はるれに
2024-07-07 22:40:46
923文字
Public #SS(1〜30)
 

見る


 あいつが誰かと話していて廊下ですれ違うとき、或いは何騎か集まっているのを目撃したとき、気付くのは向こうが先だった。
 視線を向けたのはオレが先でも、あいつがそれに応えて今気付いたとでもいうように目線が一瞬交わされても、絶対に違う。先に見ていたのはあいつだ。
 首筋に見られている視線を感じる。
 見ている。ただそれだけだ。殺意でも込めてくれればこちらとしても応戦できるが、意識すら乗っていないような視線。けれどオレを見ている。
 偶然も幾つも重なれば意味が生まれる。あやふやで輪郭すらつかめないそれを考える。
 オレがあいつの若いオレだからだろうか。ハイネックの上から付けた装飾を弄る。オレだって、槍も持たない年食ってやけに落ち着いたオレが同じ空間にいるのはどうにも妙な気分だ。同じ霊基を無意識に追っているだけかもしれない。オレの方が能力値が劣っているようで気に食わないが……
 は、っと下に視線を向けると、あいつがたまに連れている白い狼が一匹足元にすり寄ってきていた。
 可愛い。
 周囲を確認するもサーヴァントや人の気配はない。
「お前ひとりか?」
 獣好きが疼き、しばらくかまってやったが持ち主は現れない。まあ送り届けるくらいしてやるか。

「キャスター、入るぞ」
 狼を連れてキャスターの部屋に行くと、ベッドでもう一匹の狼と寝ていたキャスターが起き上がって欠伸をした。
「なんか用か……? あれ……お前勝手に出てったら駄目だろー」
 オレが連れてきた狼がキャスターに飛びつく。キャスターはわしゃわしゃと狼を撫でてやっていた。オレはそれを見届けて、じゃあ帰るかと踵を返す。
「あ、連れてきてくれてありがとな」
 腕を引かれて振り返るオレに、キャスターは狼と同じくわっしゃわっしゃとオレの頭を撫でた。
「ちょ、キャスター」
 キャスターの指が、くしゃくしゃになるオレの髪の間を滑る。
「あ」
「あ?」
 声を上げたキャスターは、間違えた、と小さく呟き、オレを無言で部屋から押し出してドアを閉めた。
……は?」
 少し焦った声色は、オレが聞きたかったものだと遅れて気付く。オレは閉じたドアを愕然と眺めた。