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ひがあぎういな
2024-07-06 11:56:52
3686文字
Public
アンデラ小説
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バースデーケーキを買いに
【アン風10】アンディ2020年まで日本に来ない問題を安野先生に助けてもらったアン幼風です。
7月7日、風子ちゃんお誕生日おめでとう~!!
【バースデーケーキを買いに】
「パンパンダのケーキがいい!!」
まぁるい目をキラキラさせた愛娘の可愛いおねだり。
これを叶えねば自分は果たして親と言えるだろうか?なんて大げさな決意で探し回ることになったのは、娘の6歳の誕生日ケーキだ。
パンパンダという、娘の好きなキャラクターはとても人気があるようで、実に様々なグッズが展開されている。そのためバースデーケーキも普通にあるものと思って、用意する約束をしてしまった。
…
そして7月7日、当日に買いに来てしまった。
「申し訳ございません、こちらは予約限定でして
…
」
「よ、予約!?それって今からしたらどうなりますか
…
!」
「ご予約は5営業日前までなので、本日のご予約でしたらお渡しは13日になりますが、よろしいですか?」
「そうですか、いえ
…
スミマセン、また次の機会に
…
」
なんということだ。今までは店頭にあるケーキに名前のプレートをつけてもらったり、手作りだったりで、予約というものを完全に失念していた。
「あなた、どうしましょう
…
ごめんなさい!私がちゃんと調べておけば
…
」
「いやいや僕の方こそ、風子と約束したのに面目ない
…
大丈夫だよ楓さん、ケーキ屋さんはたくさんあるし!」
「雷太さん
…
そうね、探しましょう!」
風子を抱いて不安そうな妻は、良くない事があると自分の不幸体質のせいではないかとおろついてしまうクセがある。慌てて元気付けたものの望みは薄かった。あぁ今日は仏滅だったか
…
。
6歳になった風子は来年から小学校に上がる。節目の一つとして特別な誕生日なのだ、悲しい記憶にはしたくない。
何店舗かめぐって身近なお店もなくなり、いよいよあとが無くなって、少し気後れするような高級感あるパティスリーに足を運ぶ事になった。
「わぁ〜立派なお店
…
普通に入ってもいいのかしら」
「海外の人気店が日本初上陸か
……
へぇ〜」
「すごーい!きれーなおみせだねー!」
「風子、もうちょっと声ちっちゃくしようね
…
!」
「ぁぃ」
おしゃれなシャンデリアもあってお城のような内装だったため、風子はうれしそうなのだが、よくよく考えてみればこういうパティスリーに並ぶ菓子は全て職人が手掛けた逸品だ。流行りのキャラクターのケーキがあるはずも無い。
あわよくば、風子がパンパンダより欲しがるケーキがあれば、と店内を見せて回った。多少の予算オーバーも勉強代として受け入れるつもりなのだが
…
「パンパンダいないね~」
「そ、そうだね
…
」
そうは問屋が卸さないか。風子には「パンパンダがかくれんぼしてるから一緒に探そう」と言って連れ回している。今のところは楽しんでくれているけど、いつまでも嘘は通らない
…
頭を悩ませていると、気付けば風子は1人で先に行って店員さんに話し掛けていた。
「こんにちは!パンパンダいますか!」
「!?待ちなさい風子、ソ
…
ソーリー!!」
彫りが深く、俳優さんみたいな顔立ちの外国人店員さんに日本語が通じるとは思えず、咄嗟に英語で話し掛けたが「日本語で大丈夫ですよ、お客様」と穏やかな声と笑みで返された。
2m近い背丈も相まって勝手に怖い人だと思ってしまった
…
恥ずかしい限りだ。
「何かお探しでしょうか?」
「あぁいえ、その
…
」
「パンパンダのケーキありますか!」
「?当店では取り扱っておりませんが
…
」
「スミマセン
…
スミマセン
…
!」
店員さんは事の経緯を聞いてくれて、「なるほど」と呟くとちらりと時計を見た。気付けばもう16時が来ようとしている
…
幼稚園を出たのが14時過ぎで、本当ならもう自宅で家族パーティを始めているはずだったのに
…
。
「1時間後にまた来られますか?」
「え」
「私でよろしければ、お作りしますよ」
「えぇっ!?本当に良いんですか?」
「誕生日にケーキがないなんて、見過ごせませんから」
「ありがとうございます
…
!!」
飛び付くような勢いで握手をしたのにびくともしないがっちりした腕に、うっかりときめきを覚えた。
************
「さて、お嬢さんが気に入るといいんですが
…
」
そう言って店員さんが運んできたのは、ドーム型のケーキにチョコビスケットの耳を乗せ、クリームにまぶされたココアパウダーがパンの焼き目のようになっているデザインの、まごうことなきパンパンダだった。
「パンパンダ!!」
気に入ったかどうかなんて、風子の表情を見ればわかる。
いつも桃みたいなほっぺが今はリンゴのようだし、いつもピカピカさせてる瞳が今は、ギラギラしてると言っていい。
そして抱き上げた僕の腕の中でビョンビョンはねて、全身で喜びを発揮している姿は、国籍が違おうと違わず伝わったようだ。店員さんは「気に入ってもらえてなによりです」と歯を見せて笑ってくれた。
「本当に助かりました、このケーキおいくらですか?」
「お代は結構です。受け取れない事情がありまして」
「えぇ!?こんな立派なものをタダでいただくわけには
…
」
「実は私、臨時で手伝いを頼まれただけなんで。勝手したこと言わないでくださいね?コレは口止め料ってことで」
チップだけでも
…
と財布を出したが、口の前に人差し指を立てて言われると、これ以上食い下がるのも失礼に思えてしまう。ならばせめて、言葉だけでも礼を尽くそう。
「本当にありがとうございました!ほら、風子も。ケーキありがとうって」
腕から降りた風子はしゃんと立って、深々とお辞儀。お礼を受ける側だと言うのに、店員さんはしゃがんで子どもの目線に合わせてくれた。
「あぃがとーございましたっ!」
「フフ、どういたしまして」
とても微笑ましい光景に、僕も妻もほっこりと見守っていた。のに。
ちぅ。
突然の事に店員さんも目を丸くしていたし、僕自身は一瞬で脳がショートしたみたいに頭が真っ白になってしまった。え、なんで?剃り残しのヒゲがチクチクしたからと、頬ずりすら最近嫌がられてたのにそんな。
楓さんは驚いてはいるが「あら〜」って言うだけだった。そんな大人たちの困惑をよそに、風子は得意げな顔をしている。
「アメリカはキスがあいさつなんでしょ〜しってるよ!」
「
…
よく知ってるね。でも、家族や恋人以外にはキスのフリにしとこうな、小さいお嬢さん?」
「ぅぁ
…
」
chu、と音だけのキスを頭の上に返されて、風子は耳まで真っ赤になってモジモジしている。その様子はとても愛らしいが、父親として心中穏やかとは言えなかった。
「お
…
お父さんは許しません!!!!」
「あなた!?落ち着いて
…
あぁスミマセンスミマセン!」
************
業務連絡用の携帯電話が鳴り、見ればオーナーからだ。
すぐに出ると、老齢の男は開口一番に謝った。
『突然すまなかったな。助かったよ』
「あぁ、お弟子さん大丈夫だったのか?」
『それがあの野郎、仮病だったんだよ。なんでも日本のマンガの原画展に行きたかったとかで
…
明日からは出させるから』
「まぁ病気じゃないなら良かったじゃねーか。人間、風邪でも死ぬ時はころっと逝っちまうからな」
やっと独り立ちした弟子に日本の店を任せたら、日本で流行ってる漫画が好きすぎて暴走したらしい。俺にとっちゃ日本は5年ほど前に居合を習いに来たっきりで、都会の観光はまだだったからまぁ退屈とは無縁だった。
『ハハ!お人好しのお前さんらしい。わざわざ日本まで呼びつけられてよぅ』
「どーせ年中ヒマだ、それにあんたにゃ世話になった」
『すぐに店を任せられるほどの腕になったのに
…
こっちの道には来ねぇんだな』
「どこの道も俺のためにはないさ。全部、今を生きてるやつのためにあるモンだ」
少し寂しそうな声はまるで巣立ったせがれに呼びかけてるみたいで、よしてくれよと髪に手ぐしを通す。俺の方が何倍も年上なのに、どうも老いってやつは未経験だからか、先輩面しにくい。
湿っぽい空気を払拭したくなって、俺は明るい声で返した。
「
…
だが、おかげさまで今日ほどケーキが作れて良かったと思ったことはねぇな」
『ほぉ?』
「なかなか良い思いさせてもらったぜ」
『女か』
「まぁな」
冗談で言っただろう言葉を肯定されて、電話の相手は盛大にむせた。無理すんなよ、お前はもうじーさんなんだから。
俺の事情を知る人間はだいたい死んだか年寄りになっちまった
…
時間の流れは残酷だ。平和な時間が増えて争いで置いて行かれなくなっても、結局は老いで置いて行かれてしまう。
見送る一方の別れは親しい仲ほどキツい
…
いつしか俺は人の名前を覚えるのが嫌になって、今こうして話してる相手の名前すら呼ばない。
きっとこいつも俺を置いて行く。そう頭をよぎる度に願わずにはいられなかった。
(早く俺にもくれよ、俺のための死(みち)を)
HappyBirthday FUKO!!
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