小椋
2024-07-07 00:13:24
1477文字
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【kiis】獣の自覚

kiis版ワンドロライ開催おめでとうございます!そしてありがとうございます!
BM所属未来if。kiが自覚するお話。
第1回目のお題「蕾(つぼみ)」「快晴」「欲しいもの」をお借りしました。執筆時間は約1.5hです。


 見えた。
 絶妙なタイミングで希望ボールが足元に転がりこんでくる。この上ない機会チャンスを奪い取ったミヒャエル・カイザーは、決勝点を阻まんとする執拗なディフェンスに押されながらも、すかさず蹴撃シュート態勢に移った。
 ディフェンダーとゴールキーパーの合間に見出した一筋の光をめがけて、渾身の一撃を放つ。ただでさえ不安定な体勢であったカイザーは、勢いを殺しきれず戦場フィールドへと転がった。
 混戦状態から生みだされた 皇帝衝撃波カイザーインパクトは、敵も味方も嘲笑うようにペナルティーエリアを切り裂く。そうなることが当然だと言わんばかりの鮮やかさで、ゴールネットへ深々と突き刺さった。
 次の瞬間、試合終了を告げるホイッスルが鳴り響く。
 スコアは2‐1。長らく膠着状態に陥っていたバスタード・ミュンヘンとバーサーク・ドルトムントによるブンデスリーガ最終試合は、若き皇帝ミヒャエル・カイザーによって劇的な終幕を迎えた。
 見ごたえに満ちた試合ゲームの帰結に沸く大歓声の最中で、カイザーは天然芝に背を預けたまま天を見据えた。ここドイツにしては珍しく雲ひとつない青空が広がっている。それを統べる圧倒的な光に向けて、カイザーは高々と拳を突き上げた。
「カイザー!」
 余韻に浸る間もなく視界に影が差す。遠巻きに見守る他者の輪を抜けだして寝転がったままのカイザーを無遠慮に覗きこめるのは、この場にたったひとりしかいない。
 潔世一。青い監獄ブルーロックの申し子にして、希代のエゴイスト。
 昨年バスタード・ミュンヘンへの入団を果たし、今シーズンからトップチームへ合流した大型新人。シーズン後半からは不調に陥ったノエル・ノアに代わって頭角を現し、今試合でカイザーとともにツートップを張るまでに至っていた。
 背後に背負った陽光に負けずとも劣らない、爛々と輝くミッドナイトブルーに目を灼かれる。興奮と賞賛、憧憬と高揚。その両の眼に浮かぶ色濃く激しい感情が、勝利を勝ち取って無防備になった心をまっすぐに貫いた。
 ああ、とカイザーは確かな納得を得る。頑なに閉じていた蕾が、ようやく花開いたのだ。そうしてカイザーは、掴みどころのなかった情動の正体を思い知らされた。
 俺は、この光がほしい。
 再びこの双眸に捉えられるときを、ひたすら待ちわびていたのだと自覚する。
 そうしてカイザーは青い監獄ブルーロックを離れたときからずっと、胸のうちを巣食いつづけていた飢餓を満たす術を知り得たのだ。
「悪くないアシストだったぞ、世一」
 よき。褒めてつかわす。
 そう煽るようにねぎらってやれば、途端に潔の眉間へしわが寄った。悔しさを前面に押し出しながら、掲げたままの拳を固く握りしめてくる。そうして不遜にも引っ張りあげようとするものだから、カイザーはたまらず喉を鳴らした。馬鹿にされていると感じ取ったのか、潔がむっと唇を尖らせる。
 そこに噛みついてやったら、いったいどんな顔をするのだろうか。ひとたび自覚してしまえば、欲望は制限なく膨れあがるばかりだ。
「ほら、行くぞ」
「あいあい」
 不機嫌を露わにした催促に従って、カイザーは素直に身を起こした。意外だとばかりに目を丸くしながらも、潔はセンターラインに向かって歩きだす。
「今日の英雄スターはお前なんだから、しっかりしろよな」
 次は俺が決めてやる、覚えてろよ、とぶつぶつ零し続ける潔の背を見据えて、カイザーは密かに笑みを零す。肉食獣の舌なめずりに似たそれを、見咎める者は誰もいなかった。


小椋@Ogrytk