性の烈しい気性は落ち着いたかのように見えた。
和也の唯一の身内だった。
「話がある」
有無を言わせない声に和也はじっと見上げると、明人に断りを入れる。
「
…
すみません。ちょっと、席をはずします」
立ち上がった和也の腕を玲二が掴み、縁側に誘導される。ふたりが連れ立つ姿は、人目を惹く。義理の兄弟とは言え、高見兄弟は世間に名を知られていた。
会場を背に、話し込む二人にいくつもの視線が投げ掛けられる。
「高見家のご当主は相変わらず、義兄君をよく慕われておいでですな」
「それは、幼き時分より、兄弟として育ってこられたのですから、当然でしょう」
もう一人の今日の主役である明人は長年見守ってきた青年とその義弟の姿を、冷たい視線で眺めているのであった。
――
お披露目会が終わると、和也は明人と共に車に乗り込み、森島家本家に向かった。
「おじいさん、これからは身内としてお世話になります」
明人と玄関で別れた和也は、明人の祖父であり当主である森島克典氏の居間に通され歓迎を受ける。幼いころから何度も通った森島本家ではあるが、今日から和也の立場が変わる。
「ようやく長年の願いがかなったな。我が家の事は良く知っているとは思うが、末永く頼むぞ」
「はい。どうかこちらこそお願いします」
克典氏は和也が幼いころから、自分の養子に貰い受けたいと高見家に申し入れていた。だがそれは和也の義父である高見家当主がのらりくらりと躱していたという経緯があったのだ。そのかわり、5歳の頃から克典氏に師事し、森島家で礼儀作法を学んできた。
「今日は疲れただろう。ゆっくりと休みなさい」
和也は女中に連れられて、離れへと案内された。てっきり本家で暮らすものと思っていたが、どうやら違うらしい。
本家よりは小さいといってもそこは森島家の離れだ。一般家庭よりは随分と広い。
女中に離れの中を案内され、最後に一つの襖の前に案内された。
「こちらが、ご寝室でございます」
襖を静かに開けられ、目を見開いた。そこにあったのは、並べられた二つの布団だった。
「何の、冗談だよ
…
」
これではまるで夫婦の寝室ではないか。和也は奇異な目でそれを眺める。
「何か、おっしゃいましたか?」
女中は不思議そうに和也を見やる。
「あの、申し訳ないのですが、別の
…
」
「和也」
別室を用意してほしいと女中に告げようとすると、風呂上がりであろう明人がいた。寝間着である浴衣に着替え、髪も下ろされていた。
「今日は疲れただろう。風呂にはいっておいで。
――
君ももう本家に戻りなさい」
「はい、それではこれで」
明人は和也に告げると、そのまま女中にも命じた。去っていく女中を見送り、和也は明人に向き直った。
「あの、明人さん。俺はこちらで、暮らすのですか?」
「本家は人が多いし、ゆっくりできないからな。使っていなかった離れを、若夫婦用にとじいさんが随分手を入れさせたんだが、気に入らないか?」
「いえ、気に入らないというわけではないのですが
…
」
実質この家に住むのは、明人と和也ふたりだけということだ。新婚夫婦らしくという配慮らしいが、そんな配慮を和也は想定していなかった。
明人に促され、和也は風呂に入る。大人二人が入っても余裕のある檜風呂だった。
風呂に入るのは好きだが、どうも落ち着かない。和也は素早く風呂を済ませると、早々と寝室に戻った。
寝室は既に明かりが小さく灯されているだけで、明人は書物を読んでいた。部屋に入らずその様子を眺めている和也に、頁を閉じ、明人は声をかける。
「もう寝ようか」
「はい
…
」
布団に入る明人を倣い、躊躇いつつも和也も部屋に入るともう一つの布団に入る。ふかふかと心地よい布団であるが、身の置き方にこまってしまう。
高見家ではベッドで眠っていたせいだろうか。見上げる天井も違い、それに匂いも違う。
「和也。明日から俺は仕事だ。朝食を頼みたいんだが」
突然話しかけられ、そして明人の一人称が『俺』に変わっていることに気づいた。
「え、あ、はい
…
朝食ですね」
和也が朝食を作るということは、女中たちも朝はやってこないということだ。
やはりこの離れに住むのは、明人と二人ということなのだろう。となれば、家の掃除や洗濯も和也が担わなくてはいけない。
高見家でも義弟である玲二の身の回りの世話をしていたので慣れている。ならば、この家での和也の役割は明人の身の回りの世話をすることになるのだろう。
ただの居候扱いではないことに安堵する。翻訳の仕事をしているとはいえ、明人の養子になり、森島家で住むのであれば、養ってもらうことになるのだから。
「和也、寝たのかい?」
明人の声が遠くに聞こえる。自分の立ち位置がわかり安心したのだろう。早朝からの疲れのせいで眠気が襲ってきた。
うつらうつらとし始めた和也の前髪に、何かが触れる。髪をすくような動きに、それが明人の指先であることがわかる。
(なん、で
…
?)
何故明人がそんなことをするのか分からない。和也は小さく身じろぐが、明人を押し退けることはできず、そのまますっと寝入った。
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