ガラシャ
2022-06-09 21:44:40
3464文字
Public libido
 

libido 6-2

最終章は、6章3話、7章2話の構成でお送りします。数か月、書きまくって、修正しまくって、加筆して…とずっとして、ようやく完成した作品です。

「やっぱりさ、和也がいないと何も愉しくねえな」

 ――森島明人のオフィスに訪れたエッジは、深々と革張りのソファに座りながら、ぼやき始めた。
「メッセージいれても電話しても、忙しいって一蹴されるしよ。アモーラルに誘っても、最近は気もそぞろっていうか、すぐに帰っちまうし、何も愉しくねえ。しかも、他の連中は『和也不足だ』っていって、八つ当たりしてくるしよ。
 しかも、これからは高倉別荘に引っ込むんだもんな。東京に来るつもりもねえんだろうな」
 段々自分の発言に苛立っていたようで、自分の革のパンツから乱雑に煙草を取り出すと吸い始めた。
 エッジが煙草を吸い始めた途端、空気清浄機が音を立てて作動し始めた。
 明人はパソコンから目を離さない。メールのチェックを早く終えてしまいたかった。
「いい加減、あんたの秘書でもなんでもいいから、側においちまえばいいのに。そしたら、俺だって毎日、和也と会えるのによ」
「拗ねているように聞こえるぞ」
 そこでようやく、明人はパソコンから目を離し、エッジを見やった。
「実際拗ねてるんだよ。最近、俺の誘いに全然のらないし、朝帰りも頻繁だろ?その上、高倉別荘に戻ったらいつ会うんだよ」
 ああと絶望の声を上げる。
「あいつさあ、何であんなに無欲なんだろな。あいつが望めば、俺らはあいつに跪くんだぜ。欲しいものがあったら何でも捧げるのに」
「さあ、な。周りからは求められるのに、自分からは何も求めない。和也らしいといえば和也らしいがな」
 これだけ愚痴られてしまえば仕事ができない。しかも和也のこととなれば、無視もできない。高級オフィスチェアに背を預け、明人は煙草を取り出した。
「あんたさ、兄貴としてあいつに忠告してやれよ」
「なにをだ?」
「男の純愛舐めてやがると、絶対いつか、痛い目みるってな」
 自らの想いを『男の純愛』と言い切ってしまえるエッジに半ば驚く。
「男の純愛ね。肉欲の伴わない、ひたむきな愛ということか?」
 高級ライターで煙草に火をつけ、深く吸う。
 ――『男の純愛』と聞き、ふと明人はダークマターでキングと呼ばれるようになった男のことを思い出した。
 異母弟である和也ならば、この男を懐柔できるのではないかと半ば賭けのように高倉別荘を紹介したが、思った以上の成果を見せ、玲二をダークマターのホストとして雇うことができた。
 和也はどうだか知らないが、玲二は随分と和也を気に入ったようであった。
 夏頃、アモーラルで揉めていたとバーテンの男から情報を得ており、注意深く見ていたが、トラブルなどには発展しなかったようだ。
 麻原でふたりが連れ立っている噂は聞いたことがない。恐らく、高倉別荘に玲二が定期的に訪れ、親交を深めたようだ。
 そして思わぬところから、ふたりの情報を得ることがあった。
 玲二の親類である久住病院の新しい医療センターの祝賀会にふたりで出席したというのだ。
『久住病院の御曹司とキングは、まあ目立っていて当然という感じだったが、君の弟君も彼らに劣らぬ程、人の目を引きつけていた。
 ――あのキングが自らエスコートしていて、見事に絵になっていたよ。ふたりはどういう関係なのかと、ご婦人だけでなく皆が興味津々だったよ』
 ダークマターでも上客である男が齎した情報に、明人は驚いたものの、望んだとおりの展開にほくそ笑んだものだ。
 和也自身のためにも足元を盤石にする。玲二はそれを自分のやり方で、成し遂げようとしているようだ。
ふたりを引き合わるもう一つの目的としていたが、見事に和也は玲二を誑し込んだようだ。
 その時、美しい木目の高級オフィスデスクにおいた明人のスマートフォンが鳴った。
 手を伸ばして画面を見た明人は画面を押す。
「はい」
『明人さん?冴子です。お仕事中、ごめんなさいね。いきなりで申し訳ないのだけれど、和也くん、そちらにいないかしら』
「和也、ですか?」
 明人は眉を顰める。その名前につられ、エッジも顔を上げた。
『いつもなら高倉別荘に戻っている筈なのだけど、戻ってきてないのよ。さすがに過保護かと思って、昨日は連絡しなかったのだけど、今日も戻ってないの。――電話にも出ないのよ』
 冴子の声には焦燥が読み取れた。
『もしかして、事故にでもあってるんじゃ
 普段は高級旅館を切り盛りする冴子の動揺した声が明人の耳に届く。
「おちついてください、冴子さん。こちらも探しますので、どうか冷静に。
 ――申し訳ないのですが、そちらの警察の交通安全課に、和也がバイクで事故にあっていないか、問い合わせしておいてくれますか?」
 明人の落ち着き払った声に、冴子は幾分か冷静さを取り戻したようだ。
『ええ、そうね。私ったら気が動転して
 それはそうだろう。冴子にとって和也は我が子同然の存在なのだ。心配でたまらないのだろう。
「あと、すみませんが、本家のじいさんにも連絡を。何か和也から、じいさんに言付けがあるかもしれませんから」
『わかったわ』
 冴子との電話を切り、エッジへ顔を向ける。
「どうしたんだ?」
「冴子さんだから。和也が高倉別荘に戻っていないらしい」
「どういうことだ?今日は土曜だろ?帰ってないって
 ――とりあえず、俺からも和也に電話するか」
 そういってエッジは自分のスマホを取り出して、操作をする。まもなくコール音が鳴るが、10コールが過ぎると、留守番電話に切り替わった。
「でないぜ、あいつ」
 エッジの呟きを聞き、明人はデスクに引き出しを開け、車のキーを手に持った。
「これからマンションに見に行く」
「俺も行くぜ」
 足早にふたりはオフィスをでる。
 明人の運転で向かったマンションの部屋の前に立ち、インターフォンを押すが、何も反応がない。
 明人はカードキーをかざすと軽い電子音がし、鍵か開錠される。
 玄関に和也の靴はなかった。
「アイツの部屋をみてくる」
 エッジは和也に癒されるために何度もこの部屋に訪れていたため、和也の私室がどこにあるかもしっている。
 明人はリビングに入ると、いつもと同じ光景が広がっていた。
 だが何だか、いつもより空気が淀んでいる。遮光カーテンも完全に引かれており、整然としている。もう数日も、換気がなされていないのが分かった。
「おい、これ見ろよ」
 エッジがリビングに駆け込んでくる。手に持っていたのは、何の変哲もないメモ帳の一枚の紙だった。
 そこに書かれているのは、見慣れた和也の字であった。
『今までお世話になりました』
 性格を表すかのような、お手本になるほどの流麗な文字で書かれている。
「アイツの部屋のパソコンと、本が無くなっている。服も全くねえぞ」
 和也は元々ものが多い方ではない。必要最低限のものだけ、このマンションにおいてあった。その必要最低限のものさえなくなっているのだ。
「なあ、あんた、和也の兄貴だって言うのに、アイツがどこにいるか分からねえのかよ」
 恫喝するかのような声に、明人は目を上げる。そこにはエッジの名にふさわしい、切れるような目をした男がいる。
「それを言うならお前だろう。親友と名乗るくせに、和也から何の相談も受けていなかったのか」
 明人も凍てつくような冷たい目でエッジを見据えた。
 ピリピリと肌を刺すように殺気立っていた。
――まあ、こんなところでいがみ合っている場合じゃねえな。とりあえず、探さねえと」
 永遠に続くかと思ったせめぎ合いは終焉を迎える。
「そうだな。あの子の交友関係をあたるしかないが、とりあえずアモーラルにいくか」
 ふたりは再び連れ立ち、マンションをでる。
 住人のいなくなった部屋は再び静寂を取り戻した。


∞∞∞∞

和也は身一つの逃避行をしております。和也としては、大学に入った時点で森島家から離れようと思っていたので、バイトしつつ節約の生活を続けていた感じです。

ツイッターが永久凍結中で使えないため、こんなところでインフォメーションになるのですが、このlibidoが完結ののちは、籠の中の狂愛の続きと、渇愛と呪縛のコラボの話を投稿していくつもりです。
吉原作品で好きな受けが、和也と呪縛の浩二くんなもので半端ないエゴイストに執着されている身の二人が、同じバイトとかだったら、とんでもない癒しの空間になるのではないかと
呪縛ベースなので渇愛の方は友情出演程度なのですが。