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ガラシャ
2021-12-12 20:14:06
4174文字
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渇愛原作軸
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(仮)贖罪 ②
続き。バックアップがわりに。
②
――
『会うなら麻原以外の場所で』そうメッセージを送ってきた和也に、黒崎享は苦笑いし『じゃ、駅前のスペインバルな』と返したのは、つい2日前のことだ。
やや薄暗い店内でタバコ吸いゆっくりと肺を充たした後、またゆっくりと息を吐き出した所で待ち人がやってきた。
「またせたな」
「おう。すっぽかされたかと思ってたぜ」
約束の時間は21時半
…
すでに30分過ぎていたが、享は待っていたらしい。
「悪い。つい盛り上がってたんだよ。別に、待ち合わせを違える事なんてしないさ」
「幼馴染たちと呑んでたんだろ?お前すげえな。俺なんて、小・中の連中なんて、顔も覚えちゃいないぜ」
享の揶揄する声色に肩を竦めた和也は、享の対面にあるやや低い革張りの二人掛けソファに座った。
「で、何か用か?」
「連れないな。最近、会ってないからどうしてんだろうなってお伺い立てたんだよ。まあ、イブに会えたのはラッキーだったけど」
和也は注文を取りに来た店員に、ジンジャエールを頼んだ。
「なんだ、飲まないのか?」
「さっき飲み過ぎたんだよ。小学校の同級生連中に飲まされた」
店内は混んでいる。余りに熱気のある店内に暑さを感じ、和也はボアブルゾンを脱いだ。
「ふ~ん。
――
なあ、ところで、店の前まで一緒にいたやつ、誰だ?」
店の奥まった場所にも関わらず、ガラス張りの店内から見ていたらしい。
「なんだ、見てたのか。高見の方の従兄弟だよ。飲み会も一緒だったんだ」
「ってことは玲二の従兄弟か。そういえば似てるな。一人になった時の表情とか、そっくりだった」
「そうか?あいつら、顏はともかく雰囲気は似てないと思うけど」
玲二が剛なら、高志は柔だ。和也にとってはそれぐらい印象が違う。
「そりゃあお前に見せてる顔が違うんだろうよ」
「お前みたいに、か?」
目の前にいる享と、麻原で名を馳せるサイファのエッジは表情も雰囲気も違う。和也の前で見せるのは、あくまで黒崎享の本性らしいが、果たしてその言葉を信頼してよいものか?
…
和也は常に迷っていた。
和也の真摯な声と表情をみて、享はにやりと笑う。
「言うじゃねえか。まあ、実際、そうだから仕方ねえよな」
グラスに残ったチャコリを一気に煽る。
享が飲み終えるころ、和也の頼んだジンジャエールがやってきた。享は店員に、もう一度チャコリを頼むと、脇に置いたライダースジャケットの下から何かを取り出した。
「ほらこれ、クリスマスプレゼント」
黒地に包装に金のリボンが結ばれた10cm四方の箱に和也は首を傾げる。
「ワイヤレスイヤホンだよ。欲しいって言ってただろ?」
「よく覚えてるな。随分、前のことなのに」
アパートでひとり暮らしていた頃、夜にレポートに集中したいとき、音楽を聴くためにイヤホンが欲しいと話していたのだ。
もう1年以上も前の会話をよく覚えているものだ。
結局、高見の家に戻ったのでイヤホンの必要性は無くなったのだが、スマホで動画を見る時に欲しいと思っていたのだ。
「そりゃあ、お前の歓心を得るためだったら、何だって捧げるさ」
軽い口調だが、目は嗤っていない。強い声色の奥に含まれた本音を、和也はジンジャエールを煽ることで避けた。
他愛もない話をし、あっという間に時間は過ぎて行く。和也が腕時計を見ると、針は23時をさしていた。
「享、俺そろそろ
…
」
「おや、もうお開きかな?」
その声に、和也は凍り付く。
「やあ、久しぶりだね、和也君」
耳触りの良い低く深い声が自分の名を呼ぶのが信じられなかった。
「森島さん
…
――
享、お前っ」
仕組まれたことだと気づいた時には何もかもが遅い。約1年前、それをこの二人に叩き込まれたはずなのに、すっかり忘れていた。
「だって仕方ないだろ。こうでもしないと、お前、俺たちには会おうとしないんだから」
コートを脱いだ明人は、和也の隣に座った。居心地の悪さを感じ和也は身体をずらせる。
「店はもう閉めたのか?」
「今日はイブだから、家で過ごす客も意外と多くてな。仕事納めだし、元々2時間ほど早く閉めると、客にもスタッフにも伝えてあった」
その台詞に和也は別の意味で焦りだす。玲二は和也がバイト後に飲み会に行くことはしっていて、日が変わる前には帰ると伝えてあったのだ。
オーナーである明人が麻原から離れたこの店に来ているということは、玲二も家に帰っているだろう。
「やっぱり俺帰らないと
…
」
「レイジには上客とのアフターがあるから、帰りは遅くなるだろう」
コートを脱いだ明人は仕事の際よりは格段にラフに、だが大人の魅力を漂わせる装いだ。
言いざま、明人はやんわりと和也の手首をつかんだ。咄嗟に振り払おうとするが、力を込められた状態ではそれも叶わない。
「ところで、酒は飲んでないのか?」
和也のグラスに目をやり、明人は問いかける。氷の多さでソフトドリンクだと判別したのだろう。
「
……
」
明人を睨み付けたまま、和也は返さない。その和也の顔を見やりふっと笑うと、親指で手首の内側をなぞった。
「こいつ、同級生と飲みすぎたんだってよ」
享が代わりに答える。享の位置からでは、テーブルの下で何が行われているか見えないのだろう。
触れたところからじわりと這い上がる熱に和也は、知らず唇を噛み締める。
「そうか。でも、口当たりの良い酒なら、かまわないだろう。奢ってあげるよ」
「結構です」
「和也、どうしたんだよ、お前らしくない。お前、こいつに懐いてたじゃないか」
一力の会食では、確かにそう見えただろう。だが
…
。
「俺が少々、粗相をしてしまって、和也を怒らせてしまったんだ」
「へえ、あんたでもそういうことがあるんだな」
享が驚いた声を上げたところで、定員が注文を取りにきた。
「
――
フィノとペドロ・ヒメネス、あとは、オリーブのアンチョビづけを。他にはなにかいるか?」
店員に注文し隙ができた瞬間、和也は手首をひねり明人の手から逃れると、立ち立ち上がった。
「和也っ」
享が強い声で和也の行動を咎めると、和也は顔を背ける。
「顔、洗ってくる」
本当はこのまま立ち去ってしまいたいが、この二人ではそういうわけにはいかないだろう。
ふたりの視線を受けながら、足早に店内の隅にあるトイレに足を踏み入れた。
――
ジャー
古めかしい蛇口をひねり両手で水を救いあげる。透明な水が掌から零れ落ち、残った水も両の掌の隙間から零れて行った。蛇口をひねり、水を止める。
顔を洗うといってトイレに向かったが、ただ離れたかったのだ、あの場所から。
洗面台の端を掴んだ両手が震えている。森島明人を見て感じたのは怖じ気なのだろうか。それとも、怒りか。
震えを止めるため、強く洗面台を掴み、和也は目を閉じた。
脳裏に刻みついたのは、傷つけられた痛みだ。森島明人と、玲二にとっては、あの時和也を傷つけることなど造作もないことだったに違いない。
だからこそ、立ち止まってはいけない。何でもなかったことなのだと、立ち上がらなくてはいけない。
その時、背後に気配を感じ、顔を上げた和也は鏡越しに森島明人が立っていることに気づき、咄嗟に振り向こうとした。
しかし、明人は和也の背に身を寄せ、そのまま手ごと、洗面台に押し付けたのだった。
和也の体は強張り、動けなかった。その和也に強張りを感じながら、明人はふっと笑い、静かに和也に話しかけた。
「
――
無視されるのもそろそろ限界なのだが」
「
…
別に無視はしてません」
「じゃあ、怖がっているのかな?」
産毛立つほど、低い声だった。森島明人の本性だろうことが伺える声色だ。何の感情も含まれていないのに、人の怖じ気を抉りだそうとする。
「あの夜のことは、君にとっても思いもしなかったことだろうとは思うが、許してほしいとは思っていない」
ほら、やはりそうではないか。彼らが謝罪も、言い訳もするはずがない。
「だが、君の信頼を失ってしまったことは確かだろう。
――
だから
…
」
「
――
もう、やめましょう」
鏡越しに明人を見据え、和也はつぶやく。
「今更じゃないですか、もう」
口の端を微かに上げて、和也は笑う。
「俺は、足元じゃなくて、明日をみたいんです。あいつと俺の最良の道がないか、常に探しているんです。あの夜が、その最良の道に必要だったというなら、俺は受け入れるしかないんです。
――
だから、あの夜のことは忘れました」
あれは、何でもないことなのだと、和也は言外に告げていた。
「俺はあいつを俺自身に縛り付けようとも、ましてや依存させる気もありません。俺だってそうです。あいつに寄生する気はないし、依存もしません。
――
あいつはあいつの人生があって、俺には俺の人生がある。重なりあった部分を生きていければ良いと思っています」
「そうやって、君は前に進むわけか。道理で、どうやったって君は、誰の手にも堕ちてこないわけだ。
――
なんだか、玲二が健気に思えてきたよ。最近は随分、君に翻弄されているようだが」
シンプルなほどに分かりやすく、ダークマター意外での時間を、高見玲二として和也とそれに付属するものに捧げている。
『和也をどこかにいきたい』という相談という名の牽制は変わらずあり、その度に最高級のものを紹介してきたが、捧げた先である和也本人にはその真意までは伝わっていない。
「玲二は、君を運命の相手だと思っているようだがね」
玲二は継母である由美子を、父祐介の『ファムファタル』だと言った。そして、玲二にとってのファムファタルなる存在は和也なのだと。
両親のように、お互いを尊び、最期まで共にある関係ではないのに、強要されるのは和也自身からの求めだった。
「それは
…
俺にもわかりません。最終的に、あいつが何を望んでいるのか」
和也は言ったっきり、押し黙る。玲二の真意を測りかねて困っているといった感じだ。突拍子もない、だが玲二にとっては本音である台詞を言われ、和也が困惑している姿が何となくだが浮かんだ。
「あまり遅いとエッジが訝るだろう。そろそろ戻り、飲み直そう」
明人が離れると、和也はようやく強張りを解く。そして先に出た明人の後を追った。
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