溶けかけ。
2024-07-12 20:31:59
2111文字
Public ほぼ日刊
 

策士は誰だ

友人と話した「原神世界にポケモンがいたらヌヴィレットがめっちゃ水ポケモンにモテそう」をネタにしたクロスオーバーです。恋人設定。
ポケモンの可愛らしいイメージを壊したくない方は最後は読まないほうが良さそうです。


「う、浮気だーー!」

 ヌヴィレットの執務室にフリーナの悲鳴が響き渡る。「まて、フリーナ!!」という焦りと困惑を含んだ声が聞こえ、執務室からフリーナが走り去っていくのを多くの職員が目撃した。

「あー……何があったんです?」

 伸ばした手を引っ込めて、椅子に座りなおしたヌヴィレットは誤魔化すように咳払いをした。

「ゴホンッ……騒がしくして申し訳ない――痴情のもつれのようなものだ。気にしないでくれ」

 職員たちはあんぐりと口を大きく開けた。あの品行方正、公明正大、マシナリーが服を着て歩いている――とまで言われた最高審判官から出た単語にその場の全員が信じられないものをみたかのように顔を見合わせた。

「えっと……一体何が……

 言いながら執務室を覗けば、気まずそうに視線を彷徨わせるヌヴィレット。両隣にはミロカロスとアシレーヌがおり、そのどちらもがメロメロでもかけられたかのような状態で彼にすり寄っていた。

「あー」

 全てを察した職員は眉間を揉んだ。

「これは流石にフリーナ様が『浮気』と称されるのも仕方がないですね……

 ヌヴィレットは水ポケモンによく好かれる。
 それはもはや、異常と言っても良いほどに。どれくらい好かれているかと言うと、海辺を散歩すれば何かしらの水ポケモンに好かれ、パレ・メルモニア内までついて来られたり、時間になっても姿が見えないと思って探してみればとスイクンやカイオーガに引き止められていたり……例を上げればその手の話題で右に出るものはいないと言えるだろう。

「フリーナ様としてもさぞ残念だったことでしょう」

 互いに多忙な二人が会える日はそう多くない。1週間、半月周期であれば可愛いもので、長くて半年、一年近く会わないときもあった。今回は半年間、フリーナが映影の撮影でフォンテーヌを空けていた。半年も恋人と会えなかった彼女が帰国したその日の内に疲れた体に鞭を打ってヌヴィレットに会いに来たのは当然とも言えた。

「追いかけて下さい」

 職員の一人がヌヴィレットの執務室机を両手で強く叩いた。

「だが職務を放棄するわけには……

「俺たちが代理で休暇申請出しておきますから!」

 職員たちは総出でヌヴィレットを立たせると「ほら、早く!」と急かした。

「君たちの心遣いに感謝する」

 ヌヴィレットはそう言うと引き出しからリボンのかけられた小箱を取り出すとポケットに入れて走り出す。会いたい気持ちを抱えていたのは何もフリーナだけではなかったのだ。

「よしよし。君たちは俺と待っていようね~」

 二匹は不満そうではあったが、ヌヴィレットにとってフリーナが大切な人であることを理解したらしく、「仕方ないわね」というように尾で床を叩いた。






「フリーナ!」

 元素の痕跡を辿り、着いた先でヌヴィレットが見たのは、ずぶ濡れで水遊びをするフリーナの姿。いつも着ているジャケットやベストは脱いでいるようで、ずぶ濡れのワイシャツ越しに濃紺の下着が透けて見えていた。通行人の男性がニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながら目を皿のようにしてその様子を見ている。

「失礼……私の恋人に何か用事でも?」

 男はヌヴィレットを認めると「い、いえ、何も……」と言ってその場を離れた。権能を使い、周囲から姿が見えないように結界を張る。

「フリーナ殿。君はもう少し自身の人気を自覚すべきだ」

 夢中になって遊んでいた彼女を担ぎ上げる。後ろからフリーナの相棒のシャワーズとサロンメンバーが付き従う。

「なんだよ、その言い方……ふんっ。君はあの二人とずっとよろしくやってればいいんだ」

 ヌヴィレットの方を見ようともせず、フリーナは唇を尖らせた。

「どうせ、会いたかったのも僕だけなんだろう……っ!?」

 フリーナの言葉はヌヴィレットの唇に遮られた。突然のことに理解が及ばず、目を白黒させているうちに長い舌が侵入し、口内を犯す。

「会いたかったのが君だけだったとは思わないことだ……

 耳元で囁かれて真っ赤になっているフリーナを抱き直すとヌヴィレットは意気揚々とパレ・メルモニアへと帰っていく。
 フリーナが彼の意図に気づいたのは白いシーツへと組み敷かれた後であった。




「わたしたちのおうさまはおひめさまとうまくいったかしら?」

 アシレーヌが小首をかしげる。

「あら?わたくしたちのえんぎでおひめさまがでていったのだからだいせいこうでしょう?」

 ミロカロスが目を細めた。

「あまりあたしのごしゅじんさまをいじめないでちょうだい!」

 シャワーズが尻尾を床に叩きつけた。

「あら、いやだわ。わたしたちはこいびとたちのせなかをおしただけなのに」

「そうですのよ。あなただってごしゅじんさまがごきげんならうれしいでしょう?」

「そ、それはそうだけど……


「君たちは仲良しだね〜」

 職員たちはお喋りな3匹に目元を和らげる。
 まさか、先程の騒動がミロカロスとアシレーヌによって齎されたものだと露ほども知らずに。