Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
せつが
Public
Clear cache
7/7伊剣ワンドロワンライお題「ポニーテール」「夏の始まり」
ポニテセイバーにわいた虫の話し。ちゃんと伊剣になる。
ベタなネタだがやらないといけない気がした。セイバーの衣服がちっともわからん。
長屋に2箇所ある風鈴は金属製なんですが、なんのためにあるのかわからないまま書いた。
魔除けかな……慶安四年だと風鈴は夏の風物詩とまではいかなさそうな予感。むしろ鈴虫飼ってんのか?
なのでそこはなんちゃってで読みねぇ。
pixiv掲載版にはセイバー視点を追加しています。
「あっつい! あっついぞイオリー! なんとかならんかこの暑さ!」
セイバーは盛大にボヤきを放つと、長屋の縁側でどさりと仰向けに倒れた。
晴れた青空を見上げたまま団扇であおぎ、自分に風を送っている。
軒にぶら下がる風鈴が風に煽られ、ちりんと小さな音をたてた。
小暑に入ってからというもの、江戸はすでに酷暑の様を見せている。
七夕を目前に
長雨
ながめ
の時期が明けたのはいいが、そこからがまぁ暑かった。
日中は雲ひとつなく日が照りつけ、かと思えば突然雷雨になることも。
暦の上ではとうに夏だが、実際はこれからが暑さの本番。だのにすでにこの暑さでは、先が思いやられようというものだ。
セイバーはサーヴァントだというのに暑いと嘆き、障子戸を開け放った縁側で、たらいに水をはり足を入れては涼んでいる。
水はすぐにぬるくなり、突っ込んでいれば多少はまし、という程度だ。
足首まである股引きをまくり、さらに袴まで引き上げて膝まで露わになっている。
思いのほか白い素肌が目に入り、伊織はつと視線をそらした。
今日は伊織も袴は着けず着流しのままだ。
写本の内職中ゆえ文机に向かってはいるが、いくらもすると手にも汗をかくので
度々
たびたび
休みを入れている。
「サーヴァントは暑いも寒いも関係ないのではなかったか?」
長雨入り前のいつぞやに、暑い日が数日あったが、あのときのセイバーは汗ひとつかかなんだ。思った伊織は疑問を呈した。
「まぁそう云うな。せっかく喚ばれて現界したんだ。エドの季節を楽しみたい時もある。今はその時というわけだな!」
「ほう? 興味があるのは食い物や景色ばかりかと思ったが。ならば暑さも楽しんでみてはどうだ?」
「おうとも、楽しんでいるぞ! 楽しんでいるからこそボヤいている。このボヤきも暑さゆえというものだ」
セイバーは笑顔でそう云うが、次の瞬間笑顔は崩れ、疲れた顔で暑いと嘆いた。
いつもは着ている水干状の羽織は脱いで、薄い
単
ひとえ
のような衣一枚。身につける装具も外してこれである。
どんなに楽しんでいても暑いことには変わりはないようで、ばたぱたとあおぐ団扇の勢いが増していく。
「首がなー
……
暑いのだ。汗でな、襟元の髪がまとわりついて鬱陶しい。いっそのこと髪を切ってしまいたい
……
」
セイバーはぼんやりとしたまま、誰に聞かせるでもなく口にした。
その編んだ髪は長く黒々として、今は畳の上に縄のように横たわっている。
たしかにこれでは暑かろう。
「髪を上げてみたらいいんじゃないか? 鄭のところのアーチャーみたいに」
涼しいかどうかはわからんがと、ひと言つけて提案すれば、セイバーはがばりと起き上がり
「それだ!」
と目を輝かせた。
そこからのセイバーは早かった。
伊織から髪紐を借り受け三つ編みを
解
ほど
き、手でほぐしてはひとつにまとめ、頭の高い位置で結う。
しかしなかなかどうして、これがどうにもうまくいかない。
なにしろ髪が長く総じて量も多いのだ。ひとつに束ねるだけでもひと苦労で、その髪を高い位置へと持ち上げるのも難しい。
よしんば持ち上がったとて、片手で髪を押さえつつ、紐を巻いてしっかりと結ぶのは至難の業だった。
「ぐぬぬ
……
なんだこれは! ちっともうまくいかん!! もういい! このままで過ごす!」
案の定うまくはいかず、セイバーは根をあげて再び縁側に寝転んでしまった。不貞腐れているのだ。
結いかけの髪はもつれ、絡み、もわもわと綿のようになっている。
なにごとも器用にこなすセイバーだが、どうかすると小さな癇癪を起こして投げ出すことがあった。
その
様
さま
を見た伊織は懐かしさを覚えた。
同じなのだ、幼きころの妹と。
たしかあのとき妹も、自分で髪を結うのだと張り切っては、できずに泣いて放り投げていた。
それを見ていた己がどうしたかなど、考えなくともよくわかる。やることなどひとつしかないのだ。
宮本伊織は小笠原カヤの兄なれば。
見かねた伊織は、しかたがないなと笑みをこぼすと内職の手を止め、セイバーに向き直る。
「どれ俺がやろう。セイバー、髪紐をよこせ」
伊織はそう云い、起き上がるよう促した。
「イオリがか? 髪結いなどきみにできるのか?」
「なにを云う。師匠と暮らしていたころは、カヤとも一緒にいたのだぞ? せがまれて髪のひとつやふたつ、結ったことは幾度とある
――
ごほん。これでも
歴
れっき
とした兄なるぞ。貴殿はこの私めに任せ、ゆるりと過ごされるがよい」
戯
おど
けた様でそう告げれば、セイバーは目を丸くしたのち盛大に吹き出した。
「あはははは!! これは然り、これは然り。そなたは妹御のいる兄であったな。ならば髪結いもうまかろう。うむ、任せるぞ!」
面白がって芝居の調子を合わせると、伊織に背を向け座り直した。
先ほどまでのむくれ顔はどこかへ消えて、あっという間に上機嫌だ。
このくらいで機嫌が治るなら安いものだと、伊織は櫛を用意する。
「ほーん、櫛とは。イオリの家で見るとは思わなんだな」
「なにを勘違いしているかはわからんが、これはカヤの物だぞ」
櫛はカヤが置いていったものだ。
その時はいらぬとはねたが、ここで出番がこようとは、巡り合わせとは不可思議なものである。
「触るぞ」
「うむ」
伊織はセイバーの背後に膝立ちになり髪に触れ、
梳
けず
る。
絡みついていた髪は少し櫛を入れただけでするりと解けて、綿のように絡まっていた部分も、幾度か
梳
けず
れば元のとおりに戻っていった。
もとより素直な髪なのだろう。触れた髪は張りがありつつしなやかで、濡れたような光沢があった。いつまでも触れていたくなる翠の黒髪とは、こういうものを云うのやもしれぬ。
「ふぅー。人に髪を
梳
けず
ってもらうというのは、
何時
なんどき
も気持ちのいいものだな」
セイバーは目をつぶり、赤子が出す喃語のような声をあげては、うっとりと感触を楽しんでいる。
伊織は艶やかな翠髪をひとつに束ね、高い位置に持ち上げる。
溢
こぼ
れる後れ毛をすくい、まとめて、櫛で
梳
けず
るを繰り返してゆく。
当然ではあるが、髪を上げれば普段は見えぬ、細いうなじが露わになる。
剣を振るう立場ゆえ、相応に肉がついている。だがそれでも、伊織のものよりずっと細くてなよやかだった。
血潮の朱が透けているような肌はしっとりと汗で湿り、すくいきれぬ後れ毛が張りついてなんとも
艶
なま
めかしい。
うなじから続く肩の線も、
身体
からだ
に沿った単のせいかはっきりと浮かび上がり、己との違いを意識してしまう。
いつもは隠されたところが剥きだしになり、伊織は目を離すことができなくなった。
信頼しきって身を預け、首を差し出した状態のセイバーから、喃語に混じってたまに「んっ」だの「は
……
」だの、色ある吐息が漏れるのがまたいただけない。
こうなるとどうしても、よからぬ思いが頭をもたげるというもの。
このままではよろしくないと、伊織はそこから剥がすように目をそらし、束ねた髪を紐で括った。
解けぬようにきつく結び、できたぞと声をかけようとしたところに、ぶわりと風が吹いた。
縁側から室内へと吹き込むその風は、中の熱気をかき混ぜ飛ばし、セイバーの長い髪をも攫ってゆく。
束ねた髪はさらさらとなびき、翠の紗のように軽やかに舞った。
そして背後に立つ伊織のもとには、翠の黒髪だけでなく、セイバーの肌の香りが届いたのだ。
造り物かと見紛うほどに整った容姿からは想像もつかぬ生の匂いに、伊織はくらりと揺らいでしまう。
一度
ひとたび
揺らいでしまえばもう、湧いた邪念から目をそらすことは叶わなかった。
「
――
セイバー」
「ん?」
伊織を振り返ろうとしたセイバーの肩に手を置き押し留めると、言の葉を続けた。
「セイバー、髪を結った駄賃を貰ってもいいか? なに、たいしたことではないんだが」
「なんだ? 駄賃と云われても私には
――
」
セイバーが云い終わるまえに、白いうなじへと顔を寄せる。
「っ! イオ
――
」
「そのまま」
うなじにかかる己の吐息に、セイバーの身体がびくりと跳ねる。
両肩に置いた手を滑らせ二の腕を掴むと、セイバーはその身を固くこわばらせてゆく。
動かなくなったのをいいことに、晒されたうなじにさらに顔を寄せ、すぅ、とひと息、深く吸うた。
翠髪
すいはつ
の涼しげな香りとともに、生身の人と変わらぬ汗の匂いが漂い
——
たまらず、湿る肌を唇でなぞった。
「よし終わったぞ。これでどうだ?」
セイバーから身を離し、櫛を箪笥にしまう。
今日の内職はここまでと、筆と硯を片付けようとしたところ、うなじに手を当て、痛いほど赤く染まったセイバーと目が合った。
「こんな駄賃とは聞いとらん! よけいに暑くなったではないか! この、このイオリの助平!!」
柳眉を逆立て瞳は潤み、首筋どころか耳朶まで染めてなじってくるが、云われた伊織は痛くも痒くもない。
「そうだぞ、なにを今更。色事に興味がなさそうに見えるようだがな、俺も男だ。そういう心持ちになるときはなる」
伊織はしれっとそう云うと、立ち上がり筆を洗いに井戸端へと足を向ける。
その憎まれ口にセイバーは、あいた口がふさがらなかった。
なんだなんだ、なんなんだ! 助平と云われて開き直るなんて、いったいどういう了見だ!?
予想だにしていない返答に、なんだか面白くなくて
――
裏庭に回ってきた伊織に向かって、べーと舌を突き出し、思い切り顔を
顰
しか
めてやった。
それを見た伊織は声をあげて笑った。
ひとしきり笑って細めた目のままに、伊織はひと言いい放つ。
「セイバー、この悪い虫はな、おまえのところにだけ出る」
セイバーのうなじには、ぽつりと一点、虫に食われたような赤いあと。
夏が始まる碧天の下、風に吹かれた風鈴が、ちりんとひときわ、高い音をたてた。
※悪い虫
――
たちの悪い恋人、またよくない癖など。
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内