溶けかけ。
2024-07-19 20:45:28
1910文字
Public ほぼ日刊
 

おうちにかえろう

塔に監禁されたヌヴィレットと助けに来たフリーナのお話。
ちょっとだけですが、ナヴィア、クロリンデ、旅人、パイモン、シグウィン、公爵が出ます。

 することがないから窓の外を眺める。
 
 ヌヴィレットからすれば、小さなこの部屋にはベッドと机と粗末な本棚という必要最低限の物しか置かれていない。本はとっくの昔に読破し、手紙を書く紙もペンも与えられない以上、出窓に腰掛けて見える景色だけが退屈を紛らわせる唯一の道具であった。
 
 この国で一番高い塔にある部屋からは国中が見渡せる。眼下で米粒ほどの人間が槍や剣を手になにやら訓練をしているのを、ご苦労なことだ、と思いながら眺める。
 
 ふい、と視線を動かし、パノラマサイズの森を眺め、兵士に殴られた傷は癒えただろうか、と同居人に想いを馳せた。

「さて、水龍。息災かね?」

 白衣を着た研究者と幾人の護衛をぞろぞろと引き連れた王が嫌らしい笑みを浮かべた。

……

 ヌヴィレットは答えない。彼には王なぞどうでもよかったのだ。彼の無感情な朝焼けに見つめられた人間たちはぞわりと肌が泡立った。

「チッ……おい、やれ」

 王が合図をすると兵士がヌヴィレットを押さえつけ、3人がかりで床へと押し倒した。研究者は無抵抗な彼に群がると血液や皮膚、髪を採取していく。彼らのヌヴィレットへの扱いは人よりは実験動物に近かった。実際、彼らも彼のことは貴重なサンプルだとしか思っていないだろう。

「終わりました!」

 研究者の長が声を上げると一斉に拘束を解いた。

「フリーナ殿は無事なのだろうな?」

「フリーナ?ああ、あの小娘か」

 ヌヴィレットが眉を顰める。王はニヤつきながらその様子を眺めていた。

「さあ?どうだったかな?」

 奥歯を噛み締め、王たちを睨みつける。皮の手袋がぎちぎちと音を立てた。

……

「そう怖い顔をするでない――あの小娘の身を案じるのなら、精々、私たちの役に立つことだな」

 高笑いをしながら部屋を後にする王。嵐が過ぎ去った部屋でヌヴィレットは立ち尽くす。

「私のことはいい……君が無事でさえいるのなら」

 窓に額を当てる。どうか、助けに来ようなどと考えないでくれ、と願いながら。






「目標発見!行くよ!みんな!」

「任せて!盛大に暴れてやるわ!」

「こちらも準備完了です。動きます」

「旅人、おいらわくわくしてきたぞ!」

「パイモン、これは真面目な任務なんだから」

「うちと公爵も動くのよ」

 旅人がどこからか持ってきた通信機からみんなの声がする。ノイズ混じりで聞こえづらいが各々が昼間の作戦通り動いてくれているのが分かる。――ねえ、ヌヴィレット。見ているかい?みんな、キミのために動いてる。僕もみんなもキミを大切な仲間だと思ってる。だから、キミを「悪い龍」なんて呼んで利用しようとしている彼らを許さない。

「僕たちも行こうか」

 サロンメンバーを伴い、裏門へと足を進める。彼のいる塔から一番近い出入口のここには本来、たくさんの兵が配置されている筈だ、そう、本来なら。

「流石はナヴィアとクロリンデだね」

 おそらく、表門の方で陽動をしている二人が上手くやってくれているのだろう。時折、こちらにまで聞こえてくる爆発音がそれを物語っている。

「でも、そう上手くはいかないよねっ!」

 斬りかかってきた兵士の剣を避ける。逃げ遅れた髪がはらりと宙を舞った。

「チッ……

 剣同士がぶつかり合う音が響く。相手は熟練の兵士で、こちらはただの役者。性差だってある。

「侵入者には容赦しないようにとのお達しだ。悪いなお嬢さん」

 兵士の剣がフリーナの剣を弾き飛ばした。

「終わりだ」

「くっ……

 尻もちをついたフリーナの視界で剣を大きく振り被る兵士の姿がスローモーションに見えた。

……ッ今だ!」

……なっ!?」

 兵士の顔面に向けて砂を投げつけるのと同時に隠れていたサロンメンバーの三人が襲いかかった。

「ぐあっ……

 三人の猛攻に歴戦の兵士はあっという間に地面へと沈んだ。

「今回は僕の勝ちだね……先を急ごう。増援が来る前に」





 外が何やら騒がしい……ヌヴィレットは派手な爆発音で目を覚ました。石の階段を駆け上る音が近づいてきて、ヌヴィレットの部屋の前で止まった。

「そりゃ!」

 バキッという破壊音が聞こえ、扉に亀裂が入り斧の先が覗いた。呆気に取られるヌヴィレットの目の前で見知った人物が扉を蹴破った。

「フリーナ殿……なぜ……

 ヌヴィレットを見つけたフリーナが微笑んだ。そして彼に手を差し出す。

「怪我は……ないみたいだね、安心したよ。――迎えに来たよ、ヌヴィレット」