溶けかけ。
2024-07-08 21:48:37
1729文字
Public ほぼ日刊
 

熱中症にはご注意ください。

二人でお買い物してたらフリーナが熱中症になり、ヌヴィレットが介胞するお話です。
皆様も熱中症には十分お気をつけください。

熱中症にはご注意ください

「それでナヴィアがね」

 ヌヴィレットの隣でフリーナが買ったばかりの海獣のぬいぐるみを抱きしめながら、先日遊んだテーブルトークシアターの話をしている。

「で、クロリンデが……ってヌヴィレット、どうかしたかい?なんだか嬉しそうだね」

 近場の店の窓に映る私の姿はいつもより柔らかな雰囲気を纏っている。
メリュジーヌといる時みたいな顔だね、とフリーナが笑った。

「そうだろうか……ふむ。どうやら君が誰かと共に過ごしていることが私は我がことのように嬉しいらしい」

 ヌヴィレットの言葉にフリーナが頬を染めて「キミ、恥ずかしいことを言うなぁ……」と言うとぬいぐるみに顔を埋めた。

「キミからしたら僕も彼女たちもほぼ同い年だもんね。娘みたいなもの、か……

「それは違うと思うが……フリーナ殿?」

 急に立ち止まり、俯くフリーナにヌヴィレットは訝しげな視線を向けた。

「ああ、ごめん……ちょっと暑さのせいか目眩が……

 ヌヴィレットがフリーナに大股で近づいた。帽子を被り、服装も涼しげなものではあるが、今日はいつもよりも暑い日になると言われていた。

「涼しい場所を探そう。それまで耐えられるだろうか?」

 目眩のせいでふらつくフリーナに手を差し出す。彼女は話す余裕もないのか無言でその手を重ねた。




「飲みまたえ」

 日陰に移動し、グラスを取り出すと水元素で生成した水で満たす。ベンチの背もたれにぐったりと寄りかかっていたフリーナは時間をかけて水を飲み干した。

「ごめん……

「誰にでも体調が悪くなることはある。気にすることはない……少し休むといい」

 ヌヴィレットの作り出した水の塊を抱きしめてふぅふぅと熱い息を吐き出しているフリーナの頭を膝に誘導する。

「うん……ありがとう……

 ヌヴィレットの膝の上で目を閉じたフリーナの体温はやはり高い。――もう少し冷やした方がいいのかもしれない。

……

 ヌヴィレットは水を細長く伸ばすとフリーナの首に巻きつけた。少しずつ顔色が良くなっていっている気がする。

「ごめん……ヌヴィレット……

 フリーナの口から溢れた言葉は寝言のようなものだとヌヴィレットは水を通じて知っている。 

「私のことなど気にせず、ゆっくりと休めばいいものを」

 責任感の強い彼女のことだ。きっと夢の中でも謝っているのだろう。





「うぅん……

 どのくらい寝たのかは分からないが気分は先程よりもすっきりとし、体に溜まっていた熱も治まった気がする。

「もう体はいいのか?」

 起き上がったフリーナにヌヴィレットが問いかけた。

「うん。大丈夫みたいだ」

 頷けばヌヴィレットがほっと息を吐き出した。心配をかけてしまったな、とフリーナの胸が痛んだ。

「心配はしたが、君が回復したのならそれでいい……あまり自分を責めるな」

 ヌヴィレットが差し出したグラスを受け取る。一口含めば、ひんやりとした水が喉を潤していく感覚が心地良い。

「今日はもう帰ったほうがいいだろう。危機的状況は脱したとはいえ、君の体は休息を必要としているはずだ」

 ヌヴィレットの真摯な視線にフリーナも頷く。もっとたくさん彼といたかったのだが、より心配をかけてしまうのは目に見えている。

「そうだね、帰ろう」

 ヌヴィレットにグラスを返し、ベンチから立ち上がる。フリーナの目の前には当然のように彼の手が差し出された。

……僕もう良くなったよ?」

「だが、万が一ということもある……私のわがままに付き合ってはくれないだろうか?」

 そう言われて断れる人など少数だろう。まして、相手があのヌヴィレットであるなら尚更だ。

「そこまで言われたら、淑女として断るわけにはいかないね」

 ヌヴィレットがこちらを気遣うための言い方に、おもわず頬が緩んだ。
 謝るのもいいけど、こういう時に言うのはもしかして――

「ありがとう、ヌヴィレット」

 フリーナの言葉にヌヴィレットは暫し呆然としたあと「どういたしまして、フリーナ殿」と言って目元を和らげた。