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花人
2024-07-07 20:57:59
4887文字
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零英
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零英 彦星様へ、愛をこめて
七夕。両片思いの零英が、(ES1年目軸の)七夕祭前に部屋で互いの願い事の話をする話。
※セ○レ前提。
※ちょっとえっち?なのでR15かも
※セブンブリッジの内容と矛盾してるかもしれません。捏造です。
※誘い受/受け優位っぽいところがあります
「のう。そういえば、天祥院くんって何か願い事とかあるのかえ?」
黒いベッドの上に寝転がった零が、英智の背に話しかけてくる。唐突にふられた話題に一瞬頭を回転させると、英智は準備をしていた手を止めて振り返った。
「
……
七夕の話かい?」
「そうじゃ。さすが、察しが良いのう」
零は頭の下で手を組みながら、クロスした長い足の指先をプラプラと揺らしている。自分の足の指先から目を離さないまま答える彼に、英智は「別に」と口を小さく開けた。
「今日は7月7日だからね。容易に想像はつくだろう。何故急にそんなことを聞いてくるのかは知らないけれど」
「なに。特に深い理由は無いぞい。ただの雑談じゃよ、雑談。まぁ強いて言えば、こういう時でもないと聞けないからかの」
「別に聞く必要もないだろう」
「いや。
……
なんかこう、気になるじゃろ。大抵のことは財力と権力で叶えられるおぬしにも、何か叶えたい願いがあるのか。現時点で叶っておらぬことがあるのか、と言い換えても良いのかもしれぬが」
黙って腕を組みながら唇に指を当てる英智を一瞥すると、零は人差し指を立ててくるくると回した。
「やっぱりあれかえ?『ESがこれからも発展しますように』とかかえ?」
「
……
何だっていいだろう」
「そうやって謎めかされると余計に気になるのう。なんじゃ、言うのが恥ずかしいのかえ?別に他の者には言わぬぞい」
「ふふ。君の『他の者に言わない』なんて信じられるわけないだろう。それより、人に何かを尋ねる時はまず自分が答えるべきではないのかい?」
鉄壁の笑みを浮かべる英智に、零は「ほう」とニヤリと笑った。
「なんじゃ。おぬし我輩の願い事が聞きたいのかえ?」
「いいや。君の願い事なんて興味もないけれど。人に何かを尋ねるのなら、まずは自分から話しなさいという話をしたいだけで、」
「ふむ、我輩はそうじゃな
……
」
長くなりそうな英智の話をさり気なく遮ると、零は腕を組みながら己の顎に指を添えた。
「『天祥院くんが自分から積極的に我輩のことを求めてくれるようになりますように』かの?」
おちゃらけた様子でニヤニヤと笑みを浮かべる零に、英智は「はぁ」と大きく溜め息をついた。
「君に尋ねた僕が馬鹿だったよ」
「なんじゃ。叶えてくれぬのかえ、彦星くんや」
「僕は彦星ではないのだけど」
「織姫が良かったかえ?」
「そういう問題では、」
反射的に言い返そうと口を開きかけて、英智はピタリと止まった。
何となく、零のペースに呑まれてかけている気がする。喉の奥でこほんと咳払いをする。
一年に一度しかないロマンティックな逢瀬を模したベガとアルタイルが輝く夜空を愛でる日に、自分に黒星がつくなどあってはならない。自分についていいのは、ユニット衣装の色でもある白星だけだ。
ここは1つ、優しく願いを叶えてやろう。それが白を司る天使としての職責だろう。
英智は妖艶に微笑んだ。
「
……
いや。いいよ。君がそこまで言うのなら叶えてあげよう。今日の僕は機嫌が良いからね」
英智はそう言うと、パーテーションを避け、もったいぶるようにスルリと上に羽織っていた白いジャージを脱ぎ捨てた。ゆっくりと歩を進め、零のベッドの上に左手をつく。そのまま膝を黒いシーツの上にのせると、寝転がる零の身体に静かに跨った。零へ深く体重をかけないように膝で支えながら、腰を下ろして脚を零の身体の横にぴたりと密着させる。
「
…………
」
薄い笑みを顔に浮かべたまま、英智は黒いトップスからのぞく角ばった鎖骨へと静かに指を這わせた。零の紅い瞳が興味深そうにこちらを見つめてくる。英智はそれに構わず、そのまま下るように零の薄い腹を服の上からそっと指の先でなぞっていく。何本もの線を引くように、空気を含ませながらそうっと冷たい肌の表面を愛でるようになめらかに指を滑らせていくと、やがて儚く白い細い指は、零の下腹部へと到達した。
英智は首を傾げた。
「どうかな。彦星様?」
涼しい顔で零の顔を見つめる英智に、零は「良いのう」と笑った。
「いつもそれくらい積極的じゃともっと良いんじゃがの。織姫くんや」
「うるさいね。
……
さて、もう願いは叶っただろう。降りていいかい」
「まぁ待ってくれんか」
零は寝転がったまま英智の腰にスルリと手を回すと、彼の腰の後ろで指を組み、英智を軽く見上げた。
「
……
ほら、我輩は言ったぞい。おぬしの願いは何じゃ?」
一部分だけが密着した身体の下で、零が問いかけてくる。
英智は零の瞳をじっと見た。
紅い瞳は、対面で密着したまま会話するというこの今の状況とは裏腹に、フランクな雰囲気を漂わせているように見えた。単に英智の願い事に興味があるだけで、あまり深い意味はないのだろう。
英智は耳に髪をかけながら努めて冷静に口を開いた。
「そうだね
……
君の言ったとおり、僕は、ESひいてはアイドル業界のさらなる発展に関しては、常に強く願っているよ」
「ふむ。まぁ、そうじゃろうな」
納得したように軽く頷く零を一瞥すると、英智は「けれど」と芯のある強い声を発した。
「これは僕自身の力で叶えたい願いだ。自分の力で願いを叶えようと日々尽力しているのに、横から掻っ攫われたくはないな。姿形もない、いるかどうかすらも分からない神に願うなんてごめんだよ」
「ほう」
「だから、これらは願い事ではあるけれど、七夕で願いたい事かと言われると、答えはNOだね」
「おぬしらしいのう」
零は深く頷くと、「じゃが」と弾んだ声を上げた。
「他にもあるじゃろう。1つくらい。何かこうなったら良いな〜みたいなこと」
身を乗り出すように聞いてくる零は、少し面白がっているように見える。セックスフレンドのそんなものを聞いて何が楽しいのだろうか。相変わらず何を考えているのだかよく分からない。
「うーん」
英智は零の言葉に促されるようにして、唸りながら眉を顰めた。
「そうだね。どうせ叶えてくれないのは分かりきっているから、最初から神様とやらにはあまり願わないようにしているのだけど。
……
でも、もし。もしも僕が何かを神に願うとしたら、僕自身の力では決して叶えられないこと──超常的な力をもってでしか叶えられないことについてかな」
「ふむ、『超常的』かえ」
「うん。
……
例えば
…………
」
考えようとふと天井の隅を見上げて、ふと言葉が止まる。
言葉が出てこない。何かが喉につかえて、詰まって、舌が動かない。
「たと、えば
…………
」
もし。もしも。
白い天井を見つめながら、想像した何かが一瞬で頭を占めていく。真っ暗で、冷たくて、けれどどこか生温かくて、深い、何か。
胸が軋むように痛んで、指先がすうっと冷えていく。英智は唇を横に引き伸ばした。
「あはは」
英智は乾いた笑いを浮かべた。
「何だろう。思いつかないよ」
視線を合わせないように黒いシーツへと目をやる英智に、零は一度目を伏せると口を開いた。
「
…………
天祥院くん」
小さな声で名前を呼ばれる。ぐい、っと手首を強く引かれると、英智の視界はぐるりと90度反転した。
ハッとして視界のピントを合わせると、英智はいつの間にか抱きかかえられるようにして零のベッドへと倒れ込んでいた。零を押し倒すようにしながら、彼と折り重なるように深く深く柔らかいベッドに身体が沈みこんでいく。
「
……
あ、の
……
」
零の胸の上で身動ぎすると、英智は「何だい?」と小さく尋ねた。
「
…………
何じゃろうな」
零は腕の力を緩めると、包み込むように自分の両手を英智の背へと回した。上から下へ、一定のリズムで擦るように手のひらをポン、ポン、と背中でタップさせる。
「
……
ええ、と
……
」
わけもわからず零の腕の中で口をもごもごさせていると、零は英智のすぐそばで自分の心に問いかけるように小さく口を開けた。
「うん。
…………
うん、何じゃろうな」
「子ども扱いしているのかい?」
「いいや。そうではないんじゃが
…………
何でこんなことしておるんじゃろうな。
……
我輩にも、よく分からぬ」
零から放たれる、小さな声。それは鼓膜を伝って、すぐ上にいる英智の耳へと届いた。服越しに触れる零の身体に、英智の虚弱な鼓動はとくとくと微かながらもしっかりと命を刻む。その音に耳を立てながら、英智は零の胸の中で瞳を閉じた。
「
…………
そうかい」
英智は、もぞりと動くと、そろりと零の肩に両手を置き、鎖骨あたりに顔を埋めた。零は英智の後頭部を何度か冷たい手のひらで撫でてくる。子どもをあやすような零の腕は、鬱陶しさすら覚えた。だが、英智は何となく振りほどくことができなかった。きゅっと零の服を掴むと、零はそれに応えるようにして英智の左肩を軽く掴み、そっと抱き寄せた。
静寂。何故こんなことをしているのかも分からないまま身を寄せ合っていると、肩の力が少しだけ抜けていく。英智は吸血鬼のように冷たい手のひらに、どこかあたたかさを感じた。
プルルル。
ハッと夢から覚めるように起き上がると、零も英智の背に回していた腕を緩めた。
何となく気まずさのようなものを覚えながら零から少し離れると、零も遅れて起き上がってくる。零はベッドサイドに置いてある自分のスマートフォンを手に取ると、親指を画面にスライドさせた。
「あぁ、薫くん。うん?おや、もうそんな時間じゃったか。いや、すまんの。時間を見とらんかった。
……
分かっておるよ、星奏館の前じゃよな。すまんすまん。今から行くからそのまま待っといておくれ」
電話相手は、どうやら零と同じ二枚看板の片翼、羽風薫らしかった。英智はそれを横目で見ながらスッとベッドを降り、時計を確認する。
もうこんな時間か。そろそろ暗くなってくる頃だろう。英智は小さく微笑んだ。
今年も、年に一度のロマンティックな逢瀬を祝福する7月7日の祭りが始まる。姿形は少々変化したものの、母校──1年前と同じ場所で、今年も一晩中宴で踊り明かすのだ。
自分もそろそろ向かわなくては。
英智が少し襟を整えると、ちょうど電話が終わったらしい零と目が合った。一瞬互いに目を反らすと、零が頬を掻きながら「天祥院くん」と英智の名を呼んだ。
「我輩達これから待ち合わせて夢ノ咲学院に向かうんじゃが
……
。おぬしも行くかえ?」
「僕は
……
一度ESに寄ってから行くからいいよ」
特にESに行く用事などない。だが、何故か英智の唇は勝手にスラスラと言葉を紡いでいた。英智の顔を一瞥すると、零は「そうかえ」と頷いた。
「
……
なら、じゃあ
……
また」
「うん
……
また」
同室の人間相手にしては、どこか妙な距離感を滲ませながら軽く手を上げる零に、英智も軽く手を上げた。
数秒後、パタン、とドアの閉まる音がして、英智はそっと胸を撫で下ろした。
因縁とはいえ、ただのセックスフレンドに、今更何を張り詰めていたのだろうか。月を纏った夜空のような黒髪が消えていったドアを見つめながら、英智は自分の左肩にそっと右手を置いた。まだ、微妙に残る冷たい零の体温。何故だか、妙に身体がむずむずする。
軽く肩を掻くと、一瞬だけそれが消える。だが、掻くのをやめるとまた妙に身体がむずむずした。何とも落ち着かない。
英智は一度息を吐くと、準備していた荷物を持ち、ドアを開けた。いつもより寂れて頼りなく見えるドアノブ。それを握ると、そこに残った僅かな体温が、英智の手のひらにそっと乗り移ってくる。
毎日顔を合わせる、行き先も帰る先も同じ彦星様をぼんやりと脳裏に思い浮かべながら、英智はドアの鍵を締めると、夢の先へと一歩踏み出した。
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