けーだい
2024-07-10 00:42:23
350文字
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従者

ついった再録 23/12/8初出

なんにもないんだよ。ここにはなんにもない。
そう宣うのは妙に聴き馴染みのある声だった。必死に、けれどその必死さを押し殺すような声で繰り返す。
これは違う。これは違うんだ。
何が違うのか、と思う。「なにもない」のに、一体何が違うというのか。どうにも言いたいことがわからなくて、首を捻るばかりだった。
また、声が、聞こえる。
「貴女のことを、」
ぞっとした。聴いた瞬間これは駄目だと理解した。噤んだはずの口から出るそれが、ひどく悍ましかった。
咄嗟に掴んだ刃で喉を貫く。痛みばかりが流れ出て、そのくせ黙ることもできない。
「あい―――
これ以上は許せなかった。握った柄を深く押し込む。未練なく、息の根ごと断ち切って終う。
そうしてやっと、物言わぬ剣になる。
それで良かった。それで良かったのだ。