近いはずの衣擦れの音すら遠い。俺は初めて体感するノイズキャンセリングの性能に驚きを隠せなかった。雑音が消え去ることで、互いの体温や触れ合う肌の艶めかしさが平時の何倍にもなる。
もっと相手を感じたくて、袂の脇から腕をまわし広い背中にぎゅうっとしがみついた。
すると水の中から聞こえるような音で「ふふ」と笑う吐息を感じる。そのまま肩から背中まで全て男の大きな腕の中に収めされてしまった。俺は顔が見たくなって胸から顔を上げ、男の名を呼ぶ。
「ゲゲ郎………」
自分の声がやけに響いて恥ずかしい。俺の声はこんなに甘いものだったろうか。
「みずき」
同じように男が俺を見つめ愛を零す。そのまま面を下げてきて──────
二つの唇が合わさった。
無音の中で確かに感じる互いの体温。感覚が研ぎ澄まされて、少しかさついた相手の唇の皺まで感じ取れた。いつもより鋭敏な心地良さに、早急に体が昂っていく。それは相手もまた同じようで、どちらともなく食む動作が荒くなりどんどん口が開いてゆく。
──────くちゅりっ………
舌が絡み合った瞬間、頭の中で大きく響いた音に驚いて体が跳ねてしまった。うそだろ、ダメだ、これは。
予想外の事に焦って一度口を離そうとしたが、男にその動きを気取られ逆に大きな手で頭の後ろを固定されてしまう。相手の馬鹿力で抑え込まれ、僅かにも首が動かせない。
「にちゃり」とまた湿った音がする。男が舌を合わせたまま、口を歪ませ笑ったのだ。そこからはもう何も抗えぬまま、淫靡な音の洪水に頭の中を侵しぬかれた。
ちゅっちゅるるっ……じゅっ…ぴち、ぴちり……にちちっ……くちゃっっ……ぴちょっ…じゅるっ……じゅっずずずっっっ………ぐちっ………
「〜〜〜〜〜っっっ!!!んっっんっ!はぁぁう!やめ……っ!んふぅっっ…………!!!!!」
口から直接脳に響く淫らな水音、自分の喉から漏れる媚びたような高い声、呼吸音、押さえつける男の手のひらの温度、堅い胸板の感触、そして重なりあった腰の熱さ……何もかもがいっぺんに雪崩込み、体の中が膨れ破裂してしまいそうだった。
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