yuiazetsu
2024-07-16 17:05:14
2574文字
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魔法中年 纚川 第一話

なんだそれは。

……あの、纚川さん」
パソコンの近くを浮遊する、テディベアのような不思議な生物が声を掛けた。
……その恰好で真面目にパソコンに向かわれると、こっちもちょっと……
「活動方法は、自分が決めて良いと……言ったじゃありませんか。ミロルリィさん」
「言いましたけど……
ミロルリィ、と呼ばれたその生物は、バツの悪そうに目線を逸らした。

それは数日前に遡る。
唐突に現れた浮遊する熊のぬいぐるみが、42375µと話しているのを見かけて腰が抜けるかと思ったものだ。
「困ったなあ……これちょっと……流石にこんなに骨格が違うと……いや、そもそも骨格ないし……変身シーケンスが……
「42375µは人間ではないです。難しいですか」
「うーん、うーん、とっても……
「とってもですか」
普通なら同居人が浮遊するテディベアと会話していたらもう少し驚くべきなんだろうが、よくよく考えなくても纚川は未確認生命体と接触するのは今回が初めてでは無かったのだ。
……ちょっと良い……ですか」
恐る恐る声をかけると、その生命体はビクンと震えた。
「あ、あの……親御さんですか」
……保護者と思ってくれて良い、ですけど……
「助かります、実はですね……

……と言う訳なんですけど」
……
「流石に驚かれますよね」
「いえ……その……何と言いますか」
居間の席に着いた纚川が、じっと目線を落とす。
……こう言う時、その……そう言う方々って……こう……契約書とか説明用書類とか出してくれるんだなと……
「これはわたしがしっかり者なだけで……
「しっかり者……
「他の皆は、行き当たりばったりだったり、パッションで何とかしたり、土壇場に現れて成り行きで、って事も」
「ああ……そう言うイメージがあります……
「わたしはこう、もっと納得して頂いた上で協力関係になりたいなと……
「しっかり者で助かります……
「ありがとうございます!」
……それで、うちのアゼツが」
「そうなんです、わたしを見て金平糖をくれました!」
「ああ……アゼツは優しいので」
「そう、それにほら。わたしみたいな存在に金平糖をくれるなんて、わたしがいったらあれですけど世界観が完璧じゃないですか」
「確かにそれは……否定しないんですけど……
「なので、アゼツさんを魔法……少年? にと」
……それは……OKは出せないですね」
「そんなあ……
「この二枚目の資料なんですけど……危険性はありますよね」
「はい……可能な限りバックアップはしようと思っているんですが、どうしても……
「であれば、自分はそれを良しとは出来ません」
「そう……ですよね。ごもっともだと思います」
……でも、これ見ると……
書類を手に取って、眼鏡の位置を正しながら文字を追う。
「貴方方も大変みたい……ですね?」
「ええ……こう、人間さんでは対応が難しいものとかを……流石に対処を始めないと大変な事になるので……
……大変な事に」
「はい……
話をしながら、纚川は資料に目を通し続ける。
……年齢制限はあります?」
……ほへ?」
「年齢制限は、あります?」
「いえ、あまり……流石にご高齢の方だと厳しいんですけど……
……私は、大丈夫そうですか」
「あ、ぇ、年齢は大丈夫かと……少しお体が心配ではありますが、多少なら魔法で身体強化が出来ますので……
「そうですか……
纚川は真剣に迷っていた。
「もし、あの……纚川さんに変身して頂く事になりますと……元々アゼツさん用にチューニングしたものですので、こう……それを破棄してまた一から作り上げるとなると……
……流用は出来ますか」
「一応できます……最低限纚川さんに合わせて、変身体をチューニングすることになりますけれど」
「出来るなら……あの……
……やって頂けますか」
……
「もしやって頂けるなら、あの、細かい活動方法はそちらで決めて頂いて大丈夫なので!」
……成程?」
「ほら、急に敵陣に殴り込むのが性に合う人もいますけど……見る限り、纚川さんってそうじゃないだろうなって」
……分かって頂けて嬉しいです」
では、と纚川が顔を上げた。
……やりましょうか。自分で良ければ」
「本当ですか……!」

そして、現在。
……確かに決めて良いとは言いましたけど……まさか、魔法の力で強化された部分で戦う方法があの……データ戦略だと思わなくて」
「自分の性に合っているのは……こうなので……
魔法で強化された脳の処理速度や手の動きの素早さ。
本来なら戦闘の為の身体強化に使う魔法効果を、元から高い能力を引き上げる為に使った結果、彼の情報処理速度は格段に跳ね上がりを見せる。
その力を生かして、彼はホワイトハッカーじみた戦い方をしていた。
……変身した状態で、煙草をくわえながらパソコンに真剣に向かわれると、こう……
「いけませんか」
「いえ、いけない訳では……
横領、虐め、詐欺、その他。全力で情報を洗っては匿名で警察に流し続けている。
……?」
何か胸騒ぎがして、纚川は銜えていた煙草を灰皿に擦り付けた。
魔法で増強された能力が、共鳴している。
双子の共感覚に、魔法が交差した。それだけは分かる。
……外に出るのは、嫌、なん、ですけど」
……もし向かうなら、わたしも一緒にいきますよ」
……
歯を食いしばりながら、纚川は立ち上がる。
……変身していなくても、魔法による多少の能力増強は出来ますか」
「わたしが一緒なら可能です!」
ふう、と息をつきながら変身を解除する。
……嫌な予感がします。行きます」
「はい!」
家の鍵を掴んで、纚川は42375µの元へ歩いた。
「アゼツ。ちょっと行ってくる。侑羽に何かあったらしい」
「はい」
「もし私がいない間に侑羽が帰ってきたら、その時はよろしく」
「アゼツはよろしくできます」
「ありがとう」
玄関を開けると、辺りは真っ暗だった。
……行ってきます」
「行ってらっしゃい。先生」
深く、深く呼吸する。
……行きましょう、ミロルリィさん」
「はい! ユイ☆メンソールさん!」
魔法中年とそのパートナーは、静かな闇の中に飛び出した。