溶けかけ。
2024-07-14 21:32:25
1781文字
Public ほぼ日刊
 

未知との遭遇

世界ランク1の世界のフリーナとお手伝いにきた世界ランク8のヌヴィレットのお話です。


「こ、こんにちは……えっと、今日はよろしくね、ヌヴィレットさん……?」

「ご機嫌よう、フリーナ殿。……なに、遠慮はいらない。そちらの世界の私と同じように扱うといい」

「そりゃあ、僕はそっちのほうが楽だけど……キミはそれでいいのかい?」

「勿論だとも。むしろ、いまさら君に『ヌヴィレットさん』などと呼ばれるほうがよほど精神に不調を来す可能性がある」

「そこまで言うかい!?……キミはどこの世界からは来て変わらないんだね――行くよ!」

 フリーナはそう言うと見守りの翼を広げて飛んでいく。そのすぐ後をヌヴィレットは追った。

「空を飛ぶのって気持ちいいんだ……!」

 キラキラとした顔でフリーナはヌヴィレットに笑いかけた。まだ半分以上が真っ暗な地図を広げる彼女はヌヴィレットが来た世界のフォカロルスが望んだ通り、人として生きているように思える。

「私も旅人から翼を借りるまで知らなかった」

 ヌヴィレットが空を飛ぶことが出来るのは周知の事実だ。結界を自身の周りに張れば天候の影響を受けずに飛ぶことも可能だ。だが、翼を広げ、風を受けながら飛ぶというのも悪くないと今のヌヴィレットは知っていた。

「そうなんだ。僕と一緒だ」

 まだ終幕すら知らない彼女がこの先、何を見て、何を思うのか、ヌヴィレットには分からない。だが、自分の世界のフリーナと同じように逃げることはないのだろうと思う。彼女はいつでも歯を食いしばり、まっすぐに前を見つめ、進み続ける強さを持っている。そこにヌヴィレットは必要ない。

「次は……あ!あそこに宝箱があるよ!」

……待て!」

 フリーナが駆け出す。ヌヴィレットが止める間もなく、敵が宝箱の周りに現れる。地面から現れたトリックフラワーにフリーナが弾き飛ばされ、ボールのように飛んでいくのが見えた。

「泡沫となるがいい!」

 ヌヴィレットが杖を突くだけで、周りの敵が消え失せる。宝箱を無視し、フリーナへと駆け寄る。

「大丈夫か?」

「うん……なんとか……

 ゆっくりと起き上がり、体を伸ばすフリーナ。擦り傷はあるが大きな傷はないようで一安心だ。

「宝箱の中にはあのようにトラップが仕掛けられている場合もある。十分に用心するように」

「わかったよ。ありがとう、ヌヴィレット」

 フリーナは地図を取り出すと「次はあっちへ行こう!」と言いながらヌヴィレットの手を引いた。





「もう!ヌヴィレット!僕にも戦闘をさせてくれ!これじゃあ練習にならないじゃないか!」

……

「あ、こら!待て!」

 フリーナの抗議を無視してヌヴィレットが走り出す。

「頭を垂れろ」

 宝箱の周りの敵を一掃する。スタミナが切れて走れなくなったフリーナがぜえはあ、と荒い息を吐きながらヌヴィレットに追いつく。

「本当に……ゲホッ……何がしたい、んだ……

 フリーナが息を整えるのを待ちつつ、観察する。怪我はないか、無理はしていないか、と一つ一つ確認していく。

「息は整ったようだな、行くぞ」

「まだやるのかい!?」

 驚きの声を上げる彼女を無視して、先を急ぐ。一つでも多くの障害を取り除いてから帰るのが今のヌヴィレットの目標であった。






「おかえりー。異世界のお手伝いはどうだった?」

 自分の世界に戻れば、執務室のソファにだらしなく横たわるフリーナがヌヴィレットを迎えた。

……異世界の君に会った」

「え!本当かい!?どうだった!?……い、いや、興味なんてないぞ……本当に……こほんっ!キミがどうしても聞かせたい、というのなら話すと良い。僕が聞いてあげよう」

……ならば、『どうしても』だ」

「ふふん、そうだろう。キミならそう言うと思っていたよ!」

 言いながら、紅茶を用意しヌヴィレットに席を勧めて来るフリーナに頬が緩んでいく。

 紅茶を飲みながら、先程のお手伝いの様子を聞かせるヌヴィレット。あるときは目を輝かせ、あるときは手を叩いて我が事のように喜ぶフリーナはいい聞き手であった。

「ということで、敵を一掃してきた」

 ヌヴィレットの言葉にフリーナは最初こそ驚いた顔を見せたものの、はにかんで笑った。
 
「キミって本当に『僕』に過保護だよね」