けーだい
2024-07-10 01:11:27
2081文字
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伴侶

初出24/5/12 ティアキン一周年記念

「ユー、いい加減ゼルダ様とどうにかならんのか」
痺れを切らしたようにそう吹っかけたロベリーに、プルアは咄嗟に「でかした!」と叫んでいた。
ゼルダを救出してからというもの、全く進展のないふたりの様子にはプルアだけではなく、インパやロベリーまでやきもきしていたのだ。
リンクが「ゼルダには自分の家に住んでもらう」と言った時など大喜びしたというのに、蓋を開けてみれば文字通り住んでもらうだけで、彼自身はそこにいないようだった。聞けばゼルダの頼みで方々駆け回っているから、住んでいない家を譲ったのだという。
その事実を聞いた時の落胆たるや。ふたりよりもずっと歳を取ってしまった三人は、早くゼルダの子が見たかったのである。さすがにそれを直接本人達に言ったことはないが。
「どうにかってなに?」
そんな外野の勝手な願いなど露知らず、朴念仁は首を傾げている。とぼけているようにも見えるが、どうやら本気で分からないらしい。
見かねたプルアは溜息混じりに口を開く。
「今の関係のままでいいのかってことでしょ」
その言葉に、リンクはジェリンの淹れた茶を口元に寄せながら、ゼルダの泊まる部屋へと続くドアをちらりと見た。道中かなり暑かったらしく、着替えるといって部屋に入った彼女はまだ出てきていない。
「俺はゼルダの剣で満足してるよ」
そう返す声は溜息混じりだった。辟易するくらいなら進むか離れるかどちらかすればいいものを、それでもこの男はゼルダのそばから離れないのだ。
「フォー、エグザンプル! 彼女に伴侶が現れたらどうする」
「伴侶?」
今までよりも深く踏み込んだロベリーにプルアが喝采している間にリンクは聞き返していた。まるでそんなこと考えたこともなかった、というようなその顔に一発拳でも入れてやろうかと思ったが、どうにか堪える。
「そう、彼女の隣にユー以外のメンズがいたらどう思う?」
プルアはとうとうロベリーと固い握手を交わした。まさに自分の言いたいことを的確に言葉にして攻め込んでくれた、ありがとう、という気持ちで。
そんな二人を冷めた目で眺めていたリンクは、少し考えるような顔をした後口を開いた。
……そんな人、俺以外にいるの?」
「は?」
揃った二人分の疑問符が抜けていく。リンクは落ち着き払った様子で再び湯呑に口をつけた。
「ゼルダの隣に立てる人なんて、他にいないでしょ」
それはリンクにしては珍しい、傲慢にも聞こえるセリフだった。けれど彼があまりにも、単なる事実を告げるかのような調子で言い切るものだから、プルアはロベリーと顔を見合わせる。
「ホワイ? 何故言い切れる。もしやもう既にそういう関係なのか!?」
リンクの確信に根拠があるとしたらそれくらいしかないだろう。そう思ったロベリーの追及に、相も変わらず何もわかっていないような、面倒臭そうな顔が向けられる。
「そういうってなに?」
「結婚してるのかってこと!」
プルアもここぞとばかりに援護する。ここにインパがいないことが大層悔やまれた。おそらくは彼女も彼女で同じようなことを言っているのだろうとは思いつつ、プルアは前のめりになる。けれど、リンクの返答は支離滅裂としたものだった。
「してないよ。知ってるでしょ、俺達はそういう関係じゃないよ。……でも、多分ゼルダも同じだと思う」
今度はふたりが呆れる番だった。恋人ですらないというのに「彼女の隣は自分のもの」と言い切り、そしてそれは彼女も同じだという。
「なんだそれは」
リンクはそんなに思い込みの激しい方だっただろうか。百年前の様子を思い返すプルアが首を傾げる横で、ロベリーは茶を注ぎに来た己が妻に話を振った
「ジェリン、どう思う?」
「ん~、仮にそうだとしても、言葉にはしろデース!」
それは間違いない。深く頷くふたりを前に、リンクは深い溜息を吐いた。

       *

あれはいつの事だっただろうか。記憶を掘り起こしたプルアは思わず眉根を寄せる。
確か場所は復興拠点だった。ロベリーとジェリンがいたから、おそらくそのはずだ。そうなるとここ一、二年ほどの話になるだろうか。思ったよりもずっと最近で、けれど今のプルアには、随分と昔のことのように思えた。
後に妹に会った時、「姫様も同じようなことを仰っていたよ」と苦笑していた。その時に、あのふたりにはあのふたりにしかわからないことがあるらしいと話したものだが。
「じゃあ、行ってくる」
物思いにふけるプルアに、真剣な声がかかる。意識を目の前に戻したプルアは、リンクの顔をしっかりと見返した。
……頼んだわよ」
頷きだけを残して魔王の元へと向かう彼の背には、彼女の想いを受け取った証がある。
その剣を背負った姿が遠のいていくのを見つめながら、確かに、彼女の全てを背負えるのは彼だけなのだろう、とプルアは思った。
(こんな形で目の当たりにするとはね)
これがふたりの関係を好き勝手に突いた罰だとしたら、女神も大概意地が悪い。プルアは大きく息を吐きながら、城の地下へと消えていった彼の無事を祈った。