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tokeyukumikan
2024-07-06 01:48:07
3282文字
Public
ヒスムル
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2024.07.05
75の日に間に合わせたかった囚人ヒスムルの小話です。お祝いとは?みたいな乱文
大スランプ状態で書き上げてしまったので拙いし短い。後で消して書き直すかも
微特殊行為(眼球舐め)有り注意
2024/07/05
こいつ、段々アホになってきたんじゃないか?と、地べたに座り込んでタオルで顔を拭っている、目が覚めるほどの柑橘類の匂いを振り撒く男を見下ろしてヒースクリフはぼんやりと思った。
研究対象が逃げ出してしまったので捕まえてほしい、という最早ありきたりな依頼の最中、あっちこっち走り回ってやっとオレンジ色の綿毛のような謎生命体を捕獲し、あとは依頼人に引き渡すだけという段階になってことは起こった。
あ、と小さな声と同時に毛玉が爆発し、謎生物を抱えていたムルソーがオレンジの煙に包まれ見えなくなったかと思えば、周囲一帯に瑞々しい柑橘系の香りが広がった瞬間、熱されたポップコーンのように煙の向こうからオレンジの毛玉たちが弾け飛んで四方に散って行った。先程までの努力が泡になって消えた疲労感にげんなりと元気に走り去っていく毛玉たちを眺める囚人たちに、いつだって無慈悲な案内人は告げた。「一匹残らず確保するように」と。
とくに害もないってファウストも言ってるし本人も平気そうだけど、何か異変が起きたら困るから待機してるムルソーの側にいてあげて欲しいと頼まれたヒースクリフは、めんどくせぇなと思いつつ待機命令を受け入れた。また毛玉を追いかけ回す作業に気乗りしなかったのもあるが、疲れ切った囚人たちの恨めしそうな視線を鼻で笑い、精々頑張れよ?と見送る立場が新鮮で愉快であったのもある。くたばりやがれと中指を立てるイシュメールの背中をロージャが押し、死にかけのイサンの尻を良秀が蹴飛ばしたりしつつ囚人たちが出ていく間、ただ爽やかな匂いに包まれた男は眉間に皺を寄せながら黙っていて、顔面に飛び散った液体を指先で拭ってじっと見つめたかと思えば、それをしれっと口元に運ぼうとしたので後頭部をぶん殴った。ガキかテメェと吐き捨て何故殴られた?と不服そうにしている男の顔面に管理人から預かったタオルを乱雑に叩きつけて今に至る。
短い回想を終えて視線を下方に移すと、いつもはきっちり上げられている髪が束になっていくつか落ちているムルソーが、若干黄色に染まったタオルを口元に押し当てたまま眉間に渓谷を刻んで虚空を睨みつけていた。常に目をかっ開き気味でお世辞にも目付きがいいとは言えない男だが、普段の三割増しくらいに凶悪になった昏い眼差しは、一見すればキレているようにしか見えない。人を既に3人くらい殺ってそうな顔をしている。しかしヒースクリフは『そうではない』ということが何となくわかっていた。
「おい」
「何だ」
「目にでも入ったんかよ」
「うん」
うん、じゃねぇんだよという悪態はかろうじて飲み込んだ。幼い肯定に見合わぬ凶悪な面のまま、ムルソーの白い掌が眇めた目をぐいぐいと擦るので、思わずその手首を掴んでやめさせた。目眩がしそうなほど香る柑橘類に鼻に皺を寄せながら白い顔を覗き込むと、少し赤く充血し水の膜の張った緑色と直に目が合う。ぱちぱちと瞬きを繰り返す平坦な眼差しは、自分の行動を阻害するヒースクリフを不思議そうに見返した。決して察しの悪い男ではないはずなのに、時折もどかしいほど幼い疑問を呈するのは何なんだろうか。カリカリと臓腑を引っ掻く衝動を飲み下し、次第に眩しそうに目を細め出したムルソーの手首を握ったままヒースクリフは言う。
「あんま擦るなよ、ガキじゃねぇんだからさ」
「痛い」
「自業自得だろうが。テメェ、何となくこうなるってわかっててあの毛玉刺激しただろ」
ぱち、と瞬いた昏い緑色を睨みつけるように見返すと、悪びれる様子もなく平然と頷いて「刺激性の液体を噴射し分裂するとは思っていなかった」などと宣うので、ヒースクリフはもう一度目の前の頭を引っ叩くべきか数秒迷って、しかし結局拳を振り上げることはなかった。怒りより呆れが勝っていたのと、どうせ戻ってきたウーティスあたりに拳骨を喰らうだろうと思ったので。
捕獲した毛玉は最初囚人たちにたらい回しにもみくちゃにされていたが、早々に飽きて最終的にムルソーが抱えて運ぶことになった。そこまではいい。故意かどうかは置いておいても、色々と問題を起こしがちな囚人たちの中では比較的まともな人選と言える。問題は、予想外にもムルソーが毛玉に興味を持ったことだろう。
両腕で抱えたオレンジ色の毛玉を見下ろす眼差しはいつもと変わらぬ平坦さだったが、そこに何やら不穏な気配を感じたヒースクリフが横目で様子を窺っていると、ふわふわとした毛の塊を持ち上げて下から覗き込んだり軽く上下に振ってみたりした後、ムルソーは柔らかな毛の中に指先を沈め、そのままもちもちと毛玉を揉み始めた。毛玉には目も口も存在せず、だが何かしらの感情のようなものは存在するのか、不躾な男の指先に翻弄されるようにふるふると体を震わせていた。そのままもちもちと揉み続けていると毛玉は段々と膨張しだし、微弱に発光し始めたあたりで流石に止めようかと思い立った時には既に遅く、「あ」という間の抜けた声と共に毛玉は破裂した。芳醇な柑橘類の香りを撒き散らして。
掴んだ手首を離し、今にも溢れ落ちそうなほど水滴を溜め込んだ目元に触れた。ぐっと目尻を押し上げるように拭うと水滴は簡単に決壊し指先を濡らす。鬱陶しそうにしながらも抵抗せずされるがままの男は、自身に触れるヒースクリフの手をじっと見つめながら口を開いた。
「アロマオイルだ」
「あん?」
「『触感と香りによって日々のストレスを軽減する自立歩行機器』の試作品らしい。餌の代わりに付属のアロマオイルを補給し、刺激や体温に触れるとそれを散布する機能がある」
「それが何で脱走して分裂して爆発してんだよ」
「本来登録者だけの生命反応を追うはずが、生き物全般に反応するよう設定してしまい命令系統がショートしたようだ。分裂と爆発の原因は知らない、説明されていない」
「クソか?」
「害はない」
「おぅそうかよ目ん玉やられてべそかいてるくせに」
ヒースクリフの誇張された揶揄にムルソーの眉間の渓谷がより深まる。ムッとしている、わかりやすく。事実ではないと言いたげなその様子を鼻で笑おうとしたら「泣いていない」と思った通りの抗議が飛んできて思わず吹き出しそうになった。
笑いを噛み殺すヒースクリフを見上げる視線は平坦で揺らぎない。静かに凪いでいて、そこに恥も見当たらなかった。いや少しは恥じろ、今の自分の惨状が見えてねぇのかと思いつつヒースクリフが顔を寄せても、昏い色をした眼球はちらとも揺れない。その様子にちょっとイラついて、腹の底を引っ掻く衝動に押し上げられるまま、眼前でヒースクリフが口を開いてやっと僅かに見開かれたが既に遅かった。
湧き出す水滴ごと舐めとるように緑の眼球に舌を触れさせた。びり、と舌先に痺れが走るのと同時にムルソーの肩が揺れて、逃げるように半身が引かれたのを腕を掴んで引き戻す。しょっぱい。すこし甘い。そのまま目尻に残った雫を吸い上げ瞼に牙を触れさせてから顔を離すと、何をされたのか把握し損ねたきょとんとした顔で一瞬固まった後、みるみる猛烈に不快そうな渋面に変わっていくのがおかしくてヒースクリフはとうとう声を上げて笑った。舐められた眼球を拭おうと腕を上げようにもそれすらヒースクリフに阻まれて、ムルソーは眉間に特大の渓谷を築きながら言う。
「離せ」
「嫌だ」
「なぜ眼球を舐めた?腹が減ったのか」
「オレンジが食いたくなって舐めたわけじゃねぇよバカ」
「では何のために?」
不快そうな視線に僅かな諦念を覗かせて問うムルソーに凶悪に笑い返して、子供じみた好奇心で自爆した自覚も反省もない堂々としたアホにもわかりやすいようにと、ヒースクリフはごく簡潔に答えてやった。
「躾」
この後捜索を終えて戻ってきた管理人に事の顛末を話したところ、二人ともウーティスに拳骨を食らった。
「いっっってぇ何で俺まで!?!?」
「予想がついていたなら止めろ馬鹿者が!!!!!!」
《正論》
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