小竜景光が主を見つけるまでの100日間 2

あと99日
緊急古参刀重要会議

「で? このメンツ集めて、何を話し合うっての?」
 胡座をかいて腕を組みながら、加州清光は胡乱げな眼差しを三日月宗近に向ける。
 場所は、本殿の会議場の一室。
 そこに集まったのは、三日月宗近、鶴丸国永、加州清光、へし切長谷部、一期一振の五振り。
 一期一振以外は、主に審神者の近侍を務める男士たちだ。練度も最大限に達し、あとは修行に出るのみとなっている彼らは、この本丸でも初期の頃からいる古参の刀たちだ。
……あの、私がこの場に呼ばれたのは、どうしてでしょう?」
 一期一振が、不安そうに問いかけた。三日月宗近は、にっこりと優美に微笑んだ。
「一期一振どのは、粟田口兄弟の長兄であろう? 短刀たちにも協力してもらわねばならぬのでな。代表として来ていただいた」
「そういうことでしたか」
「だーかーら! とっとと、本題に入りやがれ、じじい! この面子が一箇所に集まるなんて、主が不審に思うだろうが」
「そうだ、三日月どの。何かあって、主が怪我をするような事態にもなりかねん」
 焦れた様子で加州が怒鳴り、それに長谷部が同意する。
 というのも、この本丸の主である審神者が神業級に存在感が希薄という特異体質で、練度の低い刀剣男士が主を認識できないからだ。
 もちろん、審神者が声を発すれば、練度が低くても認知はできる。しかし、はっきりとその姿形を認識できるようになるには、最低でも特級まで練度を上げないとならない。それでも、油断をすればすぐに見失ってしまう。
 練度を最大限にあげれば、そのようなことはなくなるらしい。それは、最近ここに集まっている者たちの練度が最大になってから、わかったことだ。
 三日月宗近は、心配そうな二振りに対して、いつもの高笑いをしてみせる。
「はっはっは。案ずるな、加州よ。主は今、短刀たちと遊んでおる」
「はあ?」
「かくれ鬼をしております。包丁と博多が最近、特級まで練度を上げたので、彼らが鬼になって主たちを探すそうです」
「でも、近侍が……
「鶴丸が太鼓鐘貞宗に代理を頼んでいる」
「貞坊も、俺たちと同じで、練度が最大になって修行待機中だしな」
「なら、いいけどさ」
 口を尖らせながらも、納得したように加州が呟いた。それを見やりながら、三日月宗近は居住まいを正す。
「さて、集まっでもらったのは他でもない。先日、この本丸に新しく顕現した小竜景光についてだ」
「そういえば、加州どのを経由して警戒対象とすると通達がございましたが、どういった訳でしょう?」
 一期一振が問いかけると、眉間にしわを寄せて鶴丸が面白くもないといった口調で答えた。
「どうやら、主は小竜景光のことが気に入ったらしい」
「ま、まさか……あの主が?」
 信じられないとばかりに、長谷部が言った。鶴丸と三日月が重々しく頷くと、みな深刻な顔つきになる。
 主である審神者が、ある特定の刀剣男士を気に入った。
 それは、この世界ではよく見聞きする案件だ。他の本丸では、特定の刀剣男士が審神者と恋仲になったり、真名を教えて番になるということもある。
 だが、この本丸においては、由々しき事態といえる。何しろ、ここの主はその存在感と同じで、そういった感情が極めて薄いらしく、たとえ刀剣男士のほうが気持ちを傾けて口説いたとしても、口説かれたという自覚すらないおぼこっぷりなのだ。
「それってさぁ、あんた達の勘違いということはないの?」
 加州が疑わしそうな眼差しで、鶴丸と三日月を見つめる。しかし、三日月は頭を左右に振った。
「勘違いではない。小竜景光が顕現して口上を述べたとき、主は頬を赤らめ言葉も出なかったのだぞ」
「俺たちですら、なかったことだからな」
 三日月に続いて、苦々しく鶴丸が言った。
 さらに、三日月は説明した。
 燭台切光忠が小竜景光を連れて本丸を案内していたのだが、執務室へ行く主と三日月が後から廊下を歩いていた。もちろん、小竜景光からは三日月の姿しか確認出来ていなかったはずだ。
 そのとき、主は小竜景光へ囁くように言ったのだ。
『がんばってね』と。
「もちろん、聞こえるとは思えぬような小さな声だ。その証拠に、燭台切光忠は主の声に気づかなかったのだからな。だが、小竜景光の耳には届いていたのだ」
 三日月は物憂げなため息を吐く。
「それは……警戒に値するな」
 長谷部が唸る。
「そうですね……まず、脇差の弟たちや、年長の短刀たちが暴走しないよう、私から説明して、兄弟で情報を共有しておきます」
「頼むぞ」
「問題は、練度を上げていけば、いずれ小竜景光は主の姿を確認できるってところだ」
 鶴丸が言った。
「新参の他の男士が数振りいるんだし、内番はわざと避けて、暫くは出陣とたまに遠征部隊に編成させておけば、良いんじゃないの?」
 加州が提案する。
「だが、出陣の際に負傷したらどうする? 手入れは式神の手を借りるとはいえ、基本的には主本人がされるんだぞ?」
「それは、修行帰りの脇差と短刀を同行させればよかろう。あやつらが一緒なら、そうそう怪我をすることないだろうよ」
 それから五振りは、出陣部隊の編成、遠征部隊の選出と内番の持ち回りなどを話し合った。その内容は、普段の作戦会議と大して変わらないが、小竜景光警戒態勢だというのは、この場にいる五振りだけの秘匿内容となった。
 解散となる際に、加州が再び三日月と鶴丸を胡乱げに見つめる。
「どうした? 加州」
「いや。いずれ小竜景光は練度が上がって、主の存在に自ずと気づくだろうし、主が気に入っているんなら、主から小竜景光に近づくことだってあるのに、そんなに警戒するもんなのかなーって思ってさ」
「何が言いたいのだ? 加州よ」
 三日月に問いかけられ、加州が睨みつける。
「男の嫉妬は、あんまり美しいとは言えないんじゃね?」
「はっはっは。それは、お前が手を焼いている一文字の隠居に言えばよかろう?」
「へーへー」
 やぶへびとばかりに、加州清光は適当に返事をしながら部屋を出ていった。
「言われたな、三日月」
 鶴丸がクックと笑う。
「嫉妬というより、おぼこ娘に近づく虫を看過できぬ親の気持ちに近いのだがな」
「たしかに。あんだけうぶだと、心配しないほうがおかしいぜ」
 そう言って、古参の太刀二振りは微笑み合う。

 小竜景光が主の存在に気づくまで、あと99日。
〈了〉