orikoriko1125
2024-07-09 22:21:38
4111文字
Public カキゼイ
 

届かないのなら蹴飛ばすだけ

タロちゃんとスグリの話 notCP
カキ→ゼくらいの描写はあります


センタースクエアで珍しい人を見た。
嬉しそうに何かを眺めてるからわたしも同じ方向を見る。予想は付いてたけど。視線の先は学園のお騒がせ娘こと、ゼイユ先輩。
カキツバタ、そんなに見てたらバレるよ」
「バレてたらこんな事になってねぇって」
それもそうか、自分を嫌ってる相手に不毛な片思い。何となく横に並んで一緒に眺める。
ゼイユ先輩はポケモンバトルをしていた。出してるポケモンは地元キタカミから連れてきたチャデス、珍しいポケモンかわいすぎる
ゼイユの弟ってアカマツと同じクラスだっけ」
バトルの相手は先月入学してきたばかりの弟、スグリくんだった。オタチもかわいいですよね。
「確かそう。1-4だよ」
アカマツくんはシアノ校長がスカウトしてきた逸材で、ポケモンバトルはほぼ素人状態にも関わらず、持ち前のセンスと才能であっという間にランキングを駆け上がって来た。
次のリーグ戦で四天王入りは確実、わたしも負けちゃいられない。
「ふーん……。1-4ヤバいな。そういうクラス分けしてんのかねぇ」
カキツバタはいつの間にかスグリくんの方しか見てなかった。
あのゼイユ先輩の弟が入学すると聞いた時は、どんな綺麗な男の子が来るのだろうと学園内の女子生徒は少なからずワクワクしてた、と思う。
実際来たのはベビーポケモンみたいなとってもかわいくて、長身のお姉さんの影に隠れて控えめに話す大人しい男の子だった。
ポケモンバトルもなんか一生懸命な感じで、かわいい!
だから、カキツバタの言う『ヤバい』はわたしには分からないけど。
ちょっと悔しくて黙って二人のバトルの行方を観ていたら、ゼイユ先輩が「タロー!」と手を振ってきた。慌てて隣のカキツバタを見るといつの間にか居なくなってて、こういうの良くないと思います!!

それから部室でカキツバタに会う度に、「スグリ順位どうよ?」と聞かれるようになった。
「自分で確認しなよ、チャンピオンでしょ」
「オイラはチャンピオンじゃねーから!」
部長業をやりたくないからって理由でチャンピオンを名乗らない男にも、そんな男にも子供の頃から一度でも勝てない自分が情けない。
「次こそ勝ってこき使ってやるからね」
「タロちゃんの手足になれるとは男冥利に尽きるねぃ!」
ヘラヘラふざけた返事、カキツバタの真下にいる私は全く脅威にはならないのか。
スグリくんはランキング外だよ。誰かとバトルする事もほとんどないみたい」
部活の専用アプリを開いてスグリくんのデータを出す。カキツバタは目を細めて、珍しく真剣な顔で眺めたら
「なるほどねぃ、ありがとさん」
タブレットを突っ返してそのまま部室を出てしまった。
随分と気にしてるようだけど、姉を射んとせば先ず弟を射よって事なのか。
そんな周りくどい事しないで、もう少しお姉さんに優しくしてあげればいいだけなのに
スグリくんのデータは正直特筆する事もない、ゼイユ先輩とバトルのタイプが違うなとか思いながらスクロールしていった。

センタースクエアの端っこでスグリくんがうずくまっていた。具合でも悪いのか、そういえばスマホロトム持ってないからお姉さんを呼べないのかもしれない。
驚かせたくなかったから少し小さめの声で声を掛けた。
「スグリくん?体調悪い?」
ゆっくり上げた顔色は、思ってるより悪くなくて少しほっとする。
タロ先輩、ポケモンのたまごってどうしたらいいんですか?」
なるほど、うずくまっていたのは温めていたのか。抱えていた物を恐る恐ると見せる。
「たまごはねえ、バッグに入れていっぱい歩くと孵化するよ。どんなかわいいポケモンが出てくるんですかね〜!」
また俯くと、ぽつりと怖いこと言った。
わがんね。カキツバタ先輩がくれた」
変な汗出てきた。どういうつもりなんだろうとか、なんでとか、色々聞きたい事はあるけど
「カキツバタがくれたなら……ドラゴンポケモンかな。孵ったら育成の事、相談するといいと思いますよ」
カキツバタが今まで誰かに自分のポケモンのたまごなんてあげたこと、あったのかな。『ヤバい』って事と関係してるのかも。
「なんでおれになんかにくれたんだろ。しかもねーちゃんには内緒にしてって言われて」
不安そうに金色の目が揺れる。ゼイユ先輩に恩を売りたい訳でもないのか。
「多分、スグリくんに見込みがあると思ったのかも?……分からない事あったらわたしでも相談乗るので、いつでも声かけてね!コーストエリアにいるから」
たまごを抱えてフラフラセンタースクエアを後にするスグリくんの背中を見てたら、さっき普通に喋れていたのか笑えていたのか分からなくなってきた。
カキツバタにはわたしに倒される事なんて全然無いと思っていて、ランキング外の一年生の男の子に塩を送って、彼が自分の所まで来るって思っているのかもしれない。
スグリくんはまだ意図に気がついてないだけ。
でも分からない、何かがあれば急に伸びるトレーナーなんてパパの元でいっぱい見て来た。
悔しくて悔しくて、今日の部活は全然かわいくない荒れ方だったと思う。

「タロ、あたしとスグ、来週から林間学校で一週間くらい部活休むから」
部室でネリネ先輩に手伝って貰いながら事務作業をしていたら、ゼイユ先輩から声を掛けられた。
「分かりました。うちの学校に林間学校なんて行事あるんですね」
「何かパルデアの学校と合同で?お試し?……あたしの実家のキタカミでやるんだけど、余所者が来るとか無理!」
「ゼイユは最近そればかり」
余所者って言葉、お話の中でしか聞いたことないな。先輩の実家は遠い外国のキタカミで、イッシュとは全く雰囲気が違うらしい。
全身で怒ってるゼイユ先輩に、余所者が嫌いな理由を聞くのも面倒臭いことになりそうなので話題を変える。
「そういえば、スグリくんは学校生活楽しんでいますか?」
それがクラスメイトとも全然喋ってないみたいだし、バトルもしていないの。なんでここに入学したのかあたしも分かんない。見ててイライラはする!」
変なとこ当てたかも。ネリネ先輩が小さく溜息をつく。
「スグリはスグリなりに頑張っていると思います。たまには見守るのも大切」
「分かってるけど〜!」
でもあんなにかわいすぎる弟がいたら構いたくなるのも分かる。しかも頼れるのは姉だけなんて
「慣れない所で疲れてきてるかもしれませんし、実家で少しリフレッシュできるといいですね」
……ありがとうタロ!」
ゼイユ先輩のかわいい笑顔が見られた。これはレアかも。
カキツバタが部室に入って来た瞬間、いつものゼイユ先輩になってしまったのは残念だったけど。
また何か言ったのか怒って出て行っちゃったけど、好きな子に意地悪するのはエレメンタリースクールで卒業しなよ。

林間学校は予定より早めに終わったらしく、気がついたらアプリの姉弟のステータスがアクティブになっている。
でもゼイユ先輩はブライア先生に付いて校外活動に出る事が増えて、部活どころか学校でもあまり見かけなくなったし、スグリくんは……大分雰囲気が変わっていた。見た目も性格も。
部員に声を掛けてどんどんバトルをして、少し前ののアカマツくんのようにランキングを走り抜ける。
わたしも皆も困惑してる中でカキツバタだけが嬉しそうにランキングの変動を眺めていた。その時までは。
あっという間にここまで来たスグリくんと、アカマツくんのバトルはいつも以上にギャラリーが集まった。ここで勝てたら四天王入り。
入学して数ヶ月で四天王になった子と、急に才覚を現して来た子がぶつかり合うなんてアカマツくん風に言えば強火な展開。
二人が位置についてポケモンを繰り出す。
そういえば貰ったたまごは何のポケモンが孵ったのかなってふと思い出す。
スグリくんの出したカイリューを見て隣のカキツバタが「やっぱり1-4ヤバい!」って笑った。
「ここまで見越してた?」
いんや、さすがに。でもそうなったら面白れーなーって。たまごの事知ってたの?」
「たまたま知っちゃったの。可哀想に、困惑してたよ」
「たまごなだけに〜?」
余りのつまんなさに無言で睨むと、もうわたしの方なんか見ていなかった。


やっぱり思った通りになんかならねーかぁ〜」
「なってたらこんな事にはなってないでしょ」
あれから四天王全員に勝ってチャンピオンになったスグリくんに部活をかき乱され、スグリくんを覚醒させた張本人が留学してきて、彼女がチャンピオンになって
一時期は退学するのではって雰囲気だったとゼイユ先輩から聞いた時は申し訳ないけど、意外には思わなかった。
でもカキツバタがあんなに振り回されて、しかも誰かに負けるところは初めて見た。
ちょっといい気味だったし、溜飲は下がったけど出来たら負かすのはわたしだってしたい。
「まぁ、スグリも落ち着いて良かった良かった」
好きな女の子を遠くからしか眺められないのも変わってないけど。たまごの事もバレてキレられてたね。
「ランキング戦いつ復帰するんだろね」
「すぐだろぃ、なんせあいつはポケモンバトル大好きだしよ!」
視線はアオイさんと話してるゼイユ先輩から離さないまま答える。ポケモンとバトルが好きな人しかここにはいないもんね。
スグリくん手強いから、戻って来る前にわたしもカキツバタを倒そうと思ってるんだけど。後輩に先越されるのってあんまりかわいくないでしょ?」
……ふーん、スグリがタロが強えって言ってんのよ。ツバっさんを差し置いてよ?かわいいは最強なんだっけ?」
やっとこっちを見た。少しは焦って来たでしょう。
「だからずっと言ってるって、たまには真下も見たら?」
「違いねぇ!引きずり降ろされるの楽しみにしてっからよ」
相変わらず余裕綽々なカキツバタがここを離れないのを確認して、アオイさんとゼイユ先輩に大きな声で声を掛けた。
二人がこっちに手を振るのにバツが悪そうに応える姿はちょっとかわいいかも。