『みんなあああああ! 元気かなああ!? 今日はこの地域の七夕祭りをレポートするぞお!』
天も割れんばかりの朗らかで豪胆な大声が響き渡る。画面の向こうからは、祭りの実行委員であろう壮年の男性たちの笑い声がマイクに拾われた。その中心で笑うMaM
――三毛縞斑
――を画面越しに見つめ、こはくも口の端をきゅっと上げて笑った。今日は東北からの生放送だ。星奏館でたまたま一人でテレビを陣取ったこはくは、暇やから、そう言い訳を片手に画面を覗き込む。
以前から朗らかではあったが、また随分と穏やかで柔和になった笑顔をカメラに向け、
『さあ行こう! 案内をお願いするのは七夕絵どうろうまつり歴、なんと十年の大ベテランのお父さんだあ☆ よろしくお願いしまあす!』
『よろすくお願いします』
斑の迫力にすこし緊張気味の声が返る。若干の東北の方言の特色が滲むその声は優しく、すぐに斑と打ち解けるのだろうと、こはくにはわかった。
斑は人に心を開くことを最たる苦手なものとして生きていた節がある。少なくともこはくはそう感じていたが、今は心から人を愛し、少しずつだが〝自分も愛されたい〟と願う姿が見て取れて、感じる安堵と喜び。そして少しの優越感。
〝斑はんを変えたのはわしや〟
そうは言わない。口には出さない。しかしそう思わないかと問われればNOだ。少し、ほんの少しだけの独占欲がそうさせる。こはくはまた口の端をきゅっと上げ、まだ丸い幼さの残る頬を染めた。胸に湧くむず痒い感情を抱いて。
『ここにかかっている大きな絵が描かれた灯篭!! これは全部お父さんたちチームが描いたそうだぞお☆』
『そうなんです。それをみんなで百基ほど描いて
……』
『百!? そんなに!?』
『ええ、だから準備期間もね、本当に長いんですよ。みんなで一丸となって描いてね、それで』
『ほほう
……なるほどなあ! 俺も一度大きな絵を描かせてもらったことはあるが骨が折れて
……。それが百かあ
……長年祭りを守る情熱!! すごいなあ!!』
灯篭に想いを込めて美人画を描くという、七夕にしては異色の祭りだった。小さな地域の祭りとはいえ、これは全国区放送でも趣きがあるのではないだろうか。
『おお! もう灯りを灯す時間だなあ
……』
夕方を過ぎれば灯篭の中から光が漏れ、旧盆の星空を幻想が包む。
斑は目を細めてそれを眺め、つられたこはくも同じように目を細め、画面越しのリアルタイムを楽しんでいた。
祭りの喧騒、幻想、しばしの静寂。
光が当たれば斑の目がきらきら光って、こはくは想う。〝綺麗やなぁ〟と。
そんな時だった。
『『『斑さん!!!』』』
大きな声が斑の後ろから響く。
『おお!?』
驚いた斑が振り返ったその先には、小学校五年生だという子供三人が待ち構えていた。
『驚いたなあ☆ 楽しいドッキリは大好きだぞお!』
目を丸くした斑を前にもじもじとはにかんだ子供たちが、
「私たちは、斑お兄さんの絵を描きました!』
ずい、と背後に隠した灯篭を差し出した。
『おお!? そっくりじゃないかあ! ちゃんと髪の毛の編み込みまで描いてくれているなあ! うんうん、ありがとう!! 嬉しいなあ幸せだなあ
……☆』
心の底から嬉しそうに、大きな口を開けて笑う斑につられ、やはりこはくも口を開けて笑う。
「背後の子供の気配に気づけへんぐらい、平和ボケしよったな。ええこっちゃ!」
そう独り言を漏らして。
『あと、後ろ
……後ろ見てください!』
『んん? 後ろ?』
こはくの視線が画面に戻れば、斑は灯篭の後ろに回っていた。そして、息を飲む。途端に画面に大写しになる灯篭の絵。桜色の髪に色白な顔と体。斑と比べてあどけない顔
……覚えがないわけがない。
『あの、みんなでこはくお兄さんも描いてて
……』
『私たち、えと、Double Faceが好きで』
『あっ、MaMも大好きです! でも』
『やっぱり二人で歌ってるのが好きです』
三者が緊張しながらも必死で伝えるその想いに、息を飲んだままだった斑の目が、優しく優しく細められる。画面には場面にそぐわないテロップで『照♡』と写しだされていたけれど。
画面の前のこはくの目も、同じように驚いた顔から、優しく優しく、変わっていく。
『七夕のお願いなんですけど』
『また、Double Faceで歌ってほしいです!』
告げられる声に笑う斑。
『
……だそうだ、こはくさあああん!? 観てるかああああ!?』
突然カメラを掴んだのだろう斑が画面いっぱいに映し出され、
「見とるわアホが! 近い近い!』
思わず漏れた自然体な言葉。
『こはくさんさえよければ! また歌おうなあ!』
その瞬間だった。
『ん?』
画面の向こう。斑に走り寄りホールハンズの着信が鳴り響く端末を渡すスタッフ。カメラに抜かれるカンペには『相棒』の文字。
『もしもおおし! こはくさんかあ? やっぱり観ていてくれたんだなあ!』
「前置きいらん! で? 〝わしさえよければ〟ちゃうやろが! そっちはどうなんや!?」
『ははは!』
「笑とる場合か! さんざん待たせよってからに
……。もう、そろそろええ頃合いやろ」
『そうだなあ』
「わしらのこと、好きでいてくれておおきに」
『ああ、ありがとう。勝手に解散したのに、待っていてくれたんだよなあ
……』
突然の相棒の登場に沸き立つ祭りの会場に、ワイプに抜かれるスタジオの面々。みんながみんな驚いて、笑い、そして優しい眼差しで二人を包む。
「ほんなら出勤、しよか」
『まずはニューディにエントリーシートをだそうかあ! 再就職の契約は必要だもんなあ!』
「そこは素直にすぐ出勤しとけや!」
そしてそこでひと笑い。
誰も彼もが笑顔になった祭りには、ひとつだけ続きがある。
New Release/Double Face
『七夕の夜の恋になぞらえた新曲は、自身初の夏うた! 二人の描く幻想的な曲想に注目!』
その文字が、音楽雑誌とアイドル誌の紙面を飾るまで。そう時間はかからなかった。
fin.
こは斑ワンドロワンライ
【七夕】
60min+4min
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