ガラシャ
2022-06-08 23:40:28
2840文字
Public libido
 

libido 2-2

みんな大好きエッジの登場です…!エッジ×和也というか、サイファ×和也っぽい感じもだしたくて…。


 ――黒服の男たちによって開かれたアモーラルの扉を抜けると、一瞬、その場が静まり返った。
 その静けさをものともせず、森島明人は歩いていく。隣に、異母弟である和也を従えて
「今日は、こちらで過ごすんですか?」
 和也は隣を歩く明人を見上げ、問いかける。
「いや、この後はダークマターにいく。大切なお客様が来るのでな。面白い人だから、いずれお前にも会わせよう。
 ――では、愉しんでおいで」
 見下ろされ、男らしい手が和也の髪を撫でる。その明人の行動に微かに場が歪むが、和也は何食わぬ顔で受け入れる。どうせ異母兄弟だといってもすぐに信じる者はいない。常連の中では知られた事実であるが、そのほかの人間にとっては噂程度のものなのだ。
 明人と和也は似ていない。明人は森島の血筋の顔立ちであるし、和也は亡くなった母の面影を強く受け継いでいる。他の森島家の誰とも似ていない。
 施設に祖父が引き取りに来た時も、あまりにも似ていないので、施設の職員が訝しんだほどだった。
 明人が扉の先に消えたのを見届けた和也は、アモーラルの常連の中でも一際異彩を放っている男たちがいる場所へ歩いていく。
「お、女神さまのお出ましだぜ」
「和也、久しぶりだな」
「どうしたんだ、和也。このくそ暑いのに、カーディガンなんか着て」
「ちょっと、風邪気味でさ」
「それになんか、痩せたじゃねえか?」
夏バテもしてんだよ」
「気を付けろよ?ただでさえお前、自分のこと後回しにする癖があるんだから」
 次々に声を掛けられ、和也は適当に言葉を返す。
 麻原を裏で仕切るサイファのトップであるエッジは、和也が近づいてくるのを見て取り、吸っていた煙草を灰皿に押し付け、もみ消した。
「和也ぁ」
 周りの人間が聞けば、本当にあのエッジがこんな声を出しているのかと疑うほど甘ったるい声だった。見かけだけいえば優男だが、その中身は鋭利な刃だ。
 エッジは当然のように、真ん中に座っていたのをやや右にずらして座り直す。エッジの指定席とされているそのソファには当然エッジ以外が座ることはできない。
 ただひとつだけ例外はある。それが和也だ。エッジの隣には、和也が座るのだ。
「和也、どうした?座れよ」
 当然のように隣に座ることを促され、和也は躊躇う。
 エッジとの関係が、周囲から見れば親密であることは和也も自覚している。ひそひそと囁かれる声が、羨望や、嫉妬、和也への批判にあふれることを知っているのだ。
 明人の場合は異母兄弟という事実を知らせれば幾分か緩和されるが、エッジとの関係はそうもいかない。
 サイファ内ならば笑いごとですむスキンシップも周囲は訝る。
 これ以上、噂は立てられたくない。
「いや、今日はいい
 和也は首を振ると、周りを見渡す。サイファのメンバーの一人である甲斐の隣が空いているようだ。
「甲斐、隣いいか?」
「お、いいぜ」
 声を掛けられた甲斐は嬉しそうに、ソファを座り直す。
「お前が俺の隣に座るなんて俺、嬉しくて死にそうだわ」
「なんだよ、それ。たかが隣に座るくらいで。別にいいだろ、たまには」
 エッジの両隣に配置されたソファにそれぞれ座っていた竜一と聡志が互いに目配せした。
『たかが隣に座るくらいで』
 何気なく吐き出された言の葉の重さを和也は分かっていない。
 和也が甲斐の隣に座ろうとすると、
「和也」
 エッジが周りを威圧する声でそれを留めた。
「お前の場所は、ここ、だろ」
 エッジが冷たい目で、和也を捉えた。ただし声は蕩けそうに甘い。和也を見据えながら、和也が座るべき場所を軽く叩く。
 そのエッジの様子に、サイファのメンバーは背筋が凍り付く。先ほど、和也に甘い顔をしていた甲斐の顔も凍り付いている。
 真っ先に和也を促したのはエッジの両脇にいる竜一と聡志であった。
「そうだぜ和也、お前はエッジの隣に座れ」
「クイーンの席はキングの隣って決まってんだから、他のやつのとこに座っちゃダメだろ?」
 竜一と聡志という幹部ふたりに促され、和也は流石に甲斐の隣に座ることをとどまった。そして、渋々、エッジに近づく。
「俺を妬かせたくて、そんな態度取ってんのか?」
「えっ?」
 エッジに低い呟きに和也は眉を顰める。
 その態度に、小さく舌打ちしたエッジは和也の手首を取り、無理矢理に隣に座らせる。そして和也の肩を抱き寄せた。
「と、享!」
「マーキングだ。お前が俺のモノだって、他にやつらに見せつけてやらなきゃな」
 そのまま背ごと腰も引き寄せて、耳元でエッジが囁いた。
「俺がいつまでも甘いと思うなよ、和也。――お前が隠そうとしてる首筋のキスマーク、誰に付けられた?そんなエグいの、女じゃねえだろ?遊びだったら赦してやるが、本気だったら、そいつ、潰すぜ?」
 言いながらも、エッジは見渡す。サイファのメンバーだけでなく、遠巻きに見つめている者たちに向かって、鋭く視線を向けた。
 和也は抱き寄せられたまま耳元でささやかれ、血の気が引いていくのを感じた。
 エッジの声は低い。その低さが、和也の鼓動を跳ね上げさせる。そして、紫煙の匂いが和也を包む。
「ほら言ってみろ。どこで、誑かしてきたんだ?」
 エッジが和也の首を掴み、質問の答えを促す。先ほどまでの怖さはなく、甘さを孕んでいるが、触れられた部分から伝わる熱に和也は怖じ気を感じた。
 ――こんな風に触れられるのは、今の和也にとっては苦痛でしかない。
 エッジとは長い付き合いであるし、互いのマンションも行き来し、和也にとっても親友と呼べる存在であるが、時よりまるで、女に接するように扱われることがあるのだ。
 エッジがこんな態度をとるせいで、サイファの連中も、事情を知らないアモーラルの常連もみな、誤解してしまう。
お前が、こういうことするから、誤解されるんだろ
「ん?何か言ったか?」
 エッジが顔を覗き込んでくる。そのエッジの顔を見ていられず、視線を逸らした。その顔が青ざめているのに気づき、エッジは眉を顰める。
「和也、どうした?」
「なんでもない。ちょっと、水飲んでくる」
 和也はエッジの肩を押しのけて、立ち上がった。他のサイファのメンバーたちが座るソファをすり抜ける。
「おい、和也」
 エッジの呼びかけにも和也が振り返ることはない。
「今日はご機嫌ななめみたいだな、女神さまは」
「男の嫉妬は醜いぜ、エッジ」
「うるせえ」
 竜一と聡志が茶化す。エッジは唸るように返しながらも、先ほどまでの冷たさはなかった。
 ――やり取りを遠巻きに眺めていた男たちも、和也が離れたことで、徐々に視線を剥がしていった。

※※

享は和也を溺愛してます。
昔からわたしの妄想におつきあい頂いている方はご存じと思いますが、甲斐くんが好きでして(笑)
アモーラルがよくわからなくて、なんちゃってになってます。