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ガラシャ
2021-12-16 11:23:11
3538文字
Public
渇愛原作軸
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(仮)贖罪 ④
バックアップ代わりに。関所を超えた気分。
――
都内でも高級ホテルとして名を馳せているそのホテルの地下駐車場に止まったハイヤーを出迎えたのは、ホテルの支配人だった。
「森島様、ようこそ」
60を超えた支配人は物腰柔らかく、明人に向かって言葉を掛ける。それに慣れたように応じた明人は、和也の身を抱き寄せる。
「お連れ様をお運びいたしましょうか?」
「いや結構。彼は身内なのでね。よく眠っているし、できれば静かに部屋に運びたいんだが」
「ではこちらへ」
和也を横抱きに抱き上げた明人は支配人の先導で、VIP用のエレベーターへと乗り込む。支配人自らスイートルームに案内した。
「何かご入用でしょうか?」
「ミネラルウォーターを」
「かしこまりました」
メインベッドルームに和也を下ろした明人は、支配人からミネラルウォーターのペットボトルを受け取ると、再びベッドルームに戻った。
「和也」
封を開けたミネラルウォーターを口に含み、和也に口づける。酔いつぶれるほど酒を飲み、体全身が熱を持っている中でも、特に唇は熱かった。
喉が渇いていたのだろう。流し込まれる水を求め和也は微かに口を開く。
「ん、もっと
…
」
求めるまま数度水を飲ませ、明人がそのまま柔らかい下唇を食むと、ぼんやりと瞼を開いた和也は手で明人の肩を押し返そうとした。
「ん、いや
…
やだって
…
」
「キスから始めよう。それならば、君を怖がらせず、蕩かせることができるだろう?」
耳触りの良い低い声に囁かれ、髪を掬われ、撫でられる。騙されてはいけないと分かっているのに、甘やかされている心地良さに蕩けそうになる。
また口づけられたが、拒むことはできず、ただ和也は受け入れるしかできなかった。
――
仕事を終え高見家に戻った高見玲二は、玄関に入り首を廻した。髪を掻き揚げて、指先でネクタイを解き首から抜き取ると、乱雑に内ポケットにしまう。
ダークマターでの勤務後、家族がいないひとり寂しい女のクリスマスイブの話し相手になって欲しいのだと言われ、酒ではなく紅茶を片手に聞き役になっていたのだ。
女が所有するというビルの一室で、高級な家具、シックな色合いのカーテンは女の趣味なのだろう。センスが光っていた。
『自分を犠牲にして今の地位を手に入れたけど、空しいものよ。なにも残らないのだから』
『何に人生を捧げるのは人それぞれだと思いますが』
元から他人に同情するような性格ではないがその言葉がでた。
『そうね。その通りよ。若い貴方に言われてしまうなんてね』
クスクスと華を過ぎた女の笑いは、ただクラシックの音に紛れ込む。
『貴方が全てを捧げるものは何なのでしょうね。目の前にいる貴方じゃなくて、個人としての貴方のね。少し興味があるわ』
親子ほど年の違う自分に、探るわけではなく、ただの興味だといった。
――
玲二が身も心も捧げるのは、たったひとりの人間との繋がりだけだ。あとは全て副産物であり、和也との生活を守るためのものだ。
戸籍上は兄である和也を繋ぎとめるために、罠を仕掛け、非道なことをし続けた。長年にわたる歪んだ玲二の執着から逃げようとした和也を犯し、まずは痛みを覚えさせ、次に快感を芽生えさせた。
和也は激しい劣情を受け止め、そして玲二をまっすぐに見返したことで、収まると思っていた執着は、再び色を変え始める。
この1年近くは、玲二はその感情に翻弄されていた。ただの執着心だけではない、嫉妬心、猜疑心、そして和也自身に求めてほしいという慕情だった。
「帰ってないのか」
玄関に靴がないのを見て取り、独り言ちる。
朝から夕方までコンビニでバイトをして、クリスマスに託つけた同級生たちとの飲み会だといっていた。どうせ飲み会のあとに、二次会、三次会と誘われているのだろう。
嫉妬は当然ながらしているが、明日からは自分が和也の時間を独占するのだと決めているので、まだ余裕があった。
もし、高志のマンションで過ごしているのなら、迎えにいっても良い。明日から年始までは休みだし、そのまま夜景を見に行って夜を終えてしまっても良い。
どこにいるのか、メッセージを送ろうとスマホを取り出したところで、ちょうど和也からの着信かあった。
「和也、今どこにいる?」
しかし、返ってきたのは思いもしない声だった。
『玲二か?』
「なんで、あんたが和也のスマホをつかってる?」
雇い主である森島明人の声に玲二は低く唸る。仕事納めとはいえ、誰よりも早くオーナーがダークマターを出たことをスタッフは訝んでいた。その明人がなぜ、和也のスマホを使用しているのか理解できない。
『和也が酔いつぶれてしまってね、このままホテルに泊まらせようと思うのだが』
玲二は舌打ちする。
「迎えにいく。どこだ?」
ホテルの名と部屋番号を聞いた玲二は、玄関の定位置にかけてある車のキーを取ると、乱暴に玄関の鍵をかけ車に乗り込んだ。
――
和也のスマホの画面をおとした明人はため息をついた。
玲二のことだ、脇目もふらずこのホテルに向かっているに違いない。この1年は、間接的にしか和也への感情を知るしかなかったが、執着心はますます増殖しているようだ。
和也のスマホをしまうため、黒いリュックを開ける。
そこにはグリーンの洋書と、ブラックのプレゼントボックス、そしてそこにブラウンを紛れ込ませる。
3色とも見事に色が違う。
色の違いはそれぞれのパーソナリティを表しているようで、何とも面白い。このクリスマスの和也への捧げものだ。
――
20分ほど経ち、部屋のインターフォンがおされる。施錠を解き、扉を開けると、スーツ姿のままの玲二がいた。
「和也はどこだ?」
明人が視線でメインベッドルームをさすと、明人には脇目もふらず脚を進める。
ベッドで眠っている和也を見下ろし、
「ったく。てめえは、無防備に寝やがって」
ベッドルームに足を踏み入れた明人はすっと冷たい目で玲二と眠っている和也を見下ろし、問いかけた。
「なぜ、出生の秘密を和也に告げない?」
「それは今、話をすることか?むしろ、何で和也が酔いつぶれてここにいるか、説明しろ」
同じように冷たく言い放つ玲二に、明人は返す。
「それはエッジにでも聞けばいい。元々は、あいつが考えたことだ。俺と和也を『仲直り』させてやりたかったんだと」
「あの野郎
…
」
玲二は舌打ちする。約1年前、一力の会食で、明らかに和也は年上で包容力のある明人になついていた。その後、そのできかけた関係性をぶった切ったのは玲二の策略だが、思いもしないところに伏兵がいたものだ。
玲二の怒りが一気に沸いているのをみながら、明人は再び問いかける。
「我々のどちらかが本当の兄弟だということを、そろそろ告げてはどうだろうか?」
「和也が知ってどうする?こいつに何をさせたがってるんだ、あんたは」
「いい加減、和也も知るべきだと思うがな。それにそろそろ潮時だ。残念なことに、お節介な連中はどこにでもいるものだ。君の身内であったり、俺の一族であったりな。いずれ、誰かが和也に出生の秘密を告げる。その前に、すべての真実を和也に告げて、和也に選ばせる気は」
「こいつは俺のだ」
明人の言葉を遮り、玲二が強い声で言い放つ。
「あんたの弟か、俺の兄貴か。そんなのは関係ない。こいつがどこの誰と血が繋がっていようが、関係ない。こいつは、俺のものだ」
眦にも口調にも昏い独占欲を漂わせている。
「それを聞いて安心したよ。つまり君は、和也に選択肢を提示するつもりはないということだな。いつまで和也を独占できるか、いつ終わるとも知れない和也の贖罪に、怯え続けるしかないということだ」
「そんなんじゃねえって言ってるだろうが」
「そうかな?君の言い分では、和也との関係性の終焉に怯えているとしか聞こえないんだが。
――
結局、我々は踊らされているのだよ。和也という存在に。ただ半分だけ血の繋がりがあるかもしれない、そんな不確かな絆を逆手にとって
…
この雑じり気のないダイヤモンドのような存在に。
誰にとっても、ファムファタルになりえる和也に、我々は執着せずにいられないのだ。」
明人はベッドに近づき、眠っている和也の髪を指先でかき分け耳朶を嬲った。
「ん
…
」
眉を潜めてむずかる和也を見下ろし、ふっと笑う。
「今宵は少々和也においたをしてしまったし、ここまでにしておこう。詫びといっては何だが、この部屋を好きに使うといい」
和也から手を離した明人は、ソファにかけてあるコートを着込むと、後は何にも目をくれず、部屋を出て行く。
パタンと扉の閉じる音が響き、静寂が漂った。
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