ガラシャ
2022-05-31 20:58:06
4328文字
Public libido
 

libido 1-1

お待たせいたしました。新libidoです。
8万字という長い話になりますが、愛だけは詰め込みました…!メインテーマとしては、玲二の和也への執着と、和也の自立になりますが、ミニテーマとしていくつか詰め込みました。
ちょこちょこ、補足も入れていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 ――夏の近づきが感じられる6月の第一土曜日、露天風呂の清掃のため道具を準備していた和也を、高級旅館『高倉別荘』の女将である篠宮冴子が呼び止めた。
「どうしたんですか、冴子さん」
 今は昼過ぎだ。客を出迎えるための着物を着つける前の冴子がいた。
 ――和也は肉親とは縁の薄い宿命に生まれた。
 私生児として生まれ、5歳で母を亡くし施設で暮らしていた和也を、10歳の頃引き取ったのは今まで何の音沙汰もなかった、父方の祖父であった。
 祖父・森島克典の愛人でもある冴子は、和也の育ての親というべき存在であった。
 和也は、平日は東京で大学に通い、異母兄の所有するマンションで暮らしている。だが休日は高倉別荘に戻り、冴子の手伝いをしていた。
「今日、ひとつお部屋を担当してくれないかしら?」
「俺がですか?」
 礼儀作法を一通り仕込まれており、客の対応も完璧にこなせるが、基本的に冴子の補助で動いている。
「海外のお客様ですか?」
 また英語も得意なこともあり、海外のお客様に対応することもある。そんな和也が部屋を担当することは久しぶりのことだった。
 秘密を告げるように冴子が近づいて、小さい声で囁いた。
「いいえ、違うの。
 ――明人さんのご紹介なのよ」
異母兄にいさんが?ということは、ダークマター関連でしょうか?」
 異母兄である森島明人は実業家として東京の麻原で高級クラブを経営している。見た目の華やかさとは反対にその精神は鋼のような男だった。
 異母兄が経営しているからといって和也がクラブの内情に明るいわけではないが、この高倉別荘を紹介するということは重宝しなくてはいけない客ということだ。
「ええ、どうやら、ホストとして雇おうと考えている男性とのことなの。心尽くしのおもてなしをお願いしたいとのことよ」
「じゃあ、俺じゃなくて、女性の方が良いのでは?」
 ホストとして雇うくらいなら、かなりの美男子であることは間違いないだろう。この高倉別荘の従業員は教育が行き届いており、客によって対応を変えるわけではないが、それでも見目麗しい女性従業員が担当した方が、相手の印象は良いのではないだろうか。
「明人さんがどうしても和也くんにお願いしたいのですって。
 ――おひとりで来られるとのことだし、あまり気負いたくないとのことなのよ」
 気安さでいえば確かに和也は適任と言える。比較的年齢が高い客も多いが、やはり若い和也ならば何かと気軽に頼みやすいという客もいるのだ。
「わかりました」
 和也は頷いた。異母兄が寄越した相手なのだから、何か意図があってのことだろうとどうしても憶測してしまう。高倉別荘をダシにその男を引き込んでしまいたいのか。
 もし何か意図があるというならば、事前にメールなり連絡なりが異母兄からあるだろう。二日前の夜に東京で会った時も、今日の客の話題にはならなかったし、和也が余計な気を廻しているだけかもしれない。
 手の内までは見せない異母兄を思いながら、和也はため息をついた。

 ――風呂掃除を終えた和也は休憩がてら、本館の事務所のパソコンの前で担当する客のデーターを読み込む。
 片手には最近お気に入りのレモネードだ。粉をミネラルウオーターに溶かしただけのものだが、汗をかきながら仕事をこなした喉を心地良く滑りおちていく。
 データーを見る限りは体格の良い大柄な男のようだ。身長が190弱で、日本人サイズではないため、海外の客用の浴衣を用意していると書いてある。
 レモネードを飲み終えた和也は、高倉別荘の本館の離れでシャワーを浴びてシャツとスラックスを履く。ネクタイは派手過ぎない色を選び、髪も手櫛で軽く整えた。
 本館に戻ったところで、駐車場を管理している男性従業員から連絡がはいった。
「和也さん、お客様が来られたようです」
 和也は頷く。異母兄の紹介で訪れたという男は、一体どんな男なのだろう。
 本館からほど近い東屋にその男はいた。遠目から見てもその存在感でもって他を圧倒するその男が
「ようこそ、おこしくださいました。高見様」
 和也は男に声をかけた。その和也のまっすぐで柔らかな声に、男が振り返る。端正な顔立ちだった。すれ違えば誰もが振り向く、そんな美貌だ。
 男の目が微かに眇められ、和也をまっすぐにとらえる。
 その視線に和也は内心驚きながら、どこか既視感を覚える。ひどく、懐かしいような
 それがなぜであるか分からぬまま、和也は視線を逃れ、頭を下げる。
「本日、お部屋を担当させていただきます、秋葉です。精一杯おもてなしさせいただきますので、どうぞよろしくお願いいたします」
「ああ」
 爽やかな風が二人をつつむ。これが、『高見玲二』との出会いであった。

 ――高倉別荘は、それぞれが独立したコテージ風になっている。長期滞在ができるように箪笥もクローゼットもそろっており、それぞれの部屋に檜造りの内風呂もついている。
 部屋に案内した和也は簡単に部屋の説明をすると、玲二に席に座ることを促し、茶を入れる。
 最高級の茶葉を、ちょうどよい温度で淹れると、玲二の前においた。
「何か御用があれば、いつでもお呼びください」
「ああ」
 横柄に応じると、玲二は茶を啜った。
「では、お食事の時間まではゆっくりとお過ごしください」
 部屋をできると、ふっとため息をついた。
 ――今日の客を和也は以前から知っていた。最初は気付かなかったが、彼はタラシの『レイジ』だ。麻原という限られたエリアの中での通り名である『レイジ』はどうやら本名であったようだ。
 和也は『レイジ』に会ったことがあった。正確にはすれ違った程度であるが異母兄である明人が経営するアモーラルでのことだ。
 妙な既視感はそのせいかもしれない。
 ただそこにいるというだけで、人目を惹く存在がいる。
 それが『レイジ』だ。何にも執着せず、誰にも熱くならず、それゆえに崇拝されている男『レイジ』を崇め奉る人々に和也はどこか気味悪さを感じていた。
 その崇め奉られている『レイジ』とこんなところで出会うとはといっても、あちらは和也のことなど気にしてはいまい。どんな美女が望んでも一夜の相手としての関係しか持たず、どんな大金の前にも跪かないと評されている男だ。
 和也からしても、部屋係として客をもてなすだけだ。
 ――夕食時の時間になり、他の従業員が忙しなく経ち歩いている中、和也も藍色の作務衣に着替えて厨房に向かう。
 玲二は初めてこの旅館に泊まることもありデーターとしては少ない。若い男性と言うこともあり、魚よりは肉と言った感じで食事はまとめてあった。
「失礼いたします。お食事をお持ちしました」
 食事の準備を手伝ってくれる年嵩の仲居と共に和也が部屋を訪れると、浴衣に着替えた玲二は縁側のソファで悠々と長い足を組み煙草を吸っていた。無造作に髪を掻き揚げる仕草と、男らしい指で煙草を吸っている姿は絵になる。
 和也はこの部屋の担当が自分で良かったのかもしれないと思った。
 玲二の男振りはすでに従業員の中では話題になっていた。上流階級の人間を見慣れている筈のこの高倉別荘の従業員がだ。若い女性従業員などは色めき立っていた。
 客と従業員で色恋沙汰などご法度だ。それは一流の看板を上げている店ならば当然のことである。
 玲二を横目に、食事の準備を始めた和也であるが、玲二が部屋を出た気配がないことに気づく。近くに温泉街がありそれなりに賑わっているが、観光地には興味がないのかもしれない。
 準備を終えて玲二の部屋を辞しても、他の部屋の手伝いがある。この時間帯はどうしても食事の準備や、出迎えなどで忙しくなってしまう。機転も効き、力仕事もできる和也は、他の従業員を手伝いもしていた。
 全ての客が食事を終えるまで、何も口にすることができないこともある。だが水分だけはしっかりとるようにと言いくるめられており、ペットボトルの水を飲んで、空腹をしのいでいた。
「和也さん、高見様のお食事が終わられたようです」
「わかりました」
 21時前になっていた。玲二の部屋の片づけをすれば、夕食にありつけるだろう。和也は準備の時と同じようにもうひとりの年嵩の仲居と連れ立って、玲二の部屋を訪れる。
 和也が食事を片付けている間にも、客である玲二の情報を集めていた。
 玲二は中々に好き嫌いが多い男のようだ。豪華な食事が売りである旅館だが、煮物などは食べた形跡がない。
 甘いものも得意ではないのだろう。果物に口をつけた様子はあるが、男性にも評判の良いスイーツをつまんだ形跡もない。
 厨房に言ってなるべく控えてもらう必要があるだろう。
 和也が思案していると、ふと視線を感じて顔を上げる。夕食前と同じように縁側のソファで煙草を吸っている玲二は和也を見つめていた。
 部屋についている風呂には入ったようだが、若い身には手持無沙汰なのではないだろうか。
 灰皿には吸い殻が積み上がっていた。
「何か、手慰みになるものをお持ちしましょうか?」
 和也の問いかけに、玲二が片眉を上げる。
「例えば?」
「お酒ならば、地酒がありますし、ビールやワイン、ブランデーもございます。お食事ならば飲まれるお酒によって、軽い物から重い物までご用意させていただきます。
 ――それとも、お慰めする相手をお呼びしましょうか?」
 表立ってはいないものの、高倉別荘を愛人との逢引きや、日常を離れて一人で羽目を外したい時など、客の要望に添えるようにしている。
 そもそも玲二が一人で訪れたのも奇妙なものだ。麻原でも同じ女とは歩いているところは見たことがないと噂される男なのだから、誘えばどんな美女でも喜んでついてくるだろうに。
 温泉街のホステスなどが相手になるが、一夜の相手としては申し分ないだろう。
「そうだな。じゃあ酒を。さっき食事と一緒に出てきた酒の辛口を冷やで。あと、適当に軽いツマミを。――布団も引いてくれ」
「はい、承知しました。では先にお酒とツマミを持って参りますので」
 もてなしをすべく、和也は再び、玲二の前を辞した。




※※※

元ネタとしては、和也に玲二を性接待させたいなあ、でも自分から和也は絶対にしないな。が始まりです。
マシュマロ:https://marshmallow-qa.com/gracia8484?utm_medium=url_text&utm_source=promotion
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