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けーだい
2024-07-10 00:47:31
1729文字
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前夜祭
しぶ再録 初出23/12/15
焚き火の明かりが目立つ頃、ようやく辿り着いた馬宿は、なんだか少し浮ついていた。
何かあったのか、と思うも心当たりはない。けれど多分、良い事があるのだろう。そんな空気があって、でもそれがひとりやふたりではなく、どの人も幸せそうな顔をしていたから気になった。
とりあえず今日の寝床を確保して、飯を食うべく外の鍋に向かう。鍋の横で男がひとり酒盛りしていた。その隣の丸太に腰掛け、空いた鍋を拝借する。適当に切った肉ときのこ、それからトマトをいくつか放り込んで煮込みながら、男に声をかけた。
「今日って何かあるの?」
一際機嫌の良さそうなその男は、なんだ知らないのか? と赤い顔をおれに向けて、にっと笑う。
「明日は生誕祭だぞ。女神ハイリアの」
「せいたんさい」
一般常識も殆ど忘れてしまったおれは、女神に誕生日があるのかと首を傾げる。すると男はよし聞け、と言っておれに温めた酒の入ったカップを突き出した。どうやら出来上がっている。そのうえ話上戸なようだ。話しかけたのはおれなのだから付き合うか、とカップを受け取ると、男は酒瓶から直に酒を飲みながら上機嫌に色々教えてくれた。
明日は女神が人として地に降り立った日なのだという。子供を女神の生まれ変わりに見立て、プレゼントを渡す慣わしがあるらしい。だから男は明日、自分の子にプレゼントを持って帰るのだと嬉しそうに語っていた。ちなみにここまで聞く間におれは鍋の中身を作り終え、食べ始め、食べ終わっている。酔っ払いの話は脱線するものだというのもおれは今日初めて学んだ。
「娘はもう本当に可愛くて可愛くてなぁ、目に入れても痛くないんだよ」
「それはないでしょ」
合いの手を入れながらカップを傾ける。ちびちびと飲んでいる酒は甘くて美味かった。あまりに長い男の話に付き合って酒がどんどん冷めていくから、鍋に張った湯にカップごと突っ込んで温め直している。火の傍で、更に胃の腑から温まっているからか、かなり冷え込んだ夜の外なのにあまり寒くなかった。
赤ら顔の話は尽きない。
「光るものが好きなんだ。女の子だよなぁ、綺麗な石とか見せるともう、キラキラ~っ! て、大喜びでな」
「だからゴロンシティかぁ」
「そう! 本物の宝石を見せてやりたかったんだ」
子供へのプレゼントにしては随分豪華だし、原石ってどうなんだろうとも思ったが、男の溺愛ぶりをこれでもかと見せつけられて、まぁいいかと言葉を飲む。
「でも、そんなに飲んでて明日ちゃんと帰れるの?」
半ば呆れながら男にそろそろ寝たらどうかと勧める。もう月も真上近くまで来ている。明日も移動になるのだから、おれも寝るべきだと思った。
「帰るさ」
存外、真剣な響きで男が言う。
「あの子の笑った顔が見たいんだ。何があったって帰るさぁ
……
」
かと思うと、そのまま空になった酒瓶を抱えて眠り始めてしまった。
「え、おじさん! ベッド行きなよ!」
「んん~」
座ったまま気持ちよさそうに眠る男はなんだかとても幸せな顔をしていて、毒気を抜かれる。仕方なく空の瓶を抜き取って、男の腕を肩に回して持ち上げる。
「ほら、歩いて! あと少しでいいから!」
ふらつきながら宿の中に入る。受付に潰れた男を見せると、笑って男のベッドを指さした。見てないで手を貸してほしい。
「よっ
……
と」
どうにか男をベッドに転がすと、彼はむにゃむにゃと何かを言いながら布団にくるまった。寒いは寒いらしい。
一度外に出て、鍋の横に置いたカップと酒瓶を回収する。一口分残った酒を煽ると、ほのかに温かい甘さが腹に落ちていった。だから多分、そのせいなんだと思う。
(あの子の笑った顔が見たい
―――
)
「おれも見たいよ」
酒が回ったのか眠気に襲われて、大きく欠伸をする。寒さに強いとはいえ、あまり長居するものでもない。鍋に入った湯でカップをゆすぎ、鍋も綺麗にして中に戻った。男のベッドにカップと酒代を置いて自分のベッドに潜り込む。
明日、ハテノに帰ろう。そう決めて、行程を頭の中で組み替える。予定にはなかったから、きっと彼女は驚くだろうけれど、笑って迎えてくれるはずだ。
その顔を想像しながら眠りにつく。胸の奥が、ずっと暖かかった。
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