けーだい
2024-07-10 01:03:54
1127文字
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初出24/3/16 ワンライのつもりだった

よく見つけてくれましたね、とゼルダは微笑んだ。監視砦に帰還し、ひとしきりゼルダの身体の検査や事の次第と顛末の報告が終わり、ようやく落ち着いた室内での事だ。ごゆっくり、と出て行ったプルアは気を使って人払いをしてくれたらしい。部屋の外からは遠くに砦の活気が聞こえるものの、とても静かだった。
長い長い旅を終えたばかりのゼルダは、まだどこか寝起きのような、少しぼんやりしたような顔をしていて、見るからに疲れた様子だった。だから本当は早く寝かせたかったのだけれど、ベッドの縁に腰かけたまま俺の袖を掴んで行くなと言外に伝えるから、そのまま向かいに椅子を置いて座る。
「きっと貴方なら見つけてくれると思いましたが……あまり手がかりを残せなかったのが、気になっていて」
少し伏せた瞼の隙間から見える翠は、悔いを滲ませていた。俺に全てを託した彼女は、どうやら俺に剣以外の何も残せなかったと思っていたらしい。
確かに物理的に残った記録は殆どなかった。城の地下にあった壁画や、空に打ち上げられた石碑から読み取れるものもあったけれど、彼女の身に起きたことを断片的に語るのみだった。
そもそも、封印戦争があったということはわかっていても、その顛末までは現代に伝わっていなかったのだ。そのことを知っている彼女は、それでも足掻くように俺に手がかりを残して、そして案の定それらの殆ど全てが万年という時の流れの中で消えていったようだった。
それでも、俺は彼女に何があったのかを、知っている。
「でも、ずっと、俺に話してくれてましたよね」
ゼルダが首を傾げる。きっと彼女は知らないのだろう。彼女の流した泪が、全てを話してくれていたことを。それを見た過去の人々が、彼女の話を、願いを、祈りを、時の流れに消されないように、地上に刻んでくれたことを。
そうして今の俺に繋いでくれたことを。
「白龍の泪は教えてくれました。起きたことも、貴女の想いも、全部。だから受け取れました」
元に戻った右手で彼女の頬に触れる。そこに描かれた泪のような雫を親指でなぞると、擦れたような跡を残して消えた。
「だけど……
その先は、言えなかった。泣かせてしまったことも、彼女だけに決断させてしまったことも、本音を言えば悔いしかない。けれどそれを今更言うことに、意味は無いと思った。
言葉を飲み込んだ俺を見つめたまま、彼女が鏡写しのように俺の頬を包む。その柔らかな手は、暖かい。
「ちゃんと、ゼルダの声で、言葉で、聴きたい」
だからあえて、話を促した。後悔よりも、今目の前にいる彼女の声が聴きたかった。
「俺に話したかったこと……全部、聴かせて」
はい、と彼女が頷く。その頬にはもう、泪は残っていなかった。