けーだい
2024-07-10 01:17:50
627文字
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すれ違う

再再録 初出いつだったかも忘れてしまったけれど同シチュ企画さんに出したやつ
懐かしすぎる

きっと何かがあったのだ。宮廷詩人は確信した。
この数日、姫君はお付きの騎士を待機させているという。騎士と共に過ごす姫君の横顔が、淡く色付いていくのを見る度に、詩人の胸は焦がれてきた。あの男とてそう身分は高くない、それなのに、と。それが、ここへ来てもう五日も騎士は姿を見せていない。
これは自分にとっての勝機だと詩人は考えた。今の内に、と姫君の元へ馳せ参じる。首尾よく姫君との約束を取り付け、天気が良いから今日は外で奏でましょう、と言うと、彼女は美しい花のように微笑んだ。
城の中庭へ続く廊下を、姫君と連れ立って歩いてゆく。こうして共に歩くのも随分久しい感じがした。あの騎士が姫付きになる少し前から、修行に研究にと彼女はせわしくなってしまった。詩を聴く余裕も無い程度に。それもまた詩人の胸をざわめかせたものだったが、けれど今日は違う。
姫君の後ろに控えるばかりのあの騎士と違い、自分はその隣に並んで歩くことを許されている。その事に少しの誇らしさを感じながら廊下を曲がると、件の騎士が歩いてくるところだった。騎士は姫君を認めるなり端に寄って頭を垂れる。優越感に酔いつつその横を姫君と通る時、詩人は見てしまった。
姫君の頬が染まったのを。そしてあの騎士が、普段であれば絶対に顔を上げることなどないはずの男が―――ちらりと、視線を上げたのを。
ふたりの瞳が一瞬絡み合ったのを感じて、詩人は確信した。これは、勝機などではない。
きっと、何かがあったのだ。