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おねえ
2024-07-06 23:37:38
4770文字
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星合い
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星合い③
七夕までに1話ずつ書いていけば完成するんじゃねーの?と始めた現パロ(学パロ)くわぶぜの続き。
今日で折り返し!
桑名が言う「俺に彼女が出来て桑名と帰らなくなる日」は結局来ないまま、中学校生活は過ぎていく。
クラスメイトからは「何で彼女作んねーの?」というお節介な質問も何度も受けた。あと告白も。でも最終的に「桑名といる方が楽しいから」という答えに辿り着くしかなかった俺にとって、むしろ何でみんなオツキアイとかするのかがよく分からなかった。
そんな状態のまま俺は中3になり、その年に桑名は高校へと進学した。小学生の頃に抱えたような年齢差による隔たりを感じないと言えば嘘になる。けれど、また同じ制服に身を包めば気持ちは落ち着くんだろう。学ランからブレザーに変わった桑名の制服姿を眺めながらそう信じて疑わなかった。
が、俺らが同じ制服を着ることはなかった。
桑名が進学したのは、県内屈指の進学率を誇る名門校。そして俺は猛勉強の末に凡庸な成績を残す程度の学力。力の差は歴然だった。
それでもワンチャンあるかもしれねえ。そう思って、進路希望調査では第1志望に桑名の通う高校を選択。けれど親には「高校浪人はやめてくれ」、担任には「身の丈を知るのも大事な勉強」と言われ、泣く泣く諦めることとなった。
同じ制服を着ることはなくても、学校の方向が一緒だったので一緒に登校していた。
制服は違っていても同じ時間を過ごすことが出来る。それだけで俺は満たされた気分だった。桑名と同じ制服のやつが近くにいても、桑名が話す相手は俺。なーんてガキみてえな優越感に浸って、学校が違うことへの寂しさを誤魔化し続けた。
高校にも慣れてきたある日、午後から降り出した雨で部活が休みになった。桑名が所属する園芸部も、基本的に雨は休み。つまり今日は一緒に帰れるのでは? 傘も忘れたし入れてもらおう!
そんな浅はかなアイディアが浮かび、俺は帰り道に桑名の学校へ寄り道をした。
そういえば桑名が世話する園芸部の花壇は通りから見えるっつってたっけ? 桑名は雨だとわかっていても花壇の様子を見に行くような優しくて世話好きなやつだということは、長年世話されてきた
……
もとい、隣で見てきた俺ならわかる。俺は学校の周りをグルグルと回り、花壇を探した。
ここじゃねえ、こっちでもねえな
……
。そうやっているうちに、透明なビニ傘を差したデカい男子生徒の後ろ姿を見つけた。
よっしゃ! 桑名見ーっけ!
そう思って声を掛けようとした瞬間、桑名の影に女子生徒がいるのを見つけた。頬を赤く染めた彼女の口は、勇気を振り絞ってある言葉を伝えている。
その言葉が何なのか。理解出来てしまった俺に降り注ぐ雨は冷たい。
俺は黙ってその場を去るしか出来なかった。
雨は、帰る間に土砂降りへと変化していた。
家に帰り着いた俺は、ビショビショに濡れた体を拭くことも制服を着替えをすることもせず、リビングに座り込む。
テーブルの上には親の帰りが遅くなることが書かれていたが、それがかえって好都合だった。今は誰とも話したくなかったから。
分厚い雨雲に太陽が隠された暗い夕方。それなのに電気も点ける気力すら湧かない。俺は膝を抱え、先程の情景を思い出していた。
『桑名くんが好きです』
あの子の口はそう動いていた。深い溜め息と同時に思い出されるのは、中1のあの日、桑名が俺に言った言葉。
『豊前は、ああいうことに興味無いの?』
「ねえよ
……
」
俺は興味なんかない。でも桑名は? いつも俺に尋ねてばかりのお前はどうなんだよ。
お年頃ってやつだし、興味あって然るべしだよな。もしかしたらあんなことを訊いてきたのは、桑名自身が興味があったからかもしれない。
誰かいい人がいたら付き合って、ただの幼馴染の俺とは帰れなくなる日が来るから覚悟しとけっつー意味だったのかもな。
俺にはそんな日は来ないのに。
ザアザアと降りしきる雨の音を聞きながら、己の心と向き合う。
俺が桑名以外と過ごそうと思えない理由。それは
……
。
辿り着いた答えに、俺は首を振る。それを認めたら、何かが壊れてしまうから。俺は桑名の隣にいられたらいいんだよ。
そんな言い訳は、さっき見た光景が全てを壊す。
あの後、桑名がOKしてりゃ、それすらなくなるのか。
「ははっ
……
。なんちゃ、それ
……
」
乾いた笑いと同時に込み上げる想い。俺は、桑名を
――
。
「あ、豊前帰ってたね。部屋の電気点けたほうが
……
」
背後から聞こえた声に、弾かれたように振り返る。
「って、ビショビショやん! タオルと着替え持ってくるからね!」
いつものんびりしている桑名が、テキパキと行動している様をただ目で追った。
勝手知ったるとはこのことか。桑名はタオルと着替えを持ってあっという間に戻ってきた。そして俺の前に跪くとふわふわのタオルを俺の頭にかける。そのままゴシゴシとタオルで水分を拭き取っていった。
その優しさが嬉しくて、失いたくなくて、他の誰かに優しくしてほしくなくて、俺だけの桑名でいてほしくて。タオル越しの体温に、胸の奥が詰まるのを感じる。
「んもう。高校生なんやから。体拭いたり着替えたりくらい
……
」
「あの人と付き合うのか?」
俺からの唐突な質問に首を傾げた後、桑名は思い当たる節を見つけたのか俺を拭く手を止めた。
「見てたの?」
俺は黙って頷く。何で? どうやって見たの? などと矢継ぎ早に質問されたけど、頑として口を開かない俺に桑名は諦めたようだった。
「お断りしたよ。初めて話す子だったし」
あの告白の結末に安心しつつ、断った理由が引っかかってしまう。溢れてくる感情を抑えきれない。
「
……
初めて話す人じゃなかったら?」
「ん?」
「何度も会話交わしたやつならオッケーするのか?」
「どうしたの? 今日はやけに突っかかるねぇ。そんなことより着替え
……
」
「答えろって!」
柔らかく笑う桑名に、強い言葉を返す。俺に譲る気がないことを悟った桑名は、溜め息を吐いた後、ゆっくりと答えた。
「
……
断るよ。一人を除いてね」
一人を除いて。その言葉は告白されている桑名を見たときより、脳みそをガツンとぶん殴ってきた。その言葉の意味が分からない訳ではない。
「そ
……
っか」
絞り出すように出た言葉は、あまりに意味を持たぬ軽い言葉だった。
桑名は恋をしている。世界中に何十億といる人間の中で、たったひとり、桑名にとって特別な人間がいるのだ。その事実にうまく息ができない。
なあ、それ誰? 俺の知ってる人? 俺がいるところとは違う場所で、誰とどんな話をしてるんだよ。学年が違っても、高校が違っても一緒にいてくれる。その事実だけに縋って毎日を過ごしてる俺には、知らないお前が多すぎるだろ。
「豊前
……
?」
俺を覗き込んだ桑名が、ハッと息を飲んだのが分かった。そりゃそうだろうな。
溢れ落ちる涙は、幾つも幾つも筋を作って頬を流れ落ちていった。止め方が分からない。
さっき意識しかけて目を逸らした感情が、ハッキリと輪郭を持った。もう知らぬ振りは出来ない。
――
俺は、桑名が好きだ。
「ねぇ、豊前? どうしたの?」
オロオロする桑名に心配掛けたくなくて、そして胸の内を知られたくなくて、俺は首を横に振る。それでも桑名が心配そうに俺を見ていることに変わりはなくて。俺の涙が止まらないことにも変化はなくて。重苦しい時間。聞こえるのは雨音だけだった。
泣き止まない俺に、桑名の口がキュッと結ばれる。ああ、泣き虫な俺は愛想をつかされるんだな。そう思った瞬間、頬にふわりと柔らかな髪が触れた。
体中を覆う体温に、そして陽だまりのような香りに、俺は桑名に抱きしめられていると気がついた。
「え
……
」
「こ、こうしていれば、落ち着くかと思って
……
!」
桑名らしくない動揺した声。つーか行動も何もかも桑名らしくなくて、何だかつい笑っちまう。
こんなびしょ濡れの奴を抱きしめたら自分も濡れんだろ。そんな迂闊なことする奴じゃねえくせに。合理性も忘れちまうほど、俺が泣いたら困るのかよ。
桑名を困らせておいて嫌な奴かもしんねーけど、俺のことで必死になっているんだと思うと嬉しくて笑いが止まらなかった。
「豊前?」
クツクツと笑う俺を桑名が覗き込む。
いいよ。形は違えど、俺のことが大事なら。それで、いい。満足してやる。
「もうでーじょーぶだ」
桑名の胸をトンと押して身体を離す。
「変なとこ見せちまって悪かった。俺、着替えて
……
」
「待って!」
桑名に手首を掴まれ、俺は思わず動きを止める。
「泣いた理由
……
」
「あー
……
別に? 深い意味はねぇよ」
適当にあしらって着替えてこよう。そう思ったのに、桑名は俺の声が聞こえていないが如く、言葉を続けた。
「
……
もし、僕の思い違いならごめん」
前髪の隙間からうっすら見える黄色い瞳に射抜かれた途端、次に来る言葉が分かってしまう。
――
それは、絶対に言いたくない。
「放せ、桑名」
手を振りほどこうとしたけれど、俺より力が強い桑名の前で無力だった。
「君が泣いた理由
……
それは
……
」
「
……
ッ桑名!」
怒鳴るように名前を呼べば、桑名はハッとしてこちらを見る。そして我に返ったように、俺の腕を放した。
「ご
……
ごめん! 僕
……
」
「いや、俺こそ。でけえ声出してごめん」
俺の謝罪に桑名は首を横に振った。そして、違うんだ、と小さく零した。
「狡くて
……
ごめん」
続いた言葉に俺は首を傾げる。狡い? 何が? 話が見えず困惑していると、俯いていた桑名が顔を上げた。
「勘違いだったら
……
と思うと怖くて、豊前の口から答えを聞こうとした。でもそんなの狡いから。だから聞いてほしい。僕の話を」
すぅ
……
。真っ直ぐに俺を見た桑名が、大きく息を吸う音が聞こえる。そして
……
。
「この世でたった一人、僕が告白を断らない相手は豊前。君だけだよ」
「俺
……
?」
こくん。桑名の首が大きく1回、上下に動いた。
「ずぅっと好きだった。子どもの頃からずっとね。でも男同士だし、なにより豊前にとって頼れる兄弟みたいな存在でいなくちゃって思っていた。僕の気持ちを打ち明けることで、豊前が気持ち悪がってどこかへ行ってしまうかもしれない、そうしたら豊前がひとりで悩んでいるときに手を差し伸べられる人間はいないかもしれない。そう思うと
……
ううん。それも言い訳だ。僕は豊前に嫌われて側にいられなくなるのが怖かった。だからしれっとした表情で君のとなりにい続けることを選んだんだ。でも
……
」
桑名が再び俺を抱きしめる。息が出来ないくらいに強く。
「自惚れていい? 豊前が泣いた理由。違うなら突き飛ばして逃げて」
そう言うと桑名はいくらか腕を緩めた。互いの体の間に、僅かな空間が生まれる。それが何だか寂しくて。俺は桑名の背に手を回すと、隙間を埋めるみたいに力いっぱい抱き締め返した。
「自惚れじゃねえよ」
冷たい雨で冷やされた体が桑名の体温で温められていく。ああ、そうだ。この体温がずぅっと欲しかった。ガキの頃からずっと。俺だけの桑名でいて欲しかったんだ。
「俺も好きだ。桑名のことが」
俺の返事を受け入れるように、桑名が力強く抱き締め返してきた。
「本当にいいの? 離してあげないよ?」
「ぜってー離すなよ。俺が遠くへ行っちまわねえようにな」
柔らかく笑った桑名の顔が、ゆっくりと近づいてくる。早まっていく自分の心臓の音に気がつくよりも先に、互いの唇が重なり合った。触れるだけの拙いキス。でも今の俺たちには精一杯で。
ふたりでしか作り出せない幸せの味を、何度も何度も分け合った。
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