ガラシャ
2022-06-09 00:20:23
3242文字
Public libido
 

libido 4-2

玲二の過去編です。libido軸における玲二と和也の本当に出会いになります。

 ――和也との出会いは、玲二がアモーラルに出入りするようになる、遥か昔のことだった。
 玲二の父・祐介と母・美也子の関係は、玲二が幼少期の頃より良好とは言えなかった。祐介はいわゆるエリートサラリーマンで朝から深夜まで働いていたし、美也子はファッションアイテムとして自分の夫がエリートであることを誇っている女だった。
 息子である玲二も例外ではなく、人並み外れて美しい息子を持った彼女は、玲二を自分の一部として愛していた。習い事は幼いころから散々させられ、幼稚園、小学校もいわゆるお受験をし、名門私立校に通っていた。
 エリートであるべきと押し付ける母・美也子よりも玲二は父・祐介になついていた。休日は必ずといっていいほど遊んでくれたし、玲二の興味があるものを一緒に調べてくれた。
 その祐介が、月に一度、玲二をおいて出かける日があった。どこか落ち着かない様子で支度をする祐介に向って、玲二は駄々をこね、ついていくと言って聞かなかった。美也子もとめなかった。どうしても行きたい講演があるのだと言って、昨晩、もめていたせいだ。
 自分の妻の態度にため息をついた祐介は、玲二を伴って出かけた。祐介と玲二は電車に乗り、乗り継ぎをした。途中で、デパートのお菓子売り場に立ち寄り、ケーキを10個ほど購入した。それから40分ほど電車に揺られ、自宅マンションから1時間ほどの駅に着いた。余り周りに高い建物が少ない駅であった。自宅と同じ都内ではあるが、人通りも少なく、田舎といっていいくらいだ。
 駅から10分ほど歩くと、ある建物が見えてきた。一軒家に見えるが、やや大きく、庭も広そうだ。『あいりすハウス』と書かれた表札に、玲二は首を傾げた。
 ここはどんな場所なのか、祐介に問いかけるために見上げると、祐介はその建物に併設された庭を見つめていた。
 そこには、ひとりの少年がいた。庭には何人か子どもたちがいたが、少年はその子どもたちには混じらず、ひとりで本を読んでいた。
「あの子は和也というんだよ。一人ぼっちで可哀想な子なんだ」
 祐介はその少年を見つめながら、懐かしそうな、愛しそうな複雑な顔をしていた。
 庭にいた子どもたちに付き添っていた若い男性が祐介と玲二に気づき、会釈をする。そしてしばらくすると、初老の男性がやってきて、話しかけてきた。祐介は手に持った紙袋を差し出した。
「いつもありがとうございます。和也を呼びますので、どうか応接室へ」
 応接室に通された祐介と玲二に、それぞれ茶とオレンジジュースが振舞われる。オレンジジュースをストローですすっていると、祐介が和也と呼んだ少年が初老の男性に付き添われてやってきた。
「やあ、和也くん。元気だったかな?」
「はい。いつもお菓子をありがとうございます」
 祐介の柔らかい声に、和也は整然と返す。恐らく年齢は玲二とは変わらないだろう。だが、同年代の子どもに比べ、随分と大人びている。
「最近学校はどうだい?勉強で難しいところはないかい?」
「大丈夫です。ここの先生たちが宿題を見てくれるので」
 祐介の慈愛に満ちた問いかけにも、しっかりとした声色で答えるが、自分から喜んで話しかけるという感じではなった。
「和也、高見さんにすこしお話があるから、お部屋に。息子さんもいいですか?」
「玲二、和也くんと遊んでおいで」
 祐介に促され、玲二は立ち上がった。
 ――和也の部屋だというそこは、ひとり部屋ではなかった。
 2段ベッドが二つあり、勉強机も4っつある。
「今は誰もいないから、自由に遊んでいいから」
 そうはいっても、遊べるものは少ない。綺麗にはしてあるものの、どれも使い込まれている。和也は自分ものであろう勉強机の前に座り、小さな絵本を広げた。
 玲二は和也の側に近寄り、座り込んだ。
「これ、読みたいのか?」
 玲二はこくりと頷く。
「読めるのか?」
「読める」
 玲二はこれが英語だと分かっていた。幼稚園の頃から英語教室にも通っている。だから読めると思っていたが、絵本の中身を理解することはできない。アルファベッドと単語を知っているだけでは、絵本に描かれた文字は難しいようだ。
「これは、フラワーって読むんだ。日本語では花」
「それぐらいは知っている」
「そっか、じゃあ、分からないとこだけ聞けよ?」
 和也は玲二にて絵本を譲ると、自分はランドセルの中からノートを取り出し、何かを書いていた。
「和也、これ」
 玲二は背を向ける和也の服の裾を引っ張る。
「ああ、それは
 30分ほどだろうか、ふたりでそうやって過ごした。和也は素っ気なく最低限のことしか教えてくれなかったが、それでも周りの大人や子どもたちとは違っていた。
 玲二の疑問に、父と同じくらい真摯に応えてくれた。
「玲二、そろそろお暇しようか」
 和也の部屋にやってきた祐介が、玲二に帰ろうと告げた。
「お父さん!和也すごい、英語をいっぱい知ってる」
「ああ、やっぱり。そういうところもよく似てるんだな
 祐介は愛おしそうに和也を眺めていた。初老の男性と和也は玄関まで、祐介と玲二を見送ってくれた。
 玲二は気付いていた。自分を迎えに来た時から祐介の顔は青ざめていたことを。玲二の手を掴んだ大きな手も震えていた。
 行きと同じように電車を乗り継ぎ、帰路に着く。和也と過ごしご機嫌な玲二と違って、祐介は言葉少なげだった。
 その夜のことだった。祐介と美也子の仲が完全に決裂してしまったのは
「あの女の息子が、そんなにかわいいの!?」
 美也子がヒステリックに叫ぶ。嫉妬を滲ませた、凄まじい形相だった。『あの女の息子』が、和也を指しているのは玲二でもわかった。
 ――その夜、祐介は出て行った。玲二はそれを、祐介は自分と母ではなく和也を選んだのだと思った。
 美也子は毎日ヒステリックに、祐介への恨み言と、和也への毒素を吐き、玲二へと二度と修復できない傷を作った。
「お父さんは、あなたを捨てたのよ」
 玲二はその日から、誰も信じなくなった。誰よりも愛情を注いでくれた父が、他人を選んだのだ。その事実は美也子に言われるまでもなく、玲二は分かっていた。
 玲二の生活は荒れた。中学に上がるころには、家に帰らず超問題児と呼ばれ、美也子が手に負えないと祐介に泣きつくほどだった。
 祐介に引き取られ、新たに購入した家で暮らし始めたものの、昔のように祐介を慕う気持ちはなかった。
 祐介が死んだ時も、『ああ、そんなものか』と他人事にように思ったものだ。それを久住の伯母は奇異な目で見ていたが、玲二にとっては、祐介という存在はそんなものになってしまっていた。
 ――何の喜びも悲しみもないモノクロの世界玲二の世界は常に、色がなかった。
 自分と『他人』自分が黒なら、『他人』は白そんな感覚だった。
それが俄に色を取り戻していったのは、繁華街である麻原のクラブ・アモーラルに出入りして、3カ月ほどたった日のことだった。
 麻原にはいくつかのチームがあり、絶えず、牽制し合っている。
 このアモーラルのオーナーが麻原のフィクサーと呼ばれている森島明人が経営しており、麻原のバランスシートの一つを担っていると、玲二は既に知っていた。玲二自身がこのアモーラルに出入りする理由は単なる気紛れだった。

∞∞∞

玲二は幼い頃は素直な子だったらしいので(笑)

渇愛原作の感想として「親の離婚ぐらいで玲二の性格が歪みすぎ」ってのはよく言われてますが、そもそも親との関係がうまくいってない説をとりたいです。
幼少期からの母親との愛着がうまく行っておらず、それを補っていた父親との関係もひびが入り、いわゆる愛着障害の状態ではないかと。
愛着障害の場合、特定の人間との愛着のし直しが克服方法といわれていて、その相手が和也で、玲二は和也に執着しているってのを考察しています。