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東経
2024-03-29 19:19:47
2399文字
Public
新ゲ
お互いの朝
「
……
、」
幼少期から朝の稽古の為に叩き起こされてきた。
それがいつからか習慣となって染み付いている。
その習慣は今でも消えることなく、いつもどおりの時間に竜馬は目を覚ます。
ゆっくりと覚醒していく意識の中で最初に感じたのは布団の温もり。
そして腹にのしかかる布団以外の重さ。
背中に感じる別の体温と静かな寝息。
最後に泥のように身体にまとわりつく鈍い痛み。
心地よい目覚めに水をさすような痛みに少しだけ気分が削がれた。
身体の痛みの原因は半分は竜馬自身の行動に起因するものだからある種自業自得でもあった。
「(こんな体勢で寝たっけか
…
)」
ぼんやりと記憶を掘り起こそうとするも何も出てこない。
昨晩も隼人と"やること"をお互いの気が済むまでやって、電池が切れたように眠ったので仔細はあまり記憶にない。
抱きしめられながら寝るのは多少窮屈な気もするが、男ふたりでひとり用のベッドに寝ている時点で窮屈なのは変わりないだろう。
一先ず起きようと腹にある隼人の腕を雑に引き剥がして身体を起こす。
腕を布団の中にそっといれた後、同じようにベッドを出た。
まだ人の気配の少ない早朝の廊下を歩く竜馬。
行き先は共用の洗面所だ。
廊下の窓の先は朝焼けの橙に染まっている。
顔を洗ったら、ランニングに行くのもいいかもしれない。
孤島に建てられているが故に研究所周辺以外は整備はされていない。
走りにくいといえばそうだが竜馬からすればそちらのほうがいい。
ふと、気がついたのだが口の中がほんのりと鉄の味がする。
昨晩、行為中に口内を噛んだのか、切ったのか。
血まみれ、というわけではないから気にするほどでもない。
それこそ洗面所で顔を洗ったときにゆすげばすっきりするだろう。
たどり着いた洗面所は廊下よりも冷えていた。
孤島であるのにも関わらずちゃんと温水が出る洗面所だ。
だが温水がでるまで待てない竜馬はきんきんに冷えた水を顔面に浴びせる。
「っ
……
」
刺さるような冷たさに背筋が震えるが、その冷たさで眠気の靄が消えてゆく。
側のタオルで顔をふこうとした時、両の手首に痣が出来ていることに気がついた。
痣の位置を合わせると拘束痕に見える。
昨晩は"久しぶり"ということもあってお互い止まらなかった。
そのせいか、記憶も朧気だ。
「
…
あいつなにやってんだ」
「誰のことだ」
「ッ
…
!?」
痣を見ながら零した独り言に返事が来て思わず顔を上げると、いつのまにか隼人が立っていた。
■□■□■
布団の隙間から冷気が入り込んで身体を冷やし、その寒さで隼人は目が覚めた。
一度寝返りをうって今ベッドにいるのは自身だけだのを確認する。
「(竜馬はもう起きたのか
…
)」
昨晩抱きかかえて寝たのは覚えているから、腕の中にいないということはそういうことだ。
竜馬は体内時計がしっかりしているのか、起床時間のばらつきは少ない。
竜馬が目を覚ましたということは朝の5時ぐらいだろうか。
二度寝はする気はなく、今日のタスクを頭の中で整理しつつ隼人も身体を起こす。
ベッドの側に錯乱している衣服や、その影に隠れた千切れたベルトを見やる。
昨晩は少し"はしゃぎ"すぎたかもしれない。
それはそれで楽しめたから、悪いことじゃあない。
それにデータは取れたのだから。
身体を屈め、千切れたベルトを拾い上げたその時痛みが走る。
「
……
」
感じたのは肩の痛み。
筋肉痛などの体内部の痛みではなく、切り傷などの表面的な痛みだ。
痛みの度合いからそこまで深いものではない。
痛みは一度横に置いてベルトを観察する。
既存のものではどうしようもないことは今までの出来事が証明してくれている。
ならばと素材を組み合わせて金属並みにしてみたが、それもあっさりと千切られてしまった。
隼人の表情に落胆の色はない。これが駄目なら次を試せばいいからだ。
デスクの上にベルトの残骸を置いて、先程痛みを発した箇所を指でそっとなぞる。
ずきりとした痛みと、指先に伝わる傷の形。
それがいつ出来たものかは明白。
故意の傷ではないのはわかっているのでそれで終わり。
出血はなさそうだが消毒ぐらいはしておいたほうがいいと立ち上がる。
…
が、この部屋には何も無いことを思い出し医務室に向かうことにした。
■□■□■
「さっきからいたが」
「
…
そうかい」
隼人の返答にもそっけなく返す。
意識がそっちに向いておらず、心臓が踊っている。
隼人も肩の傷の消毒を終え、顔を洗いに来たらなにか独り言をつぶやく竜馬をみつけた。
咄嗟に竜馬は手首を隠したがそこにあった痣は隼人にもはっきりと見えていた。
誰にも見せられない感情が胸の内をゆっくりと広がっていくのがわかる。
表に出してはいけない感情だとちゃんと理解しているから表情にはおくびにもださない。
竜馬は咄嗟に手首を隠したが、別に隠す必要はないのだと気がつく。
この痣をつけた張本人なのだから。
自身の説明できない行動に少し戸惑いながら洗面所を出ようとする。
が、昨晩聞きそびれていた事を思い出して足を止めて振り返る。
「隼人」
丁度呼びかけたその時、隼人は顔に冷水を浴びせているところだった。
この状態で返答はないだろう。
「
…
、」
顔を洗う隼人の後ろ姿。
身体を屈めているせいで顕になった首の付け根近辺の"傷"が竜馬の目に映る。
「ぁー
…
」
思わず声が漏れるがその声は隼人には届いていないだろう。
「
…
なんだ」
「ぁ。あー、昨日言いそびれてたんだけどよ
…
」
事務的な会話をしたあとに竜馬は洗面所を出る。
そのまま部屋まで歩き出し、そっと手首を見た。
「お互い様か
…
」
今度こそ誰にも届いていない独り言が廊下に溢れた。
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