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kaede
2024-07-18 12:23:36
2293文字
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ニキと一彩くんとオムライスとやきもちのはなし
ニキひい
1年くらい前に妄想してたやつ
「椎名さん。聞いてほしいことがあるんだ」
珍しく神妙な面持ち
……
と言うよりも、気落ちしている、と言った方がしっくりくる顔をして弟さんが僕を見つめるから
……
いや。
むしろこちらから声をかけようかと思っていたくらいだったので、断る理由なんてなかった。
「それじゃ、座りましょうか」
ソファへと促した僕に素直に従った弟さんは、僕が隣に座るとその距離を少しだけ、詰める。
少し、ドキッとした。
多分、彼は無意識だったのだろうけど。その振る舞いはまるで僕に甘えたがっているようだったから。
……
まあ、僕が勝手にそう思っただけで、弟さんにはそういう類の思惑はない、ということはわかっている
……
じゃあ、どうして詰めたのだろう?
まさか僕の心を見透かして
……
いやいや。動物的な勘は良くても、人の機微には疎いところのある弟さんに限ってそんなことは。
うーん、考えたってわからないから、まあそれはいったん横に置いて、降ってわいたラッキーをありがたく享受することにして。
彼に密かに想いを寄せている僕ではなくて、年上のルームメイトとして弟さんに笑いかけると、少しは気持ちが軽くなったらしい。弟さんがほのかに微笑んでくれて、たったそれだけのことだったけれど何だか誇らしい気持ちでいっぱいになる。
「あのね、今日、社員食堂で偶然兄さんに会って、一緒にお昼ご飯を食べたんだけど」
「へえ。よかったっすね」
僕にとっては厄介な人でも、弟さんにとっては大事なお兄さんだ。嬉しかっただろう。それから、多分、絶対、燐音くんも。
普段の燐音くんの弟さんへの態度から察するに、声をかけたのは弟さんの方だ、というのは想像できる。あの人は弟のことが大好きなくせに、人前では距離を置くのが格好いいと思い込んでいる節があるから。
それでもやっぱり弟のことが大好きだから誘いを無下にできるわけもなくて、仕方なく、という名目で弟さんと楽しくランチしたに違いない。
と、実際見てないどころか聞いてもいないことを一瞬で想像してしまった僕の隣で、そんなことに気づくわけもない弟さんが続ける。
「それで、椎名さんがつくってくれるオムライスがとても美味しいことを兄さんに話したんだけど、『昔、つくってもらったことがあるけど、確かにあれはうまいよなァ。卵がとろとろでよォ、初めて食った時、感動しちまったもんなァ』って返されたんだ」
「はあ
……
ありがとうございます?」
僕は何を返せばいいのかわからないっすよ。
もしかしたら燐音くんに心無いことでも言われたのかもしれない、とあとから思ったことも、的外れだったみたいですし。
何て言葉をかけようかと考えあぐねているうちに、弟さんがつぶやいた。
「びっくりしたんだ」
「何がっすか?」
「兄さんは知らないと思ってたんだ」
「何がっすかね
……
?」
弟さんの話は要領を得なくて、何が言いたいのかさっぱりわからない。多分、僕が馬鹿でなかったとしても理解するのは難しいだろう。
いや、欲しい情報を上手に引き出すことくらいはできたかもしれない。もうちょっと真面目に勉強しておけばよかった。そうすれば少なくとも弟さんをこんな曇った顔のままにさせずには済んだかもしれないのに。
とん、と弟さんが僕にもたれかかる。
……
?
もたれかかる?
もたれかかってるっすね
……
。
弟さんが、俯いたまま僕の方へ倒れ込んでいるのを見て、服越しに伝わるまろやかな熱を感じて、少し早くなった鼓動を自覚して、弟さんが僕にもたれかかっている、という事実がどうやっても勘違いでないことを確認する。
本当に、今日の君はどうしちゃったんすかね
……
? 君が甘えてくれるのは正直嬉しいですけど、やっぱり、心配っす。
「兄さんと椎名さんは一緒に暮らしたことがあるのだから、兄さんは椎名さんのオムライスを食べたことがある、と予測して然るべきだったのに、僕の方が先に食べたと思いこんでいたんだ。びっくりしたよ」
「あー
……
」
数秒前にかたどられた心配が、あっさり溶けていく。
仲の良い兄弟らしいというか何というか。燐音くんが今の弟さんと同じくらいの歳の頃、ことあるごとにオムライスをつくってほしいとせがまれた時期がある。
燐音くんはあまり弟さんに過去を知られたがらないこともあるけれど、どちらかと言えば今まで何となく話す機会がなかっただけで、隠していたわけではないけれど。
言わなくてよかった。
言っていたら、弟さんがこんなにかわいいやきもちを焼いてくれることはなかったろうから。
もしかしたら彼にとっては、少し考えればわかったことに気づけなかった自分に混乱していて、話をすることで整理したかっただけなのかもしれないけれど。
でもそれなら、もう答えがわかっていることでわざわざ表情を曇らせる必要はないし、縋るようなことだってきっと、しない。
最初に言った通り、彼は僕に聞いてほしかったのだ。
その理由についてまでは、彼はまだ理解できていないようだけれど。
僕は多分、わかりましたけど。
それって、つまり。
「過去は変えられないですけど、これからのことならどうにでもなるっすよ」
「
……
というと?」
「これからは、僕がつくる新作オムライスは全部、誰よりも先に弟さんに食べてほしいっす」
僕にしては精一杯頑張って。
さりげなさを装って弟さんを軽く抱き寄せて笑うと、弟さんは、ありがとう、と幸せそうに笑って僕に寄り添った。
つまり、僕は君に少しは期待してもいい、ってことっすよね?
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