こつぶ
2022-06-12 19:09:35
7033文字
Public
 

Graduation

◼️いだあおSS
◼️本誌ネタあり注意。
◼️最終回直前に書いたので公式の設定とは違う内容です。
◼️最終回ではおそらく卒業話がくると思うので卒業式の妄想を書くなら今しかないと思った。
私なりの消え恋への感謝や終わりに向かう悲哀と今後への淡い期待等色んな気持ちをこめました……(重い)
◼️捏造&解釈違い&誤字脱字多数注意。

大丈夫な方はどうぞ!

柔らかな早春の日差しが降り注ぐある日。
卒業式を迎えた東ヶ岡高等学校の教室内では最後の時を惜しむような賑やかさで溢れていた。
クラスメイト達は談笑しながら寄せ書きしたり個別で連絡先交換をしあったり写真を撮ったりしながらそれぞれの終幕を過ごしている。
仲良く団結してきたクラスの最後の日ということで卒業記念として当日にクラス全員参加のカラオケも企画された。
すでにそこへ向かう人もちらほらと出始め、少しずつ教室から喧騒が減っていく。

「よっ! 青木」

「おー。あっくんおつかれ~」

「いや~無事終わったな。卒業式」

「だな」

……なんか平気そうじゃん? 青木の事だからもっと泣くかと思ったわ」

皆からの寄せ書きを終えたアルバムをしまいながら帰り支度をしている青木を見て相多がニヤニヤと揶揄してきた。
普段何かと涙腺を緩ませている青木にしては珍しいと思ったのか顔を覗き込んでくる。

「俺だって少しは成長して落ち着いてきてんの。
あっくんこそ、こういう時位もっと寂しい顔とかしろよな~」

少し大人ぶるような口調で青木が笑って答える。
いつもの調子で二人が会話しているとそこに友人女子とのやり取りを終えた橋下さんとバレー部や豊田のいる他クラスへ引っ張られていった井田が戻ってきた。

「ごめんねーお待たせ……っ!」

「すまん、待たせた」

「みおちゃんもう終わった? 井田もお疲れさん」

相多の声と共にいつものメンバーが揃った所で、クラスメイトに頼んで記念の写真を撮ってもらう。
相多と橋下が友達に促されてカップルで撮影しているとクラスメイト達からも祝福と激励の声が上がった。
嬉しそうな親友と頬を染めて恥ずかしがる彼女を見て青木も安堵の笑みを浮かべる。
お幸せに、仲良くやれよ、とまるで気持ちを代弁するかのようなそんな声があちこちから聞こえてくるのを感じながら。

「推しアイドルのラストコンサートってこんな感じなのかな……

惚けながらそう呟く青木はどこか別の遠い所を見ているようで、現実に戻そうと井田が呆れ顔で肩を揺すっていた。

ここ最近進学のための塾や勉強などで滅多に一緒に帰ることができてなかった四人組の歩みが同じリズムで階段を下り下駄箱を通り校舎を後にする。
そのまま駅へ一緒に向かおうと談笑していたが青木が校門の手前で思い出したように声をあげた。

「あ! 俺ちょっと忘れ物!」

「はぁー? こんな日までお前何やってんの……

「それなら今から戻ろっか?」

呆れながらもすぐ戻ろうとする相多と気を遣って足を止めた橋下を制止して青木が井田の腕をつかんで走りだす。

「大丈夫! ごめん、すぐ行くから二人とも先行ってて!」

「あ、ちょっと……青木くん……?」

引っ張るように青木は井田を連れて共に校舎へ戻っていく。
一瞬気取られたが橋下は何か感じたのか走っていく二人の背中を優しい目線で見送る。

……じゃあ、俺らは行きますか」

ん、と相多から差し出された手を少し照れたような顔で微笑みながら橋下が取ると、しっかりと何かを確かめるように強く握られる。

もう共に通うことのない場所から離れ、二人は春先のふわりとした風を受けながら一歩ずつその先へと歩みを進めていった。


*


青木と井田が教室に戻るとすでに誰もいなくなっており、入り口の引戸の音だけが僅かに響く。
しんとした空気が漂う教室には机と椅子が整然と並べられており、日常で通い慣れた教室の普段の賑やかさが嘘のように静かだ。

「井田、ちょいこっちきて」

青木に促され井田は席に座らされる。
その後ろの席にすぐ青木も座ってきた。
並んだ机の前後にいる形になり井田が振り向く。

「これって……

「確かこの辺だったよな?」

三年に進級して教室自体は違うもののそれは確かにあの例の消しゴムを拾った時の配置で、当時を思い返すように青木は机の表面を撫でた。

「やー、懐かしいよな。今となっては」

あの時プリントを普通に受け取っていたら。
消しゴムを借りていなかったら。
自分達は今こうしていないのだと思うと感慨深い気持ちになる。
青木がついぽろりと漏らした言葉から少しずつ懐かしい思い出話が二人から溢れてきた。
屋上での告白、テスト結果がきっかけになった勉強会、そして文化祭の演劇。

「青木のシンデレラ似合ってた」

「おい嘘つけ。お前確か意外とごついなって言ってただろ!」

「そうだったか?」

「そーだよ、とぼけんなっ」

「あの頃はまだ自覚なかったからな」

「そういや、お前好きかわからんとかずっと言ってたもんな~」

ずっと俺しか意識してなかったんだよな、と青木が睨みながらやさぐれていると井田は思い出すような動作で空を見つめる。

「いや、いい奴だとは思ってたぞ。雨の日に傘入れてくれたり、落としたプリント拾ってくれたりしたしな」

「は……何それ。俺覚えてねーんだけど! いつの事だよ!」

「確か二年になってすぐ」

「はあ~? マジ? お前記憶力良すぎだろ」

確かにそれまで青木は井田をただのクラスメイトとしてしか見ていなかったから気に止めていなかった。
友人である相多とも初めて仲良くなったきっかけの日までそうだったのだからこれはもう性分のようなものだろう。
あの消しゴムを拾う所から始まるまで全くと言っていいほど認識していなかった。
仕方ないと思いながらもクラスメイトとして出会ってからの事をもっとちゃんと覚えていたかったとさらに拗ねる青木に井田は声を抑えきれず小さく笑う。
意識している相手でなくても優しかったからこそ井田は青木の事を好ましく思えたのだから今更気に病むことはないというのに。

「なんだよ~笑うなよ」

「すまん、つい」

思えば二人が付き合い始めた頃からこうしてゆっくり教室内で話をすることはほとんどなかった。
クラス内には男女の恋人達がたくさんいて、
特に名物カップルのヒロルミを筆頭に文化祭マジックや修学旅行きっかけで付き合いだした男女のクラスメイト達が仲良くかつ大胆にイチャついているのがほとんどで、それが日常で見慣れた光景でもあった。

同性同士の井田と青木がその中で同じように仲睦まじくできる訳もなく。
聞かれたら困る内容も話せない上に常に誰かの目線があるここでは落ち着かないため、恋人として二人きりで過ごす場合は屋上やその付近に行くのが常であった。

「そういやバレンタインで野々村と刈谷が付き合い出したときもみんなで祝ったりしてたっけ。もしみんなに話してたら俺らも……

そう言いかけて青木は言葉に詰まる。
このお祭り好きなクラス内で交際をしている事を話していたらどうなっていたかなど想像に容易い。
信用してない訳ではないが人の本心は見えないものだ。
揶揄されたり、冗談にされたり、下手すれば受け入れられずに避けられてしまう可能性もある。
結局最後まで言えずに隠し通して卒業の日を迎えた。

お互い自らの意思で選んだ道とはいえ同性との交際ゆえに簡単には表に出来ず、井田にずっと秘密の付き合い方で高校生活を終わらせてしまった罪悪感が一瞬頭をもたげた。
それはクリスマス前に絶交したきっかけにもなった問題で、結局自分達にとって周り全てに関係をさらけ出すような事は合わないと身に沁みて分かっている。
そのため教室や人目のある場所ではまるで友人かのような顔をして過ごすのが常で、堂々と愛を語れる恋人達が少しだけ羨ましかった。

逆に異性の友人である橋下とは恋の相談を受けていたり互いの進展に一喜一憂して騒いでいた事を思い出す。
まるで恋する乙女同士かのようなはしゃいだやり取りに恥ずかしさも一緒に甦ってきて、青木は少し照れたように頬を染めた。
橋下が相多と付き合うようになってからは四人で過ごす事が当たり前になり、青木が井田といても自然とその場所に馴染むことができた。
理解ある友人の存在は心の支えになり、だからこそどんな境遇でも卑屈にならずに自信が持てるように変わっていけたのだと青木は確信している。

「もう明日から二人とは気軽に会えなくなるし、仲良くしてるみんなの事も見れなくなるんだなー……

誰もいなくなった教室の天井を眺めているとじんわりと胸が熱くなり目頭から鼻に抜けてつんとしたものが込み上げる。
ほろりと流れて伝っていくものが青木の目から溢れて止まらなくなった。

「青木?」

「うわ、なんで、いまさら、うわ~俺かっこわり……

自分でも涙をコントロールできない様子で慌て始めた青木に井田がハンカチを渡した。

「大丈夫だ。俺しか見てないから」

「いだぁ~~……

ぐすぐすしながらハンカチを目に押し付けると青木は嗚咽混じりに言葉を続けていく。

「み、みんなといるの楽しかったんだっ!あっくんと橋下さんもずっと優しくて…………こんなんで泣くなんて子供みてぇ……はは、かっこつかねーの…………

「仲よくしてくれた友達を思って泣くのは格好悪くなんかないだろ」

井田はそっと青木の頭をなだめるように撫でていく。

「うん……

「ここには、いい奴が多かったよな」

バレー部の仲間も青木との付き合いを最初は祝福してくれていたし、その後稚拙な嘘で誤魔化す事になった井田を責めずにあっさりと受け入れてくれていた。
本当は豊田以外にも真実を知っていてくれているメンバーがいたんじゃないかと井田は思い馳せる。
他のクラスでも西園寺や幼なじみの豊田が自分達の拙い初心な恋愛を見守ってくれた。
運良く周りの理解に恵まれていたけれど井田は文化祭の打ち上げと岡野の件を思い出してもいた。

誰にも知られず、知られてもこうして理解を示してくれる相手がほとんどだったことは奇跡的なのかもしれない。
進学先の新たな土地で過ごすことが二人に何をもたらすのか不安全くがないわけではなかった。
自分の事には常に前向きでポジティブ思考な井田だが、青木の不安を理解したいという気持ちも強く持ち合わせている。
おそらくこれから何度も同じような悩みは起きるのだろう。
二人が一緒に恋人として過ごすことが普通になったとしても。

「なぁ、青木」

「うん……?」

「俺はお前となら大丈夫だって思ってるから」

「井田……

青木はいつの間にか机の上で重ねられていた手に少し驚きながらも、周りを見て誰もいない事を確認すると受け入れるように親指を握り返す。
許しを得た指先がさらに絡むまで時間はかからなかった。

「いつか……そうだな……例えば9年後とか。同窓会があったらその時には俺達の事をみんなに言えるようになるといいな」

きっと驚くだろうな、と井田は少し意地悪く微笑む。
大人になった元クラスメイト達は目立たず知られていなかった恋の物語を聞いてどんな反応をするのだろう。
青木はその話から成長した自分と井田の姿を想像する。
夢を叶えて、共に同じ方向を見据えて。
時計の針を合わせ進めている自分達。
まだ遠い未来だと思っていた妄想が繋がれた手の熱から急に現実味を帯びてきてぶわっと鼓動が高まってきた。
この目の前の男はすぐそうして無意識下で当たり前のように二人で迎える未来を語るのだから、たちが悪い。

「だ、だな! あ、その頃にはもしかしたらホーリツカイセイとかで、なんか? 同姓で結婚もできたりして? なーんて……はは……

「ああ、そうだといいな」

意趣返しのように結婚の話を切り出してみても動じない井田を見て青木の顔がますます赤くなっていく。
青木は恥ずかしさを払拭したくなり、自分より余裕めいている井田に対してどうにかやり返したいと思案する。

……俺らさー、教室で手を繋ぐのって初めてだよな?」

照れと涙を振りきるように顔を覗き込んで笑む青木に井田の胸がきゅう、と締め付けられた。

……っ!」

「な?」

さっきまでたくさん泣いたり動揺していたくせに少し年上ぶる態度を見せつけて余裕を取り戻すと小悪魔めいた笑いを浮かべた。
この状態の青木は可愛すぎて厄介だと知っている井田は話題を変えようとして先程青木が言っていた事を思い出した。

……そういえば忘れ物ってなんだったんだ?」

「あ、そうそう! 忘れるとこだった」

聞かれて青木も思い出したようにスマホのオートタイマーで黒板の前で写真を撮ろうと促す。

「さっきみんなとは一緒に撮ったけれど2人でも撮りたかったんだよ。ほら、これで制服姿も最後だろ?」

「なんだそういうことか」

あの時は相多と橋下を祝福するクラスのムードに押されて言い出せなかったのだと青木が照れながら答える。
変な所で遠慮をしてしまう優しい性格は変わらないらしい。
それでもこうしてやりたいことを我慢せずにできるようになったのは成長と言えるのかもしれない。
自分なんかと卑下したりしょうがないと諦めていた頃が嘘のように青木は前向きに自立し始めていた。

スマホを教卓の上に置きタイマーをかけて黒板の前に並ぶ。
体を寄せるように近寄った際に柔らかな青木の髪が頬に触れると井田はその瞬間、肩をぐっと抱いて唇を重ねた。
同時に撮影を終えたシャッター音が響く。

……え? えっ??」

自らに起きた事態に混乱する青木が一気に顔を赤く染め上げた。

「ば、おま、いきなりっ! 誰かに見られたらどーすんだよ!」

怒りながら身を離そうとする青木だったがいつの間にか逃げ場なく腰を抱かれて身を寄せられている事に気がつく。

……誰もいない」

もう前のように指で触れるだけでは足りない。
二人きりの時はずっと秘めやかに過ごしていた学校の中で、こうして初めて触れ合う行為にどこか喜びを感じていた。
風がさらりとカーテンを揺らして雲間から抜けた日差しが強く差し込む。
開いた窓の先のその遠くからまだ校庭付近に残る卒業生達の泣き声と笑い声が混じった喧騒がわずかに聞こえてくる。
再び触れてきた唇から漏れる息が熱く感じて、京都で過ごした夜を思い出してしまいお互いに止められなくなりそうな気配を察した。
すでに知ってしまったその先の感触。
思い出しては徐々に深く合わさりだす箇所から甘さを含むような声も漏れだした。

「ぃ…………

互いに恍惚とし始めた顔がまた重なろうとした瞬間、スマホの着信音が大音量で鳴り響く。
そこでハッと意識を取り戻した青木が井田を思い切り突き飛ばした。

「うわーーー!!」

慌ててスマホをバッと取り画面を確認するとクラスメイトの幹事から連絡が入ってきていた。
通話をタップした瞬間、静かだった室内に相手の声が無遠慮に流れ込んでくる。

『青木~どうしたんだよカラオケ来ないのか?こっちは盛り上がってるぞ~!』

「だ、大丈夫行く! すぐ向かうから!」

『井田知らね?あいつもまだなんだよ』

「あー、うん、あいつも多分向かってると思う」

『そっかー、おっ相多達も今きた! 青木も早くこいよ~じゃあな~』

電話を終えて安堵の息をつき振り向くと、突き飛ばされたのが不満なのか少し不服な顔をした井田が視界にはいる。
青木は焦りながら申し訳なさそうに近づいて謝った。

「ご、ごめん井田。多分、式の後マナー設定直したときに音量ミスった」

「いや、俺もついやりすぎた。すまん青木」

「や、俺も、なんか止めれなかったし……?」

流れる空気が微妙に居心地悪く、さっきまでの行為をつい思い出してしまい体が落ち着かない。
痒い空気がどこか懐かしく、お互いにふは、と漏れだすような笑いが起きた。

「はー、教室でこんな事するとか、ヒロルミ達より俺らのほうが大胆じゃね?」

「そうかもな」

「お前さー……急にこういうの、向こうでは絶対やめろよな」

「向こうって」

「大学の事に決まってるだろ!」

「ああ、もちろん分かってる」

井田はしれっとした態度でいるため本当に分かっているのか怪しいものだが、とりあえず口約束だけは取り交わせた。
ここでの目的は果たしたしクラスの皆が待っている状況のため青木もそれ以上は追及しなかった。

「まぁ、つーわけで、い、行こうぜ」

若干のぎこちなさは残るがなんとか燻る熱を冷まして教室を後にしようと歩きだした。
これ以上遅くなるとさすがに怪しまれてしまう。
そして来年度から通う大学の事を口にして改めて気がついた。

(そっか、井田とはこれからも一緒にいる時間たくさんあるんだよな……

青木がチラリと井田のほうを見ると井田もまた青木を見て何か考えるような仕草をしている。
青木達は住む物件も決まって春からはより距離の近くなる生活を準備中だ。
その事実を示唆するように井田から含みのある答えが返ってきた。

「学校の中じゃなければいいんだな?」

忙しさからつい忘れかけていたがその意味が伝わると、青木の顔が再び朱に染まる。

……好きにしろよっ」

出会い過ごした場所からは離れてしまうけれど、二人は新たな道を歩きだす。
ここから始まる世界が幸せであることを願いながら。


end