ガラシャ
2022-06-08 23:53:29
4181文字
Public libido
 

libido 3-1

関係改善ではなく、単なる玲二のアプローチ方法の変化だったり…。公式でも年相応のデートをして欲しい!

 ――9月中旬。朝夕の暑さがようやく落ち着きを見せはじめ、大学の構内では学生たちが木の影で寝転んだり、談笑に興じていた。
 講義を終えた和也は大学の裏門を出たところで、ププッと慣らされた音に振り向き、目を見開いた。
 そこにいたのは高見玲二だ。愛車であろうセダンタイプの高級国産車の運転席の窓から、肘をついて顔をのぞかせている。
 今日は随分とカジュアルな格好をしていた。
 なぜ和也の大学を知っているのか、甚だ疑問だが、和也を待っていたようだ。
……何か?」
「昼飯まだだよな。おごってやるから隣乗れよ」
 夏以降、玲二が週末に高倉別荘で宿泊する機会は減ったが東京での逢瀬が多くなっている。高倉別荘では週末だけの逢瀬だったのに、この1ヶ月ほどはホテルに呼び出され、抱かれることが多い。
 どのタイミングかは分からないが和也のスマートフォンには玲二の番号が登録され、電話がかかってくることや、メッセージが送られてくるようになった。
 無視すると画像が送られてくるのだ。高倉別荘で犯された時のものだけでなく、東京で抱かれ、恐らく情事中に和也が気を失った際に撮られたものが
 この女も権力も何もかもを手に入れてそうな美貌の男が陰湿なストーカー染みたことをしていると、誰も信じてはくれないだろう。
 和也と同じく大学から出てきたふたりの女子学生が玲二の容姿を見て騒ぎ立てている。
 こんな目立つ男が大学に訪れたのならば、すぐに噂になるだろう。4年間通っていた大学もあと半年もすれば卒業だ。最後の最後に余計な厄介事は避けたい。
「いこうぜ」
 渋々と和也は助手席に乗り込んだ。
 ――あらかじめ予約してあったのか、店に到着すると席に案内される。
 どんな場所に連れていかれるのかと思ったが、ブラジル料理であるシュラスコを提供している店だった。
 健康管理の為された施設で幼い頃は暮らし、高倉別荘に引き取られても和也の食事はほぼ和食だ。自分でも和食が得意であるし、あまりこういった店に来たことはない。
 車できたため、酒ではなく炭酸水で喉を潤している玲二を横目に和也は店内を見渡した。
 黒を基調とした壁と、やや明るさをおとした照明は、上品な雰囲気でなんだか日常と切り離された趣がある。
 ふたりともカジュアルな格好だったが、ランチの時間ということもあり他の客もカジュアルな格好の客が多い。
 客層はやや年齢が高そうだが、和也のような学生とみられる者たちもいる。
 シャラスコの他に軽食やサラダもブッフェ形式で食べることができた。
 サラダは珍しいものが多かった。国内のものだけでなく海外からの輸入品も多く、調理方法をつい考えてしまう。
 目の前で切り取られるシュラスコは様々なものがあり、シンプルな味付けながら肉がうまい。焼きパイナップルが気にいり何度か食べてしまった。
 玲二はがっつり肉を食べている。食欲はやはり旺盛で、カジュアルな格好をしているせいかいつもより年齢が低い気がする。
 そういえば、和也は玲二の本当の歳を知らない。見かけからして和也よりは年上だろうと思っていたが
 玲二は元から口数が多いわけではないし出会う時は夜の誘いに決まっているので、深く何かをしゃべったとか、和也から尋ねたこともない。
 梅雨前から始まった歪な関係を和也はまだ咀嚼できずにいた。セックスフレンドにしては、玲二の和也に対する執着は度を越していた。
 情事が終わったあとも、余韻を楽しむようにそのままホテルで朝を迎えることを強要される。和也は女のように華奢でも凹凸があるわけではない。
 体重も平均よりは下回るが肋がでるほどではない。抱き心地も決してよくないだろうに、気を失い目覚めた時には玲二に抱き込まれているのだ。高倉別荘では玲二が手加減して自分を抱いていたのだと、ホテルに連れ込まれるたび思い知らされる。
 容赦なく愛撫をし、ベッドで気を失うまで追い上げられてようやく解放されるのだ。
 自分を犯した相手と同じベッドで腕と脚を絡み合うようにして眠るなど、苦痛でしかない。安息できない夜が続くと、和也は体調を崩してしまっていた。
 今、玲二が咀嚼している肉たちのように、腹が満たされるだけならば、甘い戯れは和也でなくてもよいはずだ。
 玲二とベッドを共にしたいと思っている人間ならば、そこら中にいるのだから
 今だって会話は殆どしていない。誰がみても友人同士には見えないだろう。この店でも遠巻きに玲二には数多の視線が注がれている。そして、和也との関係を憶測しているのだろう。
 玲二の真意が未だわからない状況ではひたすらに苦痛だ。
 和也の体を玩んで何が楽しいのかわからない。痛みと否定ばかりを口にする和也を犯して何がこの男を急き立てているのだろう。
 愛液が溢れるでもないソコを、舐められて解されて、最後には女のように抱かれてしまう。男としてのプライドを打ち砕かれながら、快楽に溺れさせられてしまうのだ。
 だが、玲二が和也に求めているのはそれではない気がしていた。
 ホストとして雇われてその存在感を発揮し、金にも権力にも媚びないと評される男が、和也を通じて何を手にしたいのだろう。
 明人が指示するように玲二を利用すればいいと思う一方で、そんな関係を続けていれば自分が抜け出せなくなるのではないかという不安が勝っていた。
 ノーマルなセックスしか知らない頃には、もう戻れないのではないかと。
 ――いやそもそも、こんな何の利益もない関係が続くはずもない。玲二はいつか飽きるだろうし、自分もこの関係を望んでいない。
 何時か終わる関係ならば、これ以上深みにはまってしまうのは無意味だ。
 食べ始めから同じペースで肉を頬張っている玲二を前に、和也は昏く目を伏せた。

 ――ランチを終えるころには、13時半を過ぎていた。夜を過ごすには随分と早いし今日はこれで終わりだろうと、『ご馳走様でした』と踵を返そうとした和也の腕をとり、玲二は駐車場まで引きずり助手席に押し込んだ。
 自分も運転席に乗り込むと、さっさとエンジンをかけ車を発進させる。アクセルを踏んだ玲二をみて和也は慌ててシートベルトを締めた。
「映画でもみようぜ」
「え、なんで?」
「お前、今日は暇だろ。付き合えよ」
 確かに今日の予定はない。翻訳のバイトも一段落したし、誰との約束もない。帰ったらそろそろ衣替えの準備をしようかと思っていただけだ。
 シュラスコ店から10分ほどで麻原にあるアミューズメントパークの映画館にやってきた。
何かみたい映画があるのかと思ったが、そうではないらしい。映画を和也に選ばせようとする。
 ちょうど見たいミステリーが公開したばかりで、玲二が否を言わないのに託けて販売員に映画の名を告げる。
 リュックから財布を取り出し二人分のチケットを払おうとするが、玲二がその前にクレジットカードを差し出した。
「今日は奢るって言ったろ?」
「でも、さっき」
「いつもお前が『もてなし』してくれてんだから、今日は俺が、な?」
 玲二の言わんとしていることに和也は思わず睨みつける。こんな大勢の人間がいる場所で何を言い出すのか。
 唇をかみしめる和也を見下ろした玲二はくつくつと喉で笑った。
 映画館はハリウッドの超大作が公開されたばかりで、そこそこに混んでいる。チケット代は玲二がだしたのだから、せめて飲み物くらいはと和也が買った。
「律儀なことだな」
 どこか柔らかい笑みを浮かべ玲二がアイスコーヒーのカップを受けとる。
 和也の背後で空気が揺らぐ。玲二のずば抜けた身長と美貌は目立つ。人目を浚う男が微笑すると、たちまち空気がかわるのだ。
 麻原で映画をみるなんて噂をたてられたらと思うものの、アモーラルに出入りする者たちが平日の昼間にこんなところにいるはずもなかった。
 入場時間になりシートにすわる。玲二の体格では少々窮屈なようだった。
「カップルシートにすればよかったな」
 確かに二人分の席が繋がっているシートならば悠々と体を伸ばせるだろう。玲二が一人でカップルシートに座る度胸と、金を惜しまないのであればの話であるが。
 席に座りアイスコーヒーと共に買ったパンフレットを開いた和也に、玲二が話しかけてくる。
「この映画、見たかったのか?」
 玲二は体をずらし、パンフレットを覗き込んでくる。あまりにも近い距離に和也は居心地の悪さを感じた。
原作が好きなんだ日本には洋書でしか、入ってきてないけど」
 会場が暗くなり、これから公開する映画の予告がはじまる。
 パンフレットをリュックにしまった和也に、玲二はそのまま肩にもたれかかってきた。
「ちょっ!」
「別にいいだろ。これくらい。いつももっと凄いこと、ふたりでしてんだから」
 首筋と頬に玲二の髪が触れる。やや癖のある髪が肌を擽るのを感じながら、和也はスクリーンに集中しようとする。
 映画の本編が始まる前には、玲二の左手は和也の膝にのせられていた。窮屈なのは判るが、置場所を間違えている。和也はわざと足を組んで手を退かせるが、また玲二はのせてくる。否を示すため、何度か組み替えていると膝頭を撫でてくる。こんなところで触れられるとは思っておらず、楽しみにしていた映画の内容も入ってこない。
 手で払おうとすると、その手もとられて親指の腹で手首の内側を撫でられる。ゆるゆると血管をなぞられる動きが、くすぐったくて嫌だったが、がっちり手首を捕まれていた。



※※

デートをさせてみたかった!原作でもホテルでディナーもあるんですが、年相応な感じのデートが!
カップルシート云々は玲二なりのアプローチです全然通じてないけど
和也が英語得意ってのは公式設定だとは思うのですが、ちょっと盛り込んでみました。
吉原作品の受けって男前の性格なのに、英語得意(母親の影響)、母方の顔立ち、料理を含め家事全般できるってのが、基本設定ですよね!その元祖って、和也なのかな

シュラスコ店はモデルになった店があります!この5年は自分のプライベートがごろりと変わってしまったので全く行けていませんが