ガラシャ
2022-06-08 23:25:06
2150文字
Public libido
 

libido 1-4

libidoは今まで書いてきたものの集大成という感じで作ったので、ちょこちょこネタの重複をしてます。

 ――その日は朝から雨が降っていた。10日前にこの地域でも例年より早い梅雨入りが発表され、冷たい雫は、朝から降り続けていた。
 和也はそんな中、紫紺色の和傘を持ち、本館に程近い東屋へと歩いていく。5歳で母を亡くし、児童養護施設で5年間を過ごした和也にとって、高倉別荘は安住の場所であった。
 気紛れに訪れては和也を甘やかす祖父と、我が子のように育ててくれた女将、可愛がってくれる従業員など、脅かされることのない平穏を得た場所だった。
 その場所が、今やひとりの男によって、脅かされていた。
 和也を遥か凌駕する男が東屋で煙草を吸っている。東屋の周りには紫陽花が見頃となっていた。美しい蒼と紅が咲き誇り、高倉別荘にまた別の装いを齎している。
 毎週末に訪れるこの男によってもたらされる悪夢は、和也の身と心を苛んでいる。
 各部屋が独立したコテージ風になっている豪華な高倉別荘の一室で、その秘め事は行われていた。
 全身を余すことなく暴かれ、指で撫でられて、舌で舐められて、自分の意志とは関係なく快感を刻まれた。
 2回目の夜は、男の軽薄さ、凶暴さとはかけ離れた丁寧さで、和也に快楽を芽吹かせていった。
 そして、最後は男の肉棒を受け入れることになる。
 いきり立った太い剛直に孔を限界まで広げられ、最奥に向かって何度も何度も粘膜を蹂躙される。
『まだナカだけじゃいかねえか。まっ、いいさ。これから先、イロイロしまくって、自分からおねだりするくらい善がらせてやる』
 愉しみだと語る玲二の顔は歪んでいた。
 吐き気を催すほどの悪夢に、しかしながら和也は立ち向かわなくては行けなかった。
「ようこそ、お越しくださいました。高見様」
 高見玲二は和也が一歩一歩東屋に近寄ってくるのを凝視していた。距離を保ったまま和傘を閉じる和也に、玲二は片眉を上げる。
「堅苦しいな。いつまでそんな態度をとってるんだ?」
「そんな態度とは?お客様に対して失礼のないようにするのは、当然だと思いますが」
 玲二は手を伸ばし、客に対するには格段に冷たい態度をとる和也の手首をつかむ。
「『恋しくて待ちわびた』ぐらい、言えねえのかよ」
……
 和也は睨み付ける。この関係を和也が望んでいると思っているのだろうか。
「まあ、いい。こんなとこで話をしても何にもならねえからな。風邪もひいちまう」
 和也から和傘をとった玲二は、自ら広げる。東屋にはもう一つ和傘は用意してあるのに、それを無視していた。玲二は和也の腰を抱き寄せる。
――いくぜ」
 雨に濡れるわけにもいかず、身を寄せるしかない。心では拒みながらも、寄り添いながら、部屋まで歩くこととなったのだった。
 東屋には置き去りにされた和傘が残っていた。

 ――玲二を部屋に案内した和也は、本館で業務に戻った。部屋を出ようとすると、なぜか抱き寄せてこようとする腕を振り払ってきたのだ。
 食事の準備と片付けも、決して一人ではいかなかった。食事の片づけと共に、玲二が好んでいる酒もツマミと共に用意し、部屋に呼び寄せられる口実を作らないようにした。
 和也ができる自衛はそれぐらいしかない。
「和也さん、高見様が酒を持ってきて欲しいとのことなんですが」
 本館の休憩室で夕食に箸をつけようとしていた和也はフロントを担当している従業員に声を掛けられる。
 和也はため息をつく。呼ばれるだろうと思ったが、夕食もゆっくり食べることもできないなんて
「わたしが代わりに行きましょうか?」
 立ち上がろうとした和也を遮るように若い従業員がいった。昨年、雇われたばかりの20代前半の愛嬌のある愛くるしい顔立ちの女の子だ。長い髪をおしゃれに結いあげ、後れ毛を治している。
 玲二が初めてこの高倉別荘に訪れた時、色めき立っていたひとりだ。
 従業員と客で恋愛沙汰はご法度だが、既に玲二とそういう関係になってしまった自分がいえたことでない。若い女性がいると知り、そちらに関心が移ってしまえば、それはそれで良い。
「じゃあ、頼む。高見様は地酒の辛口の冷やを好まれているからそれを」
「はい」
 和也の指示を受け、いってきますと明るい声をかけ休憩室を出る従業員を見送ると、再び夕食に箸をつけ始めた。

「和也さん。高見様がお呼びです」
 ――夕食を終え、本館の戸締りをしようとしていた和也は、怪訝そうに相手を見返す。
 先ほど、和也の代わりに玲二に酒をもっていった若い従業員が不安そうに和也を見上げていた。
「高見様、少しお怒りのご様子で
「なんで?」
「わかりませんけど。和也さんはなぜ来ないのかと、尋ねられまして
「どんな、ご様子だった?」
すごく冷たい感じでした
 愛嬌のある顔が微かに青褪めている。
 異母兄がホストとして雇おうとしている男なのだから、女性には優しいのかと思ったが、そうではないのだろうか。
「わかった。これから俺が高見様の部屋に行ってくるから」
「はい、お願いします」
 女性従業員に帰るように伝えると、和也は本館の戸締りをしてしまう。あとは宿直勤務をする従業員に任せ、裏口から本館を出た。雨は一層酷くなっている。空は雲のせいで、闇が深かった。