orikoriko1125
2024-07-09 22:26:28
4048文字
Public カキゼイ
 

亡命の顛末

休学中の姉弟
タロちゃんの話と繋がっている

パルデアの大穴で大変な事に巻き込まれて、落ち着く間もなく学園へ戻り、スグも無事にアオイと仲直りして……泥のように眠った翌日に珍しくスグがあたしの部屋に来た。というか起こされた。
「ねーちゃん、俺しばらく学校休もうと思う」
久しぶりに髪下ろしてるスグを見たな、昨日の今日で随分と早起きだな、とまだぼんやりした頭で眺めてたのに一瞬で目が覚めた。
「え?!はぁ??!休むってえ?!」
「声デカいって。色々皆に迷惑さかけちゃったし、キタカミで過ごして頭冷やそうと思ってる」
なるほど、あれだけ引っ掻き回したら確かに居づらいわ。
「その発想が出る時点で充分冷えてると思うけど、それじゃ収まらないってことよね?」
「うん……ねーちゃんにもいっぱい心配かけちまって本当にごめん」
頭を上げないままのスグの手は震えてる。
止めてあげたくて手を重ねたらびっくりするくらい、冷たかった。
「止めて!謝らなくていいから。そりゃお姉ちゃんだもん、心配くらい勝手にするわよ。」
スグがこじれたのも元を辿れば、あたしがアオイに内緒にしてと言ったのも一つだし。あの時本当の事を言えば良かったと、今までずっと後悔もしてる。
もしもはないけれど、この先後悔しない行動をすればいいだけなんだから。
「いいんじゃない?学校にも居にくいし、ゆっくり休んだら?……この代わり、あたしも一緒に休む!」
「え?!ねーちゃんも??!三年生忙しいべ?単位……
確かに三年生は最終学年だから忙しい。けど、
「単位は足りてるし、レポートくらい実家でも書けるから!大丈夫!」
「ねーちゃんまでダブったら俺
「そこまでやばくないわよ!!あいつは特殊なの!」
カキツバタの存在は反面教師として、ある意味では役に立ってるのかもしれない。みんな口には出さないけど『ああはならないようにしよう』と学業に向き合うようにはなるから
「しばらくがいつまでかは分からないけど、当面は大丈夫なの。こう見えても、あんたに心配されるほどじゃないんだからね!」
……んだばねーちゃんも一緒に来てもらう」
重ねた手でスグの手の甲を包んだ、いつの間にか手が大きくなっててちょっとびっくりした。

そこから慌ただしく、各々の担任へ報告し手続きをして実家の家族に連絡をして
おじいちゃんもおばあちゃんも急に帰ることになったから驚いていたけど、あたしから事情を話しておいた。
行いはどうあれ、強豪校で一瞬でチャンピオンにまで登り詰めた事はしっかり褒めて欲しいと念は押したわよ。あたしっていいお姉ちゃんじゃない?

スグはクラスメイトどころかアオイにすら伝えずにそのまま休むことにしたみたいだけど、あたしはネリネとカキツバタにだけは話さないといけないと思った。
ネリネにはずっと話を聞いて貰っていて、あたしと同じくらいスグを心配していたし。
ムカツク頭フワ男にもスグが散々迷惑をかけていたのかもしれないし。
「しばらく二人と会えなくなるのはとても寂しいですが、また元気な姿で学園で会えるのを楽しみにしています。ゆっくり休んで」
「まぁ、しゃーないよなぁ〜。来年はまたゼイユと同級生かぁ!」
勝手に人をダブらせて自分は進級しないでよ!
先生達からはたっぷり課題を貰って、いざキタカミへ。

学校から持ってきた課題をやったり、ブライア先生はしれっと『せっかくだからてらす池の調査を頼むよ!』とか言ってきて何気に忙しい。
最初の数日は休学を伝えていなかった人たちからメッセージや連絡が山程来てた。
特にアオイからは自分のせいで休学したのかと謝罪するような内容で
スグに隠れて電話したけど泣かせちゃった。アオイのせいではないから気に病んでないでといいけど
スグがスマホ持って無くて良かったと思う日が数日続いて、やっと落ち着いてきた。
ネリネからの授業のノートのデータが送られて来たり、リーグ部メンバーからはポケモンの写真が来たりとスグに見せても大丈夫な物は見せておく事にしてある。少しでも学校の事を忘れないように。
だってスグはポケモンたちと散歩したりのんびり過ごしてるけど、まだバトルしようって言うのも何となく、できない。このまま学校辞めちゃわないよね?って心配になるくらいには、魂抜けてる感じする。

『お疲れ様です!今電話できますか?』
夕飯の前、タロからメッセージが届いた。本を読んでるスグに気が付かれないよう、おばあちゃんにちょっと出ると声をかけて外に向かった。
少し離れたかったから林檎農園まで。
『外に出たからいつでも大丈夫』
イッシュは確か昨日の朝。わざわざ授業前に連絡するなんてよっぽどの事でしょ。
『お疲れ様です!お忙しい中申し訳ありません。』
今日やる事はもう終わってるから、学校いるよりはのんびりよ。タロの方がこれから授業でしょ?』
『一限目が休校になったんです、なので部活の事報告したくて。スグリくんに話すかどうかはお姉さんにお任せします!』
『聞いてから決めていい?なんか荷が重たいわ
『ですよね、そんな気落ちするような話じゃないですけどね
アオイの所在や部活の方針も決まってしばらくはランキングも休止。
スグに伝えたら自分のせいと責めそうだったからとりあえず保留にしておこう。
『ざっとこんな感じです。何でわたしがこんなに色々気を回してやっているのか本当に意味不明ですけどね
『それは本当にお疲れ様
『次のランキング戦では、カキツバタもスグリくんもアオイさんも蹴散らして私がチャンピオン獲るんで!』
『それはそれでタロのやる事は結局変わんないわよね?』
うっ。そういえば、カキツバタがスグリくんの件で退部した子とか、色々あった子たちにスグリくんを恨まないで欲しいって言い回ってるんです』
『は?!何で?あいつには関係なくない?』
『直接関係はないけど、スグリくんに対してカキツバタなりに思う所があるみたいで
あいつ、スグの事をずっと気にかけてるしね。ミニリュウのたまごまであげちゃって……。スグが妹じゃなくて良かった』 
……本当に気がついてないんだ
『?何か言った?ちょっと聞こえなかった』
『なんでもないです!こんな感じでちょっとづつですがこちらは落ち着いて来ています。お二人を皆、待ってるからゆっくり休んだら戻って来て下さいね!また連絡します』

日の短くなった夕方でもつやつやしてる林檎の木を眺めながら、さっきのタロの話を一つ一つ、思い返した。
スグはとにかく頑張って、頑張りすぎて持ってる力全部使い切っちゃったように見える。
また補充されるのか、もうされないのか分かんない。
あたしは一緒に学校に戻ってまた頑張って欲しいけど、スグが嫌なら無理強いはできないな。
大きくなってきた手を思い出して、ずっとあたしの後ろにいた小さなスグじゃなくなった事を理解しないといけない。
……今のスグに飛び込めるのは、一人しかいないから。
急いで目当ての番号にかけて、なんかもどかしくて走ったらサンダルだったから滑って転んだ。

「スグ、ちょっといい?」
オオタチを枕にして漫画を読んでるスグがちょっと面倒そうに体を起こす。随分良いご身分ね。
なに?」
「アオイにさ、手紙書かない?」
通販で買ったちょっとかわいいデザインのレターセット、二種類用意したの。気の利いてるあたし!
アオイの名前を出したら目がちょっときらっとした。
お母さんにお願いしてお小遣い貰った。それでアオイとアオイの友達の分、パルデアからキタカミ行きのチケット買いなさい」
前にアオイからパルデアでの大冒険の話ちょっと信じられないくらいのヤツ!を聞いた時、大事な友達が3人いると言ってた。
あたしとスグにも紹介したいって言ってて、「もしゼイユちゃんが嫌じゃなければ、いつかキタカミにも連れていきたい」とこぼしたの。
余所者も悪い奴ばっかじゃないし、アオイの友達なら別にいいわよ。
「アオイに手紙
カビゴンとソーナンス柄のブルーの便箋に視線を落とした。オオタチも一緒に覗き込む。
「スマホみたいにすぐに返事来ないけどさ、たまにはいいでしょ。アオイの友達にもキタカミの良いとこアピールしよう」
「うん。ねーちゃん、ありがとう」
「世界一美しいお姉様、このご恩は一生忘れません、でしょ?」
「感謝の気持一瞬で吹き飛んだべ」
スグの選ばなかったプリンとヤドンの便箋を広げて、あたしはネリネとタロとついでにカキツバタに、あとスグのクラスメイトでもあるアカマツに復学した際は弟をよろしくと書き添える。
そういえばこのちゃぶ台で向かい合わせで座るのは久しぶりだなと、あーうー唸りながらペンを走らせる弟を眺めた。

航空券を入れた封筒を投函したスグは「無事に届きますように」と手を合わせた。
何となくあたしも真似する。
「ねーちゃんは学校の皆に書いた?」
「そう、あたしがいないと皆寂しいでしょ?」
「静かになってホッとしてると思う」
まん丸なおでこにデコピンした。この髪型ホントなんなのよ。
「いっでぇぇ〜!!暴力女!」
「うるさい!バカ!」
手紙を書いてから、ちょっと元気出てきたみたい。
「あたしおやつ買ってから帰るから」
ねーちゃん毎日菓子ばっかり食ってるからちょっと太った?」
もう一発デコピンしたらひと睨みして、トテトテ家まで走っていく。全然太ってないから!むしろ痩せてる方なんだけど?!
桃沢商店のおばちゃんは不在だったので目当てのお菓子を取って、お金を置く。
何これ?ピンク色のお餅がトレーの隣に山積みにされてる。
眺めてたら無性に食べたくなった。一つ掴んで食べてみる、ほんのり甘い。
早くアオイから返事来ないかなと気の早いことを考えながら、家に帰ることにしよう。