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ガラシャ
2022-06-09 00:01:25
5524文字
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libido
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libido 3-2
原作寄りの話になります。高志の登場と、麻美ちゃんのことがでてきます。libidoにしては穏やかな話です。
――
2時間強の映画をセクハラ紛いの行為を受けながら見終えた和也は、またもや玲二に引き摺られ、車に乗せられる。
玲二の車で20分ほどかけて、映画館から住宅街に辿り着いた。駅からは近そうだが、閑静な住宅街といった感じだ。
とある一軒家の駐車場に車が止まる。
「ここは?」
「俺の家だ」
玲二のイメージからすると、この一軒家はなんだかちぐはぐだ。シックなデザインの家であるが、一昔前の流行のものであるし、長年人が住んだ形跡もある。
「家族がいるんじゃないのか?」
「親父は2年前に死んだし、お袋は昔離婚して、この家には住んだことはない」
「そうなのか
…
」
思わぬところで玲二の家庭状況を知ってしまった。それ以上何も言えず、玲二について玄関に辿り着くと、玄関先にサイズの大きな革靴があった。
「あいつ、来てんのか」
玲二が呟く。どうやらこの靴は玲二のものではないらしい。玄関の間口を上がり、廊下からリビングに入った途端、美声が投げかけられた。
「ようやっとお帰りかよ。待ちくたびれて、根が生えるかと思ったぜ」
やや威圧的にも感じる声色に和也が立ち止まると、玲二が手を伸ばして背を押してきた。そのせいでリビングに足を踏み入れることになってしまった。
「おっと、客か?」
玲二と体格的に遜色がない男がソファにどっかりと座って、和也をみていた。遠慮なく凝視され、和也はたじろぐ。
女性に確実にモテるハンサムな顔立ちは玲二と面影が似ている。
「お前には関係ないだろ。それより、何でここにいるんだ、高志」
「おいおい、折角来てやった従兄弟にその台詞かよ。随分だな」
言葉の応酬に和也は逃げ腰になった。従兄弟だというふたりは冷たいほどの声色で会話をしている。
「あ、あの」
玲二と高志の視線が一気に和也に向く。
「俺、邪魔みたいだし、帰るわ
…
」
他人である自分がいて良い場所ではない。
「ダメだ」
しかし、玲二がそれを留める。
「和也、ここにいろ」
その台詞に驚いた顔をしたのは高志だった。男らしい眉をひそめて、奇異な眼で玲二をみている。
なぜそんな表情をするのか和也は分からなかったが、沈黙が落ち、気まずくなる。
「じゃあ、コーヒーでも、入れよう、か
…
?何か、話があるんだろ?」
なぜこの場を取り繕わないといけないのか、自分でも疑問に思いながら、話が進むように提案をする。
「あるのか、高志?」
「あるから態々きてやったんだろ?まあ、お前が聞かれてもいいってなら、俺も別にいいけど。
――
俺、ブラックで」
「俺もブラック。カップは適当に探ってくれ」
「わかった」
和也がキッチンを探り始めると、玲二もぞんざいな態度でソファに座った。
「で、何の用だ?」
「お前の高校の時の先輩だった津村さん。妊娠したらしいな」
「それが、なんだ?」
「彼女、周りに迷惑かけまくってる」
「ああ?」
「子どもを産みたいから、玲二の連絡を教えてくれってさ。うちにもきたし、麻原でも聞きまわっているらしい」
穏やかな話ではない。
3人分のコーヒーカップを食器棚から取り出した和也は、続いてインスタントのドリップコーヒーを見つけた。
瞬間湯沸かし器に水を入れてセットする。することが無くなり、つい会話が耳に届いてしまったのだ。
玲二の表情は冷たいままだ。ツムラという女性と玲二がどういう関係かは会話では詳しくは分からないが、高校というキーワードを考えると、長い付き合いなのだろう。
妊娠したのは恐らく数か月前のことなのだろう。和也に関係を迫っている一方で、やはり女性との関係はあったらしい。
玲二らしいというか、そのことに嫌悪感や不信感を持たない自分を和也ははっきりと感じた。
「中絶するとなると、これ以上は体に負担がかかる時期になる。お前、津村さんとちゃんと話し合えよ。彼女が納得するように、説得しろ」
「はっ。俺はあいつにガキができた時に言ったぜ、『いらねえ』てな。それをあいつがずるずる先延ばししているだけだろうが」
「
――
玲二。もし、彼女が子どもを産んだら、お前も責任をとらなきゃいけなくなるんだぞ?」
「俺はガキなんかいらない。だから、責任もとらない。あいつが何を勘違いしようと、俺があいつとあいつのガキのために何かをすることはない」
湯が沸く。和也は三人分の封を切ると、それぞれにカップに設置し、湯を注ぎいれる。ふわりと芳しい匂いが和也を包んだ。
「あの、俺が部外者なのはわかってるけど
…
」
ローテーブルの前に膝を付き、余りの言い草に二の句が継げない高志の前にソーサーとカップを置き、続いて玲二の前にも置く。
「いらないなら、いらないできちんと彼女を納得させた方がいいと思う。じゃないと、この世に必要とされない子が生まれてくる」
和也のように、誰にも必要とされず自分がどうして生まれたのか分からないまま生を受ける子どもができてしまう。
初めて真摯に、和也は玲二に向き合って、言葉を紡いだ。いつも視線を避けていたが、今は違う。玲二に向けて、真摯な言葉を告げた。
玲二は何の感情もなく、じっと和也を見つめていた。高志も同じように和也を見つめている。
口出ししたのはいいものの、次第に居心地の悪さを感じ、慌てて立ち上がった。
「悪い、余計な口出し
…
」
和也の言葉を遮り、玲二が高志に声をかけた。
「麻美に連絡つけてくれ」
「わかった。話し合うのは
…
俺ん家でいいな。おふくろもヤキモキしてるから、全部そこで決着付けろ」
「ああ」
これで話は終わりだという様に、それぞれ珈琲を口にする。和也は立ち上がると、ダイニングテーブルに置いたままの自分の分の珈琲を飲んだ。
和也が飲み終えた頃には、今までの緊迫した雰囲気はどこにもなくなっていた。
「こっち来いよ」
玲二の呼びかけに、カップをシンクにおいた和也は玲二の隣に座った。体面のソファに座っている高志も飲み終えて、和也に話しかけてきた。
「和也って言ったよな。もしかして、大学生?」
「4年生だけど」
「浪人はしてないよな?」
「してない」
「じゃあ、俺と同い年だな」
「あ、そうなのか」
てっきり年上だと思っていた。体格もあるが、一線を画す風貌は玲二の従兄弟らしく、堂々としている。
「え、ってことは玲二もそれぐらいの歳なのか?」
お互いに名を呼び捨てにしていたし、喋り口調や見かけからして、ふたりの年齢は近いと思っていたが
…
。
「お前、歳いってなかったのかよ」
「歳は関係ないからな」
「いままあ。そうかもしれんが
…
。あのな、和也。こいつ、俺らより2つ年下だせ」
「嘘、だろ?」
和也は絶句する。思わず、隣に座る玲二を凝視した。
この圧倒的な存在感はなんだ?
和也よりふたつ年下ならば、出会ったときは、20歳を過ぎていない可能性がある。接客業として、20歳未満の男に酒を提供してしまったかもしれないというショックと、そんな男に自分は縛られて、翻弄されているのかという戸惑いがあった。
「年下は嫌なのか?」
和也が言葉を紡げないことを、何を勘違いしているのか的外れなことをいう。
「いや、そうじゃなくて、年下だとは思ってなくて」
「玲二のこと、いくつだと思ってたんだ?」
高志が尋ねる。
本人を前にして、口にしていいものかと戸惑いながらも、玲二と高志の視線が促してくる。
「25、6かと
…
」
「まあ、ふけてるからな、こいつ」
「人のこと言えんのか、てめえ」
フォローのつもりなのか和也の発言に対して、高志は玲二への嫌味を重ねる。そして玲二も冷たく返した。
それが血というものなのだろうか。玲二は剛、高志は柔というくらい印象は違うが、この二人には確かに血の繋がりがあることがわかる。
和也とて異母兄である明人や、祖父、森島家親類もいるが、似ていると言われたことがない。血の繋がりを疑われたことも少なくない。森島家では、和也はいつも孤独であり『他人』だった。
そう、いつも『他人』なのだ。
それをこのふたりの前で直視することになり、胸がざわつくのを感じた和也は立ち上がった。
「俺、帰
…
」
「まだ、いいだろ?門限がある訳じゃあるまいし。
――
それより腹減ったな、ピザでもとろうぜ」
玲二が留める。時間は5時半になっていた。夕食にはまだ早いが、腹は減ってきていた。
「いや、でもっ」
「ピザが嫌なら、他のものでもいいぜ。何、食べたい?」
高志も重ねて尋ねてくる。
ピザを食べたい、食べたくないという話ではないのだが
…
。立ち上がったものの、すでに玲二の手によってソファに座らされていた。
和也が応えないと、逃がして貰えそうもない。
「
…
俺、デリバリーとか頼んだことないから、何があるかわからねえ」
「おいおい、どこの箱入りだよ」
大袈裟に肩を竦め、高志が呆れている。初対面の人間に対して失礼な気はするが、これが高志のパーソナリティらしい。和也が同い年と知って、一気に距離を詰めてきた。
「いつもは自炊してんだよ。あと、週末は賄いがでる」
「賄いって、どこかの飲食店でバイトでもしてるのか?」
「違う。家が旅館なんだ。高倉別荘っていうんだけど」
「え、高倉別荘って、あの?じゃあ、お前、森島克典氏の孫か?」
「そうだけど
…
なんで、知ってるんだ?」
「いや、まあ、なんだ。森島家って言ったら有名だし、噂でな。
――
で、ピザ、適当に頼むぜ」
なぜか取り繕うように高志がスマホを取り出して、ネット注文をする。デリバリーが来るまでの間、根掘り葉掘りとまではいかないが、高志の話術にのせられてついつい自分のこともしゃべってしまう。
平日は東京、週末は高倉別荘で過ごしていることや、翻訳のアルバイトや大学のことを。
高志のことも知った。都内でも五本の指にはいる久住病院の御曹司であること、母親が玲二の伯母にあたり、その伯母が実質的に玲二の親代わりになっていることなどを。
30分ほどして、インターフォンがなる。
「和也、悪いんだけど、これで払ってきてくれ。奢る」
高志が和也に向かって財布を指しだした。
「いや、俺も払う」
和也は首を振る。他人の財布を持つなど、あまり経験がない。というか他人である和也に財布を渡すなど、何という怖いもの知らずなのだろう。
「高見家の問題にお前を巻き込んじまったからな。まあケジメだと思って」
「わかった」
和也がリビングを出ると、高志は玲二に向き直った。
「お前、和也をこの家に連れてきたのは、わざとか?」
「別に」
玲二は素っ気なく返すと煙草をつけた。
「寝とぼけるなよ。お前と和也、それに森島家には因縁があるだろうが」
高見家親類の中では半ば禁句となっているその事実を、あえて高志は玲二にぶつける。
「お前まさか、叔父さんの昔の恋人の息子が和也だってわかってて、意図的に近づいたんじゃないだろうな。お前の雇い主が森島明人ってだけで、きな臭いと思ってたけど。ここまで偶然が続くと、さすがに気味が悪い。
――
お前、何がしたいんだ?和也に何がしたいんだ?復讐か?」
玲二はゆっくりと煙を吐き出した。
「復讐?そうだな、親父と恋人だった和也のおふくろが結婚寸前でレイプされて、その時の子どもが和也だっていうんなら、そりゃあ恨みは持ってるぜ。親父とお袋が離婚する原因が、親父が母親を亡くした和也を引き取ろうとして、お袋がブチ切れて、どうしようもなくなったんだからな」
父と母の罵り合いは、幼かった玲二にとってあまりにも辛いことであったが、それはもう過去のことだ。
「今は、別にそういうんじゃない。そんなこと、もうどうでもいい」
玲二は和也に対し、誰にも感じたことのない感情を覚えた。それは、底のない憎しみか、親との醜い決別を経験していない羨望か玲二には判らなかった。
無理矢理に抱いたのは、今思えば、形を成さない感情を一時的に和也にぶつけたまでに過ぎない。しかし、余りにも和也のナカの具合は良く、頭を沸騰させる快楽を玲二に与えた。
誰に対しても無関心であるはずの自分が、和也に溺れたのだ。
「あいつは俺のものだ」
確固たる意志を籠め、玲二が告げる。
和也との関係を簡単に終わらせるつもりはない。これから先、ずっと、もっと深いところでつながり合いたい。そのためにこの家に連れてきたのだ。
「玲二、お前」
高志が言葉を飲み込む。
「なあ、手がふさがって、開けられないんだけど」
和也の声が廊下から聞こえてきた。
「ちょっと待ってろ」
玲二が煙草をもみ消し、立ちあがってリビングの戸を開ける。そして和也に持っているのを受け取ると、促すようにテーブルに先導する。
喩え血の繋がった身内であっても、玲二は他人には冷淡で、一切の甘さを見せない。それなのに和也に対しては自分から触れ、その声に耳を澄ませている。
高志は信じられないものを見たような気がして、玲二と和也を凝視した。
※※
イロイロと詰め込みました。
和也が高見家にきたことと、麻美ちゃんの妊娠話、高志の登場
…
。
麻美ちゃんは遊び相手の一人ぐらいの存在です。
高志の登場のさせ方については色々悩みましたが、玲二側の事情を知る人間として登場させました。
高見家と森島家の因縁
…
和也の出生に関しては、のちに深堀りします。
原作でもCDドラマでも、和也がいないと玲二と高志は仲悪そうだな~と思っていて、それをそのまま書いてみました。
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