アユム
2024-07-14 13:48:45
3000文字
Public khmdワンドロワンライ
 

かの夏

こは斑ワンドロワンライ【結成】新設のサークルに誘われる二人/ラスミ後、解散に触れています

 星奏館の中は空調が効いているとはいえ、聞こえるセミの大合唱に嫌でも夏を感じる夜半。こはくは、珍しく共有ルームでソファを占領していた斑の隣にどすんと腰かけた。
「となり邪魔させてもらうで」
「どうぞどうぞ! 別に許可をとることでもないぞお☆」
 斑が笑えばこはくも笑う。不思議と続くこの関係は、すっかり二人だけの明るいものへと姿を変えていた。
「ん? それ、新しい企画書かあ? 夏はすっかりCrazy:Bの季節だもんなあ」
 こはくの手に持たれたA4用紙が2枚重なって風に揺れる。裏に透けたほんの少しの印刷が見えそうで見えない。
「ああ、これな。わしらになんやけど。Crazy:BやなくてDouble Faceの」
「Double Faceの?」
笑顔で言い放つこはくの言葉ににわかに顔しかめた斑は、声を硬くしてこはくを見やった。怪訝そうな顔は、睨んでいるそれに近かったかもしれない。
「ああ、心配するほど大袈裟なもんと違う。新しいサークルのお誘いや」
こはくも若干声を強ばらせたが、すぐに普段のトーンで話を進めた。蝉の声がする。
「なんでも、デュオの憩いとして〝相棒の会〟みたいなのを作って、デュオユニット同士でご飯でも食べながらいろんなこと話したり情報交換したりするんやと。そこでひなたはんとゆうたはんが気を効かしてくれてな? 解散したわしらにもお声がかかったっちゅうわけや。」
……
「二人には縁も御恩もあるし、そういう意味では頭上がらんし。せっかくやから気持ちに答えたいっち気もする。……で、斑はんは?」
 長々と説明したこはくが斑の顔を覗き込む。そして間髪入れずに斑は声を低く尖らせた。
 こはくの顔を見ることはない。
「不仲で解散した俺たちに声がかかったのかあ? 俺たちだけの小さなサークルだとしても、そもそもそれじゃあ三毛縞と桜河の癒着で起こる問題は変わらないし、ここはお断りするのが道理だろうと思うが……君は?」
 長々説明したこはくと同じく一気にまくし立てた斑が、こはくの方を見ずに話を返した。
 こういう時、〝君は?〟などとこはくの意見を聞こうとすることが、まず斑に起こった変化だ。今更とも思うが、二人の意思疎通はユニットを組んでいた頃よりもずっとできている。そう言って過言ではない。
 ほどなくこはくも口を開いた。
――まぁ、わしも同意やね。楽しいとは思うけど、まったく同じこと考えとった。ここは他のみんなに任せるべきやわ」
二人は目を合わせないまま頷いた。無遠慮なクーラーの風が僅かな埃と二人の髪を舞いあげる。
「ひなたはんとゆうたはんには悪いけど、他の皆にも謝って今回はなかった話にしてもら……
「それに」
こはくを遮る斑の声。
「ん? なんや?」
……その」
言い淀んで言葉を探す斑が、やがて俯いた。スリッパの足先に目を落として、しばらく言葉を探して押し黙る。やがて、右手で綺麗に編み込まれた髪を掻き混ぜ、右足が強ばった。
「なんや、言いたいことあるんならさっさと言えや」
 こはくは呆れを隠さずに斑の左の足を蹴る。右に斑、左にこはくが座ることは、いつの間にか暗黙の了解になっていた。
「その……
斑は言葉を探し、ついに再び口を開いた。蝉の声に負けそうなほど小さな声で。
「〝相棒〟というのは俺と君だけのものだと思う。……から、今更他のデュオに名乗られたくないんだけどなあ!?」
 最後は早口で畳み掛けて、俯いていた顔を上げてこはくを見やる。頬を上気させた、真っ赤な顔で。
こはくが息を飲んで斑を見つめれば、
「っ、いや、忘れてくれ! ああもういやだなあ!? 歳を取ると感傷に浸って昔取った杵柄に縋るなんで立派に老けた証拠! お祭り男としたことが笑止千万!」
 三度口を開けば口数の多い斑がそこにいて、瞬間、その斑を抱き締めるこはくがそこにいる。
「どうしたあ? こはくさんはまだまだ甘えん坊さんだなあ!?」
 そして少しだけ嬉しそうにこはくを支えて抱き締めて、そんな風に明るく言う斑は、こはくの頭を大袈裟に撫でて目を弧にして笑っていた。そして、どこか貼り付けたようなその笑顔に甘い声を返すのはいつだってこはくの役目なのだ。
「甘えん坊さんは涙声しとるどっかの誰かさんや。まったく、――手のかかるお人やね?」
そう言って微笑むはくを一瞬だけ見つめ、そのまだ華奢な肩口に斑の顔が埋まった。互いに知る温かな体温を少しだけ涼しい風が撫で、目元をすっと冷たくした。
「なあ? ほんまに甘えん坊さんや、でっかい子供。随分とわかりやすい子やないの」
……うるさい」
 すっかり拗ねてしまった〝でっかい子供〟は、俯いてまた足先を見つめている。こはくのシャツの端を掴んでいる癖に。
「コッコッコ♪ こうしておんなじこと考えて、おんなじ気持ちでおって、わしは結構嬉しいんやけど? 感傷もあとの楽しみに取っておくってやつやな」
 甘く甘く、心底楽しく愛おしそうに告げるこはく。そして、答えない斑の額が一層ぐりぐりとこはくの肩に埋もれる。
「なぁ、斑はん」
 優しく名前を呼ばれれば、斑もじきに顔を上げ、顔が、二人の唇が近づいた。あまりにも自然に、愛おしそうに細められた瞼の間で、紫眼と緑眼は混ざった。今にも触れそうな唇の隙間でこはくは言う。
……斑はんと出逢って、ほんで結成から、……今日で一年やね」
……そうだなあ」
「十年目まで、あと九年や」
……解散したのにかあ?」
そうして斑の少し寂しそうな皮肉に被せるように、
「結成は結成や。あと九年、わしの傍におるんやったら教えたるわ♪」
こはくの甘やかな声がした。
……当然」

 そうして斑の唇が答え、ついに二人が優しく優しく重なった。



「う〜〜ん……これ、どうしましょう」
ゆうたは頭を抱えて集まった面々を振り返る。
「お祝いのドッキリだったのになー!? 俺たちがドッキリされちゃったよ……
『ドッキリ大成功』の札を掲げたままのひなたも、共有ルームを背にためを息ひとつ落とした。
「うんうん、今は二人にしてあげた方がいいね!」
「ってか、二人にするしかないでしょうよ」
目を輝かせる日和に肩を落とすジュンも、声だけは柔らかく温かい。
「まったく……あれだけ人を貶めてくれた二人がどの口で言う台詞だね!? それに場所も考えずに……!」
「んあ〜! 二人とも幸せそうやし許したってやお師さぁん!! 俺もう全然怒ってないで!?」
呆れ声を出す宗の声には、ひとつまみだけ温かそうなそれも混じり、みかは眉を下げて微笑む。
……うん、幸せそうだね。とても」
祝福の気持ちが溢れんばかりの優しい声を漏らすのは、かつての確執を取り払った凪砂で、
……不仲営業もBL営業、どちらもウケますから! 二人もなかなかやり手と言ったところですか! 一本取られましたな!」
「も〜! 副所長はすぐそういうこと言う〜!」
あの一件に関わった茨は、今や微笑んで二人を迎える。


〝結成一周年おめでとう〟


 先輩デュオたちの抱えた大袈裟な弾幕とクラッカーは、長い時を経てまた別の機会に使われることとなる。

〝再結成おめでとう〟

 その言葉と共に。


fin.

こは斑ワンドロワンライ
【結成】
60min+10min