闇の何処かで梅の花が綻んでいるらしい。微かに甘やかな芳香が、先に逝ったあの男を想起させる。
声も仕草も三味の音も、何もかもが未だ胸の奥深くに根を張っていて身動きすらままならないというのに、たかが花如きがまるで『憶えているよな』と嘲笑っているかのようで、どうにも腹立たしい。
「まだお前の元に逝けないのか」
俺より先に逝くな、と言ったな。喩え紛い物であろうとも、お前との約束を違える訳にはいかないだろう。
頬を温い風が撫ぜていく。────春の風にはまだ早かろうに。
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