けーだい
2024-07-10 00:51:25
1556文字
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越境

初出24/1/1 年越しネタ

各地を回っていると、このハイラルという土地がいかに多様な種族達で構成されているかをよく知ることになる。種族ごとの違いはあまりに大きく、食性や住環境、衣服や習俗なんかにその違いはよく見られた。土地が変わると風景だけでなく文字通り「世界が変わる」ようで、旅の初めはそれがとても面白かったのを覚えている。
例えばゾーラの里で「ベッドは宿屋にしか存在しない」と言われたとき。咄嗟に「じゃあ普段は皆どこで寝てるの」と訊いた俺に、カーティは「もちろん水の中ですよ」と笑って答えてくれた。そこで初めて、彼らと俺は違う生き物なのだと感じたのだった。
そうした差異の方がよっぽど目立つから、偶にこうして同じ文化を共有する場面があると、なんだか嬉しくなる。砦の監視塔、その中腹から、篝火に照らされた広場を見ていた。そこに集うあらゆる種族の面々の顔を眺めながら、ほう、と息を吐く。
「何笑ってんのよ」
プルアに声をかけられて、初めて自分が笑っていることに気付いた。欄干に両腕を乗せ、そこに頭を預けて下を覗いていた俺の隣で、彼女が俺を見ている。プルアは俺に習うように欄干に背を寄りかからせると、少し仰け反るように星空を見上げた。
「なんていうか……一年の切り替わりは、皆一緒なんだなと思って」
賑々しい眼下では、新しい年を迎える瞬間を楽しもうと各々自由に過ごしていた。踊っている者、飲み食いしている者、語り合っている者、それぞれ思い思いに振る舞っている。多分、一晩中この騒ぎは続くのだろう。
「そーよ。このハイラルに生きているものはみーんな、今日、一緒に新しい年を迎えるの」
空を見上げたままそう告げた彼女は、俺には一瞥もくれずに続ける。今更何を言っているのか、とでも言わんばかりの声色だった。
「アタシもアンタも姫様も、ね」
……ん」
頷いて、俺も空を見上げた。地面が明るいから星は殆ど見えなかったけれど、それでも美しい星がそこで輝いていることを俺は知っている。百年前から何一つ変わることなく輝き続ける星を見上げて、白い息を吐く。
「嬉しかったんだ」
溢すように言葉が漏れて、プルアがやっと俺を見る。俺は星から目を逸らさないまま、隣で首を傾げている彼女の気配を感じていた。
「どれだけ俺達が変わっていても……変わらなくても、こうして皆で過ごせるのが」
「ゾーラだって変わらないわよ~?」
俺が感傷的になっていると思ったのか、プルアは茶化してきた。それに笑って頷く。
確かにゾーラ族も長い時間を生きるけれど、俺達のように時を止めていたわけではない。俺が眠っていた百年を彼らは重ねていて、それはプルア達だってそうだった。
俺と彼女だけが、時間の断絶を感じている。けれど、それでも。
「リンク! プルア!」
下の方から微かに、呼ぶ声が聞こえて視線を下ろす。すぐに見つかった声の主は、俺達を見上げて手を振っていた。その隣にはユンとチューリもいる。ユンはロース岩を片手に、チューリは何か食べ物の入った容器を両手に持って、彼女と一緒にこちらを見ていた。どうやら一緒に食べようということらしい。
「呼ばれてるわよ」
「プルアもね。行こう」
片手を上げて返事をし、欄干に預けていた身体を離す。人混みがあまり得意ではないらしいプルアも、渋々といった体を装いながら俺の後ろに着いてきた。
階段を降りながら、過ごせなかった時を思う。きっと俺達は沢山のものを取りこぼしてきたのだろう。でも、それがなければ、今をこうして過ごすことはなかった。そこに悔いがないとは言わない。でも、これこそが、俺達の生きてきた時間なのだ。
数万と百年を越えた俺達は、これから一緒に年を重ねて生きていく。その喜びを胸に、ゼルダの元へ走った。

そして、新しい一年が始まる。