梶間
2024-07-16 09:31:48
2271文字
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メリニ百怪談物語

ヤアドの昔話一人語りから始まる、百物語

ヤアド曰く、メリニにはかつて幽霊屋敷があったという。

僕も人から人へと伝わった話を聞いただけなんですけどね。
メリニも大方の土地が浮上しましたが、まだぽっかりと空いた土地があるでしょう?海水が残って塩湖になっているところ。
あそこが先日赤くなったと大騒ぎになったでしょう。あそこがね、お爺さまから聞いたお話ですとかつて首刈り伯爵のお屋敷があった土地だそうです。
首刈り伯爵はお爺さまのそのまたお爺さま、曽祖父様よりもっと前にメリニに仕えられた方だそうです。メリニがまだ王国として新生したばかりで情勢が不安定だった頃、数多の敵兵を串刺しにして戦果をあげ周囲を震え上がらせたとか。血を吸った大地が真っ赤になるほどだったそうですよ。
敵を血祭りにあげるその様は国内外から畏怖や畏敬の念を持って称えられたそうです。
でもね、そんな偉大な人でもなのか、偉大だったからこそなのか、血を吸った大地には怨念も染み込んでしまった。
赤く染まった大地は日毎悪霊がうろつき、伯爵が戦線を退かれた後も悪霊達は大地を赤く染め上げ、とうとう伯爵のお屋敷すらも赤く血染めにしてしまったとか。
お屋敷が真っ赤に染まったのを見て使用人たちが慌てて中に駆け込むと、昨日までいたはずの伯爵の姿はどこにもなかった。
ある人は悪霊退治のために地の底まで討伐に赴かれたのだとか、ある人は悪霊に取り憑かれてご自身も彷徨える霊になってしまったのだとか、色んな憶測が飛び交ったそうです。

赤く染まった湖は、メリニの浮上と共に怨念が再び地上で彷徨い始めた証なのかもしれませんね。
皆さん、くれぐれも赤い湖には近づかないように。伯爵に敵と間違えられて首を狩られてしまうかもしれませんから。

……なーんてね!びっくりしました?怪談なんて初めてだから緊張してしまいました。
湖は調査の結果藻類等の影響で赤くなっているらしいですよ。それが落ち着いたら塩田を作って湖塩を産出することができるかもしれませんね。
あ、本当に行ってはいけない時は黄金郷の幽霊の方々が教えてくれるそうです。僕かライオスさんから、必ず、行っても良い時期や時間の案内を出しますから、絶対に、守ってくださいね。
絶対に、ですよ。


***


チルチャック曰く、それはありふれた話だという。

次俺がやれって?タダ酒があるからって来るんじゃなかったな、タダより高いものはねえって分かってたはずなのに。
じゃあまあ話すが怪談は得意じゃねえからな、あまり期待すんなよ。どこかで聞いた話だと思っても最後まで聞いてくれ。
えー、これは組合の奴から聞いた話なんだけど。そいつは昔空き巣とかコソ泥をしてた奴でな。羽振りのいい家に忍び込んでは金目の物をチョロまかしてた。
ある日、いつものようにある商人の家に盗みに入ったときのことだ。
その日は家の人間が全員出払っていることを確認して盗みに入り、片っ端から金品を懐に入れていった。金銀宝石をあらかた入れたところで、事前の調べにない部屋を見つけた。屋敷の奥にあったその部屋は豪華な扉でさぞかし価値のあるお宝があると思ったんだとよ。
しかし妙なことに、扉の向こうから人の気配がする。物音はもちろん人の息遣いもなにも聞こえないはずなのに、人の気配が微かに感じられる。
見つかったらお縄になるからその前にとっとと逃げるべきだと思ったけれど、もっと良いお宝があるかもしれないと欲を出したそいつは鍵穴から部屋の中を盗み見てみることにした。
鍵穴から部屋を見て誰もいなけりゃ入ろうと思ったんだろうな。
しかし鍵穴を覗けど一面のっぺりとした真っ赤な壁が広がるばかり。
金持ちが暇にあかせて作った趣味の悪い部屋か、と思ったそいつはその場からさっさと引き上げたそうだ。
数日後、その屋敷のことが気になったそいつは家の人間のことを調べた。そしたらな、その家の亡くなった先代が赤い瞳だったんだと。

俺の話はこれでおしまい。赤繋がりで思い出したから話してみたが、な、どこかで聞いたことのある話だろ?


*


ライオス曰く、魔物に関する話だから怪談ではないという。

じゃあ次は俺か。えーと、俺も人から聞いたんだったか本で読んだのだったかそんな話なんだけれど。
ドッペルゲンガーって知ってるか?
ああ、いやタコのドッペルゲンガーではなくて。
よくあるホラーな一説らしいんだけど、自分と同じ顔をしたドッペルゲンガーに遭遇すると元の人間は死んでしまう、という話。
シェイプシフターなんかも実際入れ替わるらしいから、正体の分からないホラーというより魔物の仕業だったのが脚色されていったんだろうな。ドッペルゲンガーもシェイプシフターもウーズも出会った人間に倒されなかった場合、相手に取って代わっていたんだと思う。
でも魔物だからいずれはバレて追いやられ、元の人間が死んでいたことにようやく気づく、って顛末だったんだろう。
肉体ごと真似ようとしても魔物には限界があるからいずれバレてしまう。生きていくには欠陥構造と言うしかないが、ならば肉体を真似て本人にすり替わるのではなく、相手の精神を乗っ取った場合、元の人間が死んだことに周りは気づかないのではないか?

そう、私みたいにね。

……どうだった?翼獅子を真似してみ痛い痛い、皆して殴らないでくれ!
百物語するって聞いたから練習してみたのに!
俺がやると洒落にならない?でも翼獅子が消えたのは皆知ってるから大丈夫かと思、ごめんもうしないから、ごめんて!