雪貴
2024-07-12 00:32:47
837文字
Public RotR
 

弦は口程にものを言う

芝さん(@Shiba_rakugak1 )宅の鷹晴さんをお借りしました
高杉視点の鷹→桂

 その浪人は不思議な気配と魅力を持った男だった。
 歳の頃は桂さんより幾らか上。上背もかなり高く、それでいて威圧感を悟らせない佇まい。無作法者が多い浪人にしては所作も丁寧で粗野なところも見当たらない、風変わりな存在だった。
 男はここのところよく桂さんの元に顔を出しては何かしらの依頼を請け負い、それをなんでもないような顔でこなして報告をし、何事も無かったかのように立ち去ってはまた少し日を置いて顔を出す。それを繰り返していた。
 初めの頃は警戒していた桂さんも、今では腕の立つ男に込み入った依頼を負わせる程には信頼を寄せているように見えた。
 男の方もなんとなくだが、そんな桂さんの心境の変化を喜んでいるような様子である。普段からささやかに上げられた口角が、桂さんの前だと心持ちゆるんでいるように感じられる。
 人心の機微には聡い方だと自負している己である。男の笑みの僅かな変化に気付いてからというもの、よくよく様子を窺えば、なるほどそういうことかと合点がいった。
 今は色恋などに現を抜かす余裕も無し、桂さん自身が男のことを『そういった』風に見ている様子は窺えないが、これはひょっとするとひょっとするかと、少しばかり好奇心が湧き上がる。
 とはいえ、他人の色恋沙汰にあれこれ口を出す程の野暮天ではない。桂さんの、そして我々の不利益にならないようならそれでいいと、今はまだ気付かぬふりをしていよう。
 そう考えるともなしに思考を巡らせていると、桂さんと話を終えた男と一瞬目が合った。
 さりとて俺は三猿。おもむろに三味を取り出し、知らん知らんという風にちんとんしゃんと爪弾けば、男は少し面白そうに口を歪め、まるで猫のようにしなやかな足取りで屋敷を後にしていった。
 ────桂さんもえらいのに目を付けられたもんだ。
 多少の心配はあるものの、これはどうにも飽きそうにない。
 弦を爪弾く指先が僅かに跳ねる。今後の二人の行く末が面白いものであらんことを────。